第三話 「異空間での新生活」
闘覇が目を覚ますとそこには一面に草原が広がっていた。空には夜が広がっており、月と星の光だけが辺りを照らしている。地面には一面に果てしなく草が広がり、地面から土の色を消し去っていた。
闘覇が周りを見渡してみると、自らの後ろに高さにして10メートル前後といった二階建ての一軒家が建っていることに気づく。
ここに住めという事だろうかと考えながら闘覇は家に向かって歩いてゆく。扉の前にだどりつくと扉が思ったよりも大きいことに気づく。そしてハッと何かに気づいたような顔をした後、闘覇は自分の体に目を落とす。着た覚えのない真っ白な服が闘覇の目に映るがそんな事はどうでもよかった。どう見ても体が小さくなっているからだ。闘覇は自分がシロが用意した体に入っている事に気づいた。こんな体でこれからの生活は大丈夫なのだろうかと不安に思ったが、ウジウジしていても仕方ないと考え、取り敢えず家の中を確認しようと扉を開ける事にした。
闘覇は開き戸の扉を開けて家の中へと入るとまずは一階の部屋を順繰りに巡っていった。一階は玄関にリビング、台所に和室に洗面所、トイレに風呂があり、良くも悪くも普通の家といったものであった。リビングの机にはダブレットのような物が置いてあり、これでシロと連絡を取るのだろうかと考え、電源を入れようとすると画面は暗いままだった。暫く弄っても何も反応しないのでまだ通信できるとかではないのだろうと判断する。
家での生活については五歳児の体となってしまった今の自分には少し大きく感じる部分もあるが、台や脚立なども用意されているため、体の小さいうちはある程度の不便さはあれど、生活に支障はないだろうと闘覇は結論づけることにした。
一階の部屋を一通り見てみた闘覇は二階はどんな所だろうかと思い、確認をしてみることにした。和室の押し入れを見てみたが中は空っぽだったので二階に寝室があり、ベットもそこにあるのではないかと予測を立てていた。またシロが異空間で知識と経験を積めと言っていたことから書斎のようなものもあるのではないかと予想しており、それについても確認しておきたいと闘覇は考えていた。
階段を登って二階に上がるとトイレに加えて五つの扉があるのを見ることができた。それぞれの扉には書庫、戦闘訓練場、魔術訓練場、環境適応訓練場、寝室と書いてあった。取り敢えず部屋の中を覗いてみようと考え、闘覇は一番近くにある書庫と書かれている扉を開ける。
「………マジかよ」
闘覇は予想もしていなかった光景に苦笑いを浮かべていた。書庫と書いてあるのだから本が沢山あるのだろうというくらいに闘覇は考えていたが扉を開けて中を見た瞬間にその考えは覆された。何故なら、その部屋の大きさは闘覇の予想を遥かに凌いでいたからである。ドアを開けてすぐのところには大きな机と椅子のセットがが十組以上置かれており、その上ソファーまで配置されていた。さらにその奥に目を通すと何十という戸棚に何千冊という書が収められているのを見ることができ、さながら小さな図書館の様相を呈していた。何より、外や一階から見たことにより予想していた部屋の大きさとこの部屋の大きさはだいぶ食い違っていることも闘覇が苦笑いを浮かべた原因の一つであった。
(………何だよこれ、どう考えても外から見た大きさと中の大きさが違うんだが。もしかして他の部屋もこんな感じなのか?)
闘覇は中を歩き回ると、改めて部屋の広さに驚かされていた。扉を開けてみた瞬間にとんでもなく大きい事は気づいていたが、中を見回す事で自分が感じた以上に広いことに改めて気付かされたためであった。部屋を一通り見回った闘覇は他の部屋も似たような感じになっているのか気になり調べてみることにした。
次に闘覇は戦闘訓練場と書いてある部屋に入る。中は真っ白であった。何よりも驚くべきはその広さで縦と横の幅はそれぞれ数百メートルはあり、高さも100メートル以上はあることが一目でわかる。扉のすぐ近くにはコンソールのようなものがあり、これで操作をするのだろうかと闘覇は考える。取り敢えず試してみようかとコンソールの画面に触れてみるがこれといった反応はしなかった。3分ほど色々と試してみた闘覇であったが何一つ反応しなかったため、諦めて別の部屋を見て回ることにした。
魔術訓練場に入って中を見た闘覇が真っ先に思い浮かべた場所は射的場であった。奥行きが広く、奥の方にはよく見るような丸い的から人型のマネキンのような的まで様々な的が配置されている。的に対して魔術を打とうと考えた闘覇だったが、そもそも魔術の使い方をまだ知らないことに気づき、隣の環境適応訓練場に行くことにした。
環境適応訓練場は一見すると倉庫のようであった。様々な用具が置いており、訓練に必要な用具は一通り揃っているように見える。さらに奥の方には金属のような光沢を放っている大きな引き戸の扉が見えた。扉の向こう側が気になった闘覇は扉を開けようとするも、扉はびくともせずに動かなかった。少しの間引っ張り続けたが動く気配を感じられず、闘覇は諦めて最後に残った寝室に行く事にした。
寝室は二階の他の部屋と比べると常識内のものであった。収納棚がついている大きなキングサイズのベットにベットの近くには照明が置いてあり、高級感が感じられる部屋となっている。
家の中の部屋を見て回った闘覇は急に眠気を感じた。もう今日は寝ようと考え、闘覇はベッドの中に入った。
「やぁ、どうだった。新しい体の記念すべき一日目は?」
気がつくと、周りが自分がシロと出会った白い空間になっていた。何故だか闘覇はこれが夢であると言うことを確信することができた。
「どうもこうもないですね。いきなりほっぽり出されて驚きましたし、部屋を見て回りましたけど使い方がわからない部屋や開かない所とかがありましたし、ホントに無茶苦茶ですよ」
「アッハッハ、ゴメンゴメン。でも一通り見てもらったなら話は早いかな?それじゃあ君がいる異空間について説明しようか」
さてと、とシロは一息つくと闘覇に向かって説明を始める
「君には前にもいった通り異空間で5年間暮らしてもらいます。一階部分は特に変わったところのない普通の部屋だからそのまま使って欲しい。ご飯については冷蔵庫に入ってるから好きなだけ使ってくれ。中身については毎日補充されるから心配しなくていいし、あの家の中にある限り中の食材は腐らないから食べたいものを食べてもらって構わない。菌などの体に有害なものは無いから極端な話、生でも食べられるけど、料理して食べたいと思ったら台所の上の戸棚に料理本がある筈だからそれを見ながら料理を作ってくれ。他の生活用品についても必要なものは適宜補充されるから其処の部分についてと安心してほしい。
二階についても基本的には扉に書いてある通りの用途で使われる部屋だよ。空間を拡張してあるから外から見た大きさと実際の中の大きさは違うけど、特に問題はないから安心して使ってほしい。書庫にはあちら側の世界を知る上で必要な本が全て入っているから、それらを使って知識を身に付けてくれ。戦闘訓練場はその名の通り戦闘を行うことができる。ロックは外しておいたからコンソールに触れてくれれば使い方について教えてくれるはずだよ。魔術訓練場は魔術を訓練するための場所だ。詳しい説明はあの部屋にもう一度入れば聞けるはずだよ。環境適応訓練場は環境踏破のための訓練場だ。扉の向こう側に様々な環境が広がっているから適宜使って欲しい。それと寝るときはなるべく寝室を使って欲しい。寝室には回復を促進する魔術が掛かっているからどんな怪我をしてもあの寝室で一眠りすれば治るはずだよ。
説明は以上と言ったところかな」
シロが説明を終え一息つくと急に視界が二重にぶれ出した。闘覇は何が起こっているのかわからずにいるとシロがあぁといった様子で闘覇に話しかける。
「どうやら目覚めが近いようだね。ここからは僕はほとんど干渉できない。通信用の端末で会話はできるけどそれ以外は何もできないと思ってくれ。あの異空間にいる限り何があっても死ぬ事はないからそこは安心していいけど、それ以外は君次第だ。最悪の場合、何一つ経験や知識を積まずに異世界に行くと言うことも可能だ。だがその場合、君は力不足によりに世界の危機に立ち向かう事が出来なくなり、ほぼ確実に世界は滅びに向かうから全力で頑張って欲しい」
視界のブレが酷くなりシロの姿が何重にも重なって見えている。そして次第に意識も遠くなっていく。
「それじゃあ、後は頼んだよ。世界を救う英雄よ」
そして闘覇はシロの言葉を聞きながら夢から覚めていった。