第七話 「神器」
闘覇は一階のリビングで腕を組みながら考えて事をしていた。訓練で行き詰まった時にはリビングでシロと話しながら解決策を練ることにしてた。
「このままじゃダメですね。遠距離攻撃を出来るようにしないと。なんかいい方法とかありませんか?」
『いい方法か、難しいね。君の制約から考えて遠距離攻撃といえば何かをぶん投げるくらいしか思いつかないからね。近距離攻撃を鍛えた方が良いと思えるけどね』
「ですよね。でもやっぱり遠距離でも攻撃できるようにしておかないといけないとダメだと思うんですよ。この前も環境適応訓練場で訓練してた時も流砂に埋まってる時に攻撃されてスタート地点まで戻されましたし、あの時に遠距離での攻撃手段を持ってたら結果は変わったと思うんですよね」
『なるほど、今回連絡してきたのはそれか。それじゃあ一ついい方法があるけどどうする?』
シロは闘覇の悩みを聞き、解決策を提案してくる。
「その方法とはどんなもので?」
『神器』
シロは闘覇の質問にただ一言、答えを返した。そして更なる説明を付け加える。
『神器を使って君の問題を解決してみてはどうだろうか。前にも説明した通り、神器は本来なら君が異世界に行く時に与えられるものだけど、その空間でも限定的に作り出して使うことができる。ようするにお試し期間という奴だね。このお試し期間は諸々の条件をクリアしないと入らないんだけど、君は全ての条件をクリアしてるから君の要望を聞かせてくれれば今すぐにでも大丈夫だよ』
しかしそこで思い出したかのように、シロはただしと更なる説明を
加える
『あぁ、言っておくけど要望を聞くと言っても限界はあるよ。例えばなんでも願いが叶う能力を持った杖とかそんなものは無理だ。神器に持たせられる能力には限界があるからね。この空間でのお試し期間は神器が何処までの能力を持たせられるのか知るためのものでもあるんだよ』
「………なるほど」
シロの話しを聞きながら闘覇は神器にどんな能力を付けようか考える。しかしこれと言って良いアイデアが浮かばない。そんな闘覇を見てシロは一つのアドバイスをすることにした。
『神器単体で何かをするには限界がある。だから君の力と神器でシナジーを起こせるような能力を付与するのがいいだろうね。例えば君は君と君が触れてるものにしか魔術で強化できないだろ。だから、君たちの世界にある西遊記だっけ?あの物語で出てくる如意棒のような長さを自由に変化させられる武器を作ってそれで君の欠点である遠距離攻撃を補うとか』
闘覇はシロのアドバイスを聞きつつ考えを纏めていく。暫く考えた後に闘覇はシロに質問をした。
「一つ質問をいいですか?」
『うん?なんだい?』
「神器に複数の能力を積む事って出来ますか?」
『可能だよ。リソースの範囲内であればいくらでも能力を積める。そうだな、例えばリソースを100とした場合、一つの能力に100のリソース全てをつぎ込む事もできるし、それぞれ10のリソースをつぎ込んだ能力を十個持たせることもできる。もちろんリソースを多く割けば割くほど能力の効果は上がっていく。例として出すなら神器に回復能力を付けたとして、回復能力に10のリソースを割いた神器と100のリソースを割いた神器なら100のリソースを割いた神器の方が回復能力は高い。場合によっては深い傷を受けてしまい、回復能力に10のリソースしか割かなかった神器では傷を回復しきれずに死に至ってしまい、100のリソースを割いた神器なら回復することができ、生き延びる。みたいなこともあるかも知れない。だから必ずしも複数の能力を積んだ方がいいとは限らない。かと言って単一の能力しか積まないと対応能力に欠ける。だから適切なバランスを見つけることが重要なんだ』
「……バランスですか」
バランスか、と呟きながら闘覇はまた考え込んでしまう。
『後は、リソースを上手く使うことが重要かな。作ったものに合う能力を付与すれば少ないリソースで大きな結果を得られる。例えば何かを斬る能力が欲しいと思った時に、剣の神器を作って切断能力の強化をするのと、棍棒を作って叩いた相手を切断する能力を付与するの二通りの神器があるとして、切断の能力で同じ水準で合ったとしても使うリソースとしては剣の方が少なくなるんだ。要するに作った神器の用途に沿うような能力を積めば、少ないリソースで強力な能力を付与できるって訳だ。新しく能力を付与するのと元々持っている機能を強化するんだったら後者の方がリソースが少なくて済むしね』
「なるほど」
『それに能力用のリソースとは別枠で基本性能に関するリソースもあるからね。これは剣だったら強度や威力をリソースの範囲で調節出来る。威力重視で強度を少なめにしたり、逆に強度重視で威力は普通にしたり、自由に決めて良いんだ。ああ、それと神器に一律で壊れた時の再生能力と所有者が望んだ時に所有者の手元に来る能力が付与されるよ。これは元々付いてて、スペックも一律固定。リソースも基本性能のリソースや能力性能のリソースとは別だから、気にしないで良いよ。ただ、今から作るお試し用の神器にはこの機能は付いてないから気をつけて』
シロからいろんなことを聞き、考え込んでしまう闘覇。そんな闘覇に向かってシロは一つの提案をする。
『とりあえず試してみなよ。この空間だったら幾らでも作り直しが効くからさ』
「しっくり来ないな」
闘覇はシロに言われた通り、様々な能力を付与してもらった神器を試してみたが、これといってピンとくるものを見つけることができなかった。
シロに言われたような如意棒のような伸縮自在の武器も作って貰ったが何かが合わない。
(伸縮自在の武器って方向性は間違ってないと思うんだけどな。それだけじゃなくて、もう一味くらい何かを加えないとダメだよな。とは言ったものの全然思いつかないんだけどな)
神器を作って貰ってからは戦闘訓練場で今までより上のレベルを相手にしても勝てるようにはなっている。だがただ強くなっただけであり闘覇が求めているのとはズレていた。
闘覇が一番良いと思ったのは変幻自在である液体金属の神器であった。大きさや長さを自由に調整でき、そのため相手の戦闘スタイルや闘覇の置かれた状況に基づいて最適な形状の武具に変化させることができた。更にある程度は遠隔操作が可能であり、闘覇しか込めることができない代わりに闘覇の周りから離れても魔力が霧散せず、強化を続けることができた。そのため遠距離や複数の方向からの攻撃を行うことができた。ただし変幻自在であることにリソースを割いているため武器としての強度やその他の能力に割くリソースが不足しており、そこが改善点として上がっていた。
闘覇が神器に求めているのは1に遠距離の相手に対応できる能力、2に自身が使う魔術の強化、3にあらゆる状況に対応出来る汎用性、4に自身以外への魔術の干渉を可能とする能力、であった。
液体金属の神器は1と3は満たしていたが2については強化度合いがイマイチであり、4に至ってはリソース不足で積むことが出来なかった。
(液体金属の神器は良い線いってたけどもう少し欲しいな。変幻自在は諦めて、ある程度の変形に留めて魔術強化に回すリソースの増加と他者への魔術干渉能力の付与をしないと。魔力が霧散する性質が無かったらこの能力の分のリソースを他に削れるんだけどな)
闘覇は弱点である遠距離対策とは別に、支援型魔術の強みである味方の強化や敵の弱体化などを行うために他者への魔術干渉を神器にて行おうとしていた。
方法自体は既に見つけており、神器を己の身体の一部として扱うことで、魔力の霧散を防ぎ、闘覇が触れていなくても魔術で干渉できるようにするというものである。これとは別に魔力の霧散自体をどうにかすることも考えはしたのだが、支援型魔術の威力が下がってしまったため断念したからであった。
この件については後でシロに聞いたところ、闘覇の魔力は制約によって通常の魔力とは変質しており、魔術の威力が高いのもそのため——闘覇の魔術の威力が高いのは複数の原因があり、それぞれの原因が魔術強化に貢献している。変質魔力はそのうちの一つ——であった。魔術の霧散をどうにかするには変質した魔力を霧散しないように再変質させなければならず、再変質させた魔力では再変質させる前の魔力より、使う魔術の威力が下がってしまうとのことであった。
闘覇はそうして悩み続けていたが、ついぞ答えを出すことはなかった。
明後日までには主人公が異世界に行くところまで話しを進めます