第五話 「特訓開始」
魔術の訓練を始めてから一ヶ月が過ぎようとしていた。最初は魔力を動かすのにも手こずっていた闘覇であったが、今はある程度は自分の思うように魔力を動かすことができるようになっていた。
それに伴い、魔術訓練も次の段階に進んでいった。またチュートリアルを終えた時に制約についても説明されたので、それを含めた上で今後の予定を立てていた。
シロにもある程度アドバイスを貰おうとしたものの、自分で考えてくれと言われて断られてしまった。理由を尋ねると理に引っかかるらしく、あまり踏み込んだことは言えないとの事であった。
仕方ないから自分で考えるか、と考え、闘覇は書庫で魔術関連の本をあさっていた。
(さて、どうするか。制約を基点に組み立てていくしか無いよな。
にしても面倒くさい制約を与えられたものだな)
闘覇は与えられた制約は魔術と魔力方面でそれぞれ与えられていた。魔術については支援型の魔術しか使えないようになってしまっており、また魔力についても自分の周りから離れると霧散するのような性質に変化していた。これによって自分以外に魔術で干渉するためには干渉する存在に触れなければならなくなってしまっている。しかしその対価として支援型に関しては制約がない時よりも、強力な魔術を使用する事ができる上に全属性に適性を持つ事ができた。また魔力量についても、通常と比べて膨大な量を溜め込む事ができるようになっていた。
(触れられなきゃ干渉出来ないってのがネックだよな。となると相手に対する弱体化の魔術はほとんど使えないな。他者に対しての強化の魔術も使えない。となると自分や自分の持ってる武器にひたすら強化の魔術をかけまくってぶん殴るぐらいしかできそうに無いんだよな)
支援型の魔術のほとんどはゲームでいうところのバフやデバフといった効果をもたらす魔術である。しかしながら闘覇は自分か自分が触れているものにしか魔術をかける事ができないため、ゲームでいうバッファーやデバッファーのような事は出来ずにいた。
(この制約、支援型の魔術の利点をかなり潰してないか?マジでどうにかならないのかよ、これ)
頭をかきながら闘覇は心の中で愚痴を呟く。どうする事も出来ないとはいえ、制約の不便さに不満を覚えていた。
(まぁ、グダグダしててもしょうがないし、早く術式を作らなきゃな。属性魔術だったら覚魔の書か魔導のオーブを使えば一発なんだが、規格外魔術は一から術式を作らなきゃいけないのがめんどくさいな。その分自由度は高いんだけども)
闘覇のいう通り、規格外魔術は一から術式を構築しなければいけないため、とても面倒くさいものであった。しかも間違った構築をした場合は、望んだ通りの効果を発揮しなかったり、起動すらしないこともある。例えるならば、属性魔術は全ての検査を終えて完成したアプリをダウンロードするようなものであり、対して規格外魔術は一から自分でアプリを作成しなければならないようなものであった。そのため、場合によってはバグやミスなどによって自分の意図しない効力の魔術が発動してしまうこともあり、場合によっては死の危険が出てくることも有る。しかし自由度に関しては規格外魔術の方が上であり、上手く構築する事ができれば属性魔術よりも、はるかに使いやすく強力な魔術を使う事ができる。
取り敢えずは術式を作るのはもう少し知識を深めた後にしよう、と考えながら闘覇は知識を得るために新しい本を取りに本棚に向かった。
今日の分の術式構築のための勉学を終えた闘覇は、書庫を出て戦闘訓練場と環境適応訓練場に行くことにした。この一ヶ月の間、魔術習得のために書庫と魔術訓練場を行ったり来たりしていたため、戦闘訓練場と環境適応訓練場を見れておらず、どんなものなのか確認したかったからである。
戦闘訓練場に入り、コンソールに触れると頭の中にこの部屋の使い方が流れ込んできた。
戦闘訓練場では仮想敵が出現し、その敵と戦う事ができる。敵の強さは1から100までのレベルで分けられており、選択したレベルに応じた強さの敵が出てくるので、その敵と戦うことで戦闘の経験を積むことが目的であふ。敵は毎回変わるため、同じレベルを選択しても様々な種類の敵が出てくるので多くの経験を積む事ができ、更には敵の数を自由に決める事ができることが出来るため、対複数戦の経験もでき、難易度も実質的にはいくらでも上げる事ができた。また戦闘が終了すると受けた傷は全て元に戻るため、仮に致命傷を負ったとしても問題はなく、安全に戦闘する事が可能となっている。
戦闘訓練場の機能を理解した闘覇は試しに使ってみることにした。
最初は様子見をしようと思いレベル1を選択した。——ちなみにレベルを選ぶ時に選んだレベルがどの程度の強さかも表示される。レベル1は野生の狼くらいの強さとのこと——その後、戦う敵の数を入力してくださいという表示が出たので1と入力する。すると小さな光が集って一つの形を作る。
そこには小さなウサギのような存在がいた。それが出現すると同時に10の文字が浮かび上がり、カウントダウンが始まる。
闘覇は思ったより小さいな、と思いながらカウントが0になるのを待った。そしてカウントが0になった瞬間——
「キュッ」
その仮想敵は素早く跳躍して闘覇目掛けて突っ込んでいく
「っ!危ねぇ!!」
間一髪のところで避けることに成功する。早すぎるだろと思い後ろを振り向くと仮想敵は次の攻撃の体勢に入っていた。
「キュキュッ」
闘覇はヤバいと思い、仮想敵の突撃を避けようとするも回避が間に合わずに腹部にモロに攻撃をくらってしまう。
「キュ、キュ、キュ、キュ」
仮想敵は衝撃で転倒した闘覇の腹部に乗っかり、鳩尾付近に対して頭突きをし続け、追撃を行う。
それに対し、闘覇は仮想敵を殴り飛ばして身体の上から退ける。
闘覇はすぐさま立ち上がるとすぐさま横に飛ぶ。一瞬遅れて闘覇がいた場所に仮想敵が突っ込んできた。距離があると真っ直ぐ突っ込んでくることしかしないことに気づいた闘覇は横に移動しながら反撃の機会を窺う。
チャンスが来れば近づいていき、仮想敵を蹴り飛ばす。そして追撃が来る前に距離をとり、避けられるような体勢を作る。それを繰り返しながら闘覇は10分近い時間をかけ、何とか仮想敵を倒すことに成功した。
はじめての戦闘訓練を終えた闘覇は、魔術を覚えるまで、これ以上の戦闘訓練はやめた方が良さそうだな、と考え、戦闘訓練場から出ることにした。
闘覇は次に環境適応訓練場に向かうことにした。環境適応訓練場は最初に来た時には扉の向こう側には行かなかったので、扉の向こう側に何が有るのか、闘覇は楽しみにしていた。
扉を開けるとそこには雄大な自然が広がっていた。上を見れば青空が広がり、眼下には森林や砂漠、そして海などの様々な自然を見る事ができた。どうやらここは山の頂上らしく、闘覇ら取り敢えず降りみようと考え、降りることにした。
山を降りてみるとまず目に入るのは森林であった。数多の植物が所狭しというほど存在しており、さながらジャングルを思わせる光景
であった。そしてある部分から明らかに色合いが変わっており、ここからが境界線となっているというのがハッキリとわかった。
闘覇が境界線を越えると目の前にこの部屋の仕組みが表示される。それを見て闘覇はなるほどと思った。
表示された文章を読んでこの部屋の仕組みを理解すると、早速試してみようと考え、境界線を越えて森林に入ることにした。
(さて、最初は何処まで行けるかな?)
闘覇は森林の中を走り続ける。途中で罠が出てきたり、蛇などの動物が襲ってきたりもするがどうにか避けながら前へと進む。
迫り来る罠や襲い掛かる動物たちを避けながら、どうにかして三分ほど森林を進み続けることに成功する。
そうしていると少し油断してしまったのか、闘覇は罠に気づくのが遅れてしまう。
(っ、ヤバい!)
罠により放たれた矢を避けようとした闘覇だったが、気づくのが遅かったために避け切る事ができずに肩に矢が当たってしまう。
「本当に戻ってきた」
闘覇は肩に矢が当たった瞬間、スタート地点に戻らされていた。環境適応訓練場では襲ってくる動物や罠による攻撃に訓練者が当たった場合、その瞬間に初めの場所まで強制的に戻されてしまう仕組みとなっていた。
そのため前に進むには動物や罠を掻い潜り続けなければならない。ただし、何らかの方法で動物や罠を防いだ場合は戻されることなく進み続ける事ができる。
(なかなかに楽しいなこれは。もう少しやっていこうか)
そうして闘覇は腹の虫がなり、晩飯を食べようと思うまで環境適応訓練場で訓練をし続けた。
申し訳ありません。
予定より話数が伸びました。
来週には異世界に行ってヒロイン登場まで進むのでどうぞよろしくお願いします。