第二十二話 「誰も悪くない」
まだ日の出から5分も立っていない少し寒さを感じる朝、闘覇は全身を暖かく柔らかなもので包み込まれているのを感じながらパチリと目を開けて眠りから目覚めた。
(ああ、そうだ。確か昨日は色々あって学園長の部屋に泊まっているんだった)
昨夜あった事を思い出しながら、改めて異世界に来たという実感を闘覇は得ていた。
それと同時にこれから熾烈な戦いに身を投じていくことも理解していた。
(昨日はどうにか迎撃できたけど、これからはさらに上の敵が来るだろうな。司祭クラスであれなら司教や大司教はさらに強いはず、それに枢機卿や教皇のレベルになって来ると今の俺だと倒すのは無理そうだし、早く強くなる必要があるな)
これからの展望を思い浮かべながら闘覇は、まず顔を洗おうとベットから出ようとしたところで腕がベットとは別の柔らかなものに包まれて動かせない事に気づく。
そういえばそうだった、と昨日の事を思い出しながら布団を捲る。すると、輝夜が闘覇の腕に抱きつきながら眠っていた。扇状的なネグリジェに加えて汗ばんだ肌がその姿をさらに官能的に引き立てていた。
闘覇はあまりの光景に咄嗟に目を逸らしてしまった。
(改めて見ても本当に色々と無防備だなこの人。こっちの気持ちも少しは考えてほしいんだが)
そう思いながらも闘覇は輝夜を起こすためにその身体をゆすった。
「もしもし、起きてください学園長」
「ん、んぅ〜、もう少し」
「もう少しじゃなくて起きてください。そうしないと俺も動けないんですよ」
「………ん、んぅ〜、……あら?と…うは……くん?どうしたのかしら?」
「どうしたのではなく、もう朝です。それと俺の腕に抱きつかれていると動けないので早く起きていただけるとありがたいのですが」
「そう、ごめんなさいね。今起きるから」
そう言って輝夜は闘覇から手を離すと布団から起き上がり、ベットの上であくびと伸びをした。その姿をあまり見ないように目線を逸らしながら闘覇はベットから降りる。
「それじゃあ、俺は先に顔を洗ってきます」
「そう、いってらっしゃい」
「一応、念のために聞いておきたいんですけど、着替えてから出てきてくれるんですよね。まさかとは思いますけどその格好のままってことはないですよね?」
「………モチロンヨ」
「………色々とツッコむのがアレなので無視しますけどお願いしますよ」
「わかってるわ。少ししたら着替えていくから」
「わかりました。では」
そう言うと闘覇は顔を洗いに洗面所へと向かっていった。
闘覇が洗面所へと近づいていくと耳にシャワーの音が聞こえてくる。
(………なるほど)
闘覇は洗面所の奥にある浴室で誰かがシャワーを浴びていると察した。
(状況から考えてシャワーを浴びてるのはアリシアだよな。さてどうしようか)
闘覇はアリシアがシャワーを浴びてると分かった時点で部屋に戻るか、外から声をかけるかの二択となっていた。
(今部屋に戻っても学園長はまだ着替え終わってないだろうし、声をかけて俺が外にいる事をアリシアに伝えてから、シャワーが終わるまで待ってるか)
「おーい、アリシア。今入ってるか?」
「闘覇!ど、どうしたの。こんな朝早くに」
「いや、起きたからとりあえず洗面所で顔を洗おうと思ったんだけど、もしかしてアリシアも似たような感じか?」
「そうね。朝起きたらシャワーを浴びるのは日課なの。それよりもまだ入ってこないでね。もう少ししたらでるから」
「ああ、わかってるよ」
そう返事をすると闘覇はそばにあったソファに寝転がった。そして5分ほど待っているとアリシアが浴室から出てきた。
ホテルで用意されていた白いガウンを着ており、シャワーを浴びていたから顔は少し赤くなっていた。
「ごめんなさい。待たせちゃって」
「ああ、でもそんな待ってないから大丈夫だよ」
アリシアの色っぽさに少し平静を失いかける闘覇だったが、すぐに心を落ち着ける。そして洗面所に向かって顔を洗いに行った。
(やっぱりアリシアも色々とすごいな。これ、これからの生活は大丈夫かな。三年間一緒に過ごすわけだしなぁ)
闘覇が顔を洗い終わって戻ると輝夜がスーツ姿に着替えてアリシアの向かい側に座っていた。
「出てきたわね。とりあえず朝食を取ろうと思うのだけれど、闘覇君はどうする?このホテルは頼めば大体のものは作ってもらえるわよ」
「じゃあ、オムライスで、それからサラダをつけてもらえたら、それもお願いします。それとコンソメスープもいただけたらほしいです」
「わかったわ。それじゃあ頼んでおくわね」
輝夜はフロントに連絡して朝食の手配をした。それが終わった後、闘覇は輝夜にこれからの事について尋ねた。
「それで、今日はこれからどうするんですか?確か昨日の件の報告」
「そうね。とりあえずは昨日の事件の後始末しないとね。その後はアリシア様と闘覇君は、一緒に学園に来てもらえるかしら?少し早いけどディザイアを付与しておいた方がいいと思うの。これからのためには少しでも早く強くなった方がいいだろうから。それでどうかしら?」
(来たな。ちょうどよかった)
ディザイアとはディザイア迷宮学園に入学した者に与えられるものであり、これを付与されたものはゲームのキャラクターのようにレベルアップできるようになったり、スキルなどの力を得ることができた。
レベルアップは迷宮でモンスターを倒すと得られる経験値を溜めることで発生するものであり、レベルアップが発生すると身体能力や魔力量などが上がるとともに覚えられるスキルの数や質などが向上する。
スキルとは魔術と似て非なる特殊な力のことであり、中には強力な魔術を上回るスキルも存在する。戦闘においては魔術よりも使い勝手がいいとされているものであり、ディザイアを持っている者は魔術よりもスキルを使う傾向が強いほどであった。
これらのレベルアップやスキルの存在により、ディザイアを得ると、ディザイアを得る前と比べて格段に強くなることができた。
そのため、強くなるためには迷宮に潜ってモンスターを倒すのが一番の近道であるというのが常識であった。
ただし、ディザイアを付与されないうちに迷宮に潜ってモンスターを倒しても経験値を得ることができないため、経験値を無駄にするだけで——技術や戦闘経験は別として能力的には—— 強くなることはできない。
そのため、基本的には迷宮に潜るのはディザイアを付与された後というのが一般常識であった。
基本的にはディザイアは入学前に行われる事前説明会で付与されるのが一般的であるが、今回の場合は輝夜がこれからの状況を鑑みて特例で闘覇とアリシアの分を前倒しにしようとしていた。
(これから一刻も早く強くならないといけないから、早めにディザイアを付与してもらえるのはありがたいな)
これからの戦いに備えて一刻も早く力を得たい闘覇は輝夜の提案に二つ返事で頷いた。またアリシアもこの提案を数秒とかからずに了承した。
「はい。ちょうど、早く強くなりたいところだったので有難いです」
「わかりました。こちらは問題ありません。どうぞよろしくお願いします」
「わかったわ。昨日の事件の報告をしたら学園に向かいましょう。これから住む事になる私の家も一度見てもらいたいですしね」
「あの、できれば、学園に行く前に病院に向かっていただけませんか?アーシャたちのお見舞いに行きたいのです」
「そうですね。では病院に行ってから学園に行く事にしましょうか」
輝夜が結論を述べると同時に部屋のドアがノックされた。
「あら、朝食が来たみたいね。食事にしましょうか」
「そうですね。じゃあ俺が開けてきますよ」
闘覇はソファから立ち上がると朝食を受け取りに行った。
「あーあ、疲れた。まさかここまで疲れるとは思わなかった。こっちは被害者なのになんでこんなに事情聴取が長いんだ」
「それは致し方ないわよ、襲撃者が浄星再誕教会だもの。でも、思ったよりは早く終わったわよ。輝夜様が手を回してくれたおかげですね」
「それほどでもないですよ。アリシア様。それでは病院に向かいましょうか」
闘覇とアリシアは輝夜と一緒に、昨日の襲撃の報告を済ませる——襲撃者が浄星再誕教会の手の者であったため、それなりに長引いた——とアーシャたちを見舞うために輝夜が運転する車で病院に向かった。
「みんな大丈夫かしら」
「少なくとも肉体的な傷に関しては学園長が完治させたから大丈夫だと思うな。心の方についても多分大丈夫だと思うぞ」
「そう……だといいのだけれど」
「とりあえず、まずはその表情をどうにかした方がいいと思うぞ。そんな顔してたらアーシャたちだって喜ばないだろ。それと謝るのは禁止な、この場合は"ごめんなさい"より"ありがとう"の方がいいだろうしな。今回の件はアリシアたちは誰も悪くないんだから。悪いのはアイツらだし」
「そうね。アリシア様はあまり罪悪感を持たなくても良いと思います。悪いのは貴方ではないのですから」
「そう、ですね。わかりました。頑張ってみます」
(表情が固まってるけど大丈夫か?)
闘覇はアリシアの表情を見ながら大丈夫だろうか、と心配になってきていた。
(このままだと不味いよな。多分あっちもあっちで色々と罪悪感を抱えてるだろうし。誰も悪くないんだけどな)
闘覇はそう考えながら一呼吸すると
(……よし、やるか)
アリシアたちの罪悪感を取り除くための、病室についてからの行動を決めた。
次回は2月17日更新です




