第十九話 「守護の誓い」
アリシアの従者たちは病院へと運ばれていき、病院に入院することとなった。輝夜の魔術で回復しているが念の為に検査をするためであるとのことだった。そして裏切ったクララたちの身柄は駆けつけた警察の方へと引き渡された。魔術を使えないように特殊な拘束具を着けて厳重な体制のまま運ばれていった。
アリシアや闘覇については輝夜が手を回したこともあり、事情聴取などは後日行われることとなった。
そんなこんなで、闘覇とアリシアは一足先に——輝夜はもう少し各所への対応があるとの事だった——輝夜が泊まっているホテルの部屋にまで来ていた。
その部屋はいわゆるスイートルームというものであり、さらにはその中でも一番高い部屋であった。そんなこともあってか中はとても広く、高級感に満ち溢れていた。
(なんというか、色々と凄いなここ。俺が泊まっていた部屋も大概だったけど、ここはその数倍は高級感が高いぞ。一泊いくらだよここ)
闘覇は顔にわかりやすく出るほどに、その部屋の豪華さに驚いていた。一方のアリシアは西大陸でも随一の国の皇族ということもあってか特にそのような事はなく、まぁこんなものかなという反応をしていた。
「えっと、凄いところですねここ」
「そうかしら?こんなものじゃない?スイートルームって言ったら」
「確かにそうかもしれませんね(いや絶対違うと思うぞ)」
「今、心の中では絶対違うとか思ったでしょ」
「いや、その、あはは………」
笑いながらアリシアからの視線を誤魔化す闘覇。数秒ほどジト目でアリシアに見つめられる闘覇であったが、アリシアが視線を切ってソファーに座ったのをみて闘覇も机を挟んで反対側のソファーに腰掛けた。
「改めて、ありがとう闘覇。私を助けてくれて。貴方が来なかったら、多分みんな死んでいたわ」
「いえいえ、当然のことをしただけですよ。感謝されるほどのことではないですよ」
「そんなことないわ、貴方がいなかったらみんな死んでた。いえ、死ぬよりももっと酷い辱めを受けていたと思うわ。だから本当に感謝してるの、みんなの命と尊厳を守ってくれて」
そう言ってアリシアはまた頭を下げる。そして闘覇もその様子を見て、MDCでのアリシアの性格と実際に見て感じていたアリシアの印象の差をなんとなくだが理解していた。
(多分だけど、本当だったらあそこの場面でアリシアたちはそのまま連れ去られていたんだろう。そしてアリシア以外は皆殺しにされていた。それでMDCのアリシアはあんな性格になった。逆に言えば俺がその事を解決した事で少なからず変化が生じているはず)
闘覇の予想は正しく、闘覇が介入していなければアリシア以外は全滅していた。そうなれば、後日アリシアは救出こそされるが精神に傷を抱えてしまう状態になってしまっていた。
「それと、出来れば人がいない時は普通に話して欲しいの。アリシアって、そう呼んで欲しい。あと敬語もやめてほしいわ。闘覇だけ敬語っていうのも変でしょ」
「そうですね。それじゃあ」
そう言って闘覇は一息ついた。基本的に社会人になってからはタメ口で話す相手は家族ぐらいしかおらず、その家族にもほとんど会わなかったため、そういう話し方を半分忘れてしまっているほどであった。
しかも相手が絶世の美女であるアリシアということもあって、闘覇はとても緊張していた。
「こんな感じでいいかな?アリシア」
「ええそうね。そんな感じでお願いするわ」
「わかった。人がいない時はこんな感じで喋らせてもらうよ」
「うん、よろしくね。それで闘覇は何者なの?もしかしてお父様が秘密裏につけてくれた護衛とか?」
「違う、かな。誰かに頼まれたといえばそうなんだけど、それでもほとんどは自分の意思かな?頼まれたと言っても君を守るのはあくまでも手段で頼まれた事は別のことなんだけどね」
「何を頼まれたの?」
「世界を守ること」
「……それ、ホントの事?」
「そうだよ、と言っても多分信じてもらえないだろうけど」
「ううん、私は信じるわ。うまく説明できないけど、闘覇からは悪意とかそう言ったものを感じないもの。それに嘘を見抜くのは得意……だと思うわ。クララたちが裏切る事を見抜かなかったからあまり自信はないけど」
「それはしょうがないよ。アイツらがスパイを送り込む時は特殊な方法を使うからね。具体的に言うと記憶の封印と無意識下への刷り込みかな。普段は記憶を忘れさせつつ、一定の条件に応じて記憶を思い出せるようにしてるんだ。それに命令や指令なんかは無意識下に刷り込んでおくことを合わせることで記憶がなくても実行できるようにしているんだよ。だからアリシアが気が付かなくても仕方ないと思うよ」
「よく知ってるわね闘覇、私はそんな話は聞いた事ないわ」
「まあね、ちょっとした情報源があってね」
闘覇の言う情報源もはMDCの設定集のことであった。
「それで、何か闘覇にお礼がしたいの。何かしてほしいことがあったらなんでも言って」
「それなら、一つお願いがあるんだ。聞いてほしい」
「ええ、なんでも言ってちょうだい。私にできる事なら何でもするわ」
キュッと顔を引き締めてアリシアは闘覇の答えを待った。
「俺を君のそばに置いてくれないか?俺に君を守らせてほしい」
「え?」
想像していたものとは全く異なる答えが返ってきたことに、思わずアリシアは声を漏らしてしまった。
「いきなり言われて驚くのはわかる。それにあんな事があったばかりだから信用してくれと言っても難しいかもしれないけど、それでも信じてほしい。俺は君を守りたいんだ」
「その、ごめんなさい。想像してなかった答えが返ってきたからどう反応すればいいのかわからなかったわ。でも何で私を守ってくれるの?」
「前に言った通りだよ。君が幸せになるべきだと思ってるからだ。それに困っている人を助けるのは当然だろう?」
そう言って笑う闘覇。その顔を見てアリシアは頬を赤く染め上げた。
「そう、かもね。でもそれじゃあ私の気がすまないわ。今はまだ考えつかないけど、いずれ絶対にこの恩に報いるだけのものを返すと誓うわ」
「いや、別に無理してくれなくて——」
「いいの!こういうものは素直に受け取るべきだと思うわよ。闘覇!」
「わかった。その時が来たらありがたく頂戴するよ」
「うん、よろしい」
ふざけた様子でそう言うとアリシアは堪えきれなくなったのかフフッと笑った。闘覇もそんなアリシアを見て釣られて笑ってしまっていた。
「それじゃあ改めて自己紹介といこうかな。ゴタゴタしててできなかったし。俺の名前は神埼闘覇。北大陸から来た。好きな食べ物は刺身とかの海鮮系。趣味は本を読むこと。これからよろしくな、アリシア」
「では私も。私の名前はアリシア・アルブ・オベニアス。オベニアス皇国の第三皇女よ。好きな食べ物はサラダ。趣味は魔術の勉強と本を読むことかしら。こちらこそよろしくね、闘覇」
そう言って二人は自然と手を差し出して握手を交わした。
「何があろうと、誰が来ようと、俺は絶対君と君が大切にしているものを守るよ。アリシア、だから君には笑ってほしい。これまでと変わらずにこれからも」
「ありがとう、闘覇。わかったわ、私は何があっても幸せになって笑顔でいるわ。約束する」
二人の顔には穏やかな微笑が浮かんでいた。そんなところに——
「いいわねぇ。青春って感じだわ」
いつの間にか二人のことを輝夜がニヤニヤとした表情で見つめていた。
「うお!」
「きゃあ!」
二人はすぐさま手を離すと輝夜に抗議した。
「気配消して近づくの本当にやめて貰えません。真面目に」
「輝夜様、このようなおふざけは今後はやめていただきたいのですが」
「フフッ、ごめんなさい。貴方たちを驚かせたくてつい、ね」
そういうと輝夜は闘覇の横に腰掛けて闘覇に向かって話し始める。
「それで、闘覇君は学園に入学するつもりなのよね?全部は聞いてないけど、話しの内容を聞く限り、貴方の目的はアリシア様を守ること、そのためには学園に入らないといけないしね」
「え、ええ、もちろん」
輝夜の顔が近くにあり、闘覇は目線を逸らしていた。一方の輝夜は闘覇の返答を聞くと表情が途端に深刻なものとなった。
「こんな状況に水を差すのは申し訳ないのだけど、闘覇君はこれからどうするつもりなの?」
「どうするとは?」
「だって貴方、このままだと——」
そうして輝夜は
「入学できないわよ?」
最悪の一言を言い放った。
あと五話以内にこの章を終わらせます。今後も読んでいただければ幸いです。




