第十八話 「宿確保(美女の添い寝付き)」
「なるほど、そんな事があったのですか」
輝夜はアリシアの話を聞きながら頷いている。口調からは親しみを感じられるが纏っている気配はまるで違うものであり、この事態を重く受け止めている事が闘覇には理解できた。
ちなみにだが傷を負った従者たちは輝夜の回復魔術によって完璧に治癒され、裏切った従者たちは拘束魔術で厳重に身動きを封じられていた。
アリシアはその魔術のレベルの違いに戦慄していた。魔術に天才的な才能を持っているアリシアだからこそ、輝夜が使用した魔術の凄まじさが鮮明に理解させられていた。
話を聞き終えた輝夜は携帯を取り出すと端末を操作して連絡を取り始めた。
「ごめんなさいね、夜遅くに。少し問題が起きてしまって——」
そうして輝夜はテキパキとした様子で各所に連絡を取り、指示を出しておく。
「警察や救急への連絡はしておきました。もうしばらくすれば到着するようです」
「そうですか。ありがとうございます。輝夜様」
「いえ、当然のことをしただけでございます。殿下。それで、話は変わるのですが私、から一つ提案があるのですがよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか」
「もしよろしければ、学園に入学したら私の家に住みませんか?」
その提案にアリシアは一瞬何を言われているのか理解する事ができなかった。しかしすぐに意識を戻すとその質問の真意を問いただした。
「住む、とはいったいどういう事しょうか?」
「文字通りの意味です。おそらくですがこれからも浄星再誕教会からの攻撃は来ると思われます。そして、いつ彼らが攻撃し来るかは分かりません。なので私の家に住んでいただければと」
「ですが大丈夫でしょうか?確か、ディザイア迷宮学園の校則では、学生は原則として学園にある寮に住む事になっているはずですが?」
「それは理事長の権限で特例措置として対応いたします。幸い、私の家は学園の中にあるので問題はないかと」
「わかりました。どうかよろしくお願いいたします」
そう言ってアリシアは気品のある動作で頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いいたします。殿下」
そう言うと輝夜はアリシアから闘覇へと視線を移す。
「さて、あなたが神崎闘覇くんね。話しはさっきアリシア殿下からお聞きしたけど、貴方の口からも聞いておきたいわ。それに貴方からは他にも色々と聞いておきたい事があるしね」
「別に構いませんが、私はほとんど何も知りませんよ。アリシア殿下が襲われていたのでそれを助けただけですよ」
「なるほど、でもここには結界が張ってあったはずよ。外部へ中の状況を漏らさないための結界がね。それなのにどうして貴方は中の状況を知ることができたのかしら?」
「なぜと言われても、そこは何となくとしか言えないですね。まぁこっちにも色々と事情があると言うか、よくわからないことだらけなので」
「そう、それじゃあ最後に一つ質問してもいいかしら」
「ええ、どうぞ」
すると輝夜は闘覇に向かって踏み出し、二人の息遣いが聞こえる位置まで近づく。そして闘覇の眼をその奥底まで覗きこむかのように見つめながら声を発した
「貴方、一体どこまで知ってるの?」
「………!!」
その表情は嘘は許さないと言う意志が感じられるものであり、闘覇は自分の顔の筋肉が引き攣っていくのを感じた。
「どこまで………と言われると難しいですね。ただ、まぁ大体のことは知ってると思っていただいて結構ですよ」
「そう、大体……ね」
「はい、大体……です」
永遠にも感じられるような時間を味わいながら闘覇は思考を回し続ける。
アリシアをこれからも守り続けるためには学園への入学が必要である。更にはアリシア以外にも守らなければいけない対象や解決しなければならない問題が幾つもあり、それを成すためには学園で自由に動き回れるような状況を作っておかなければならない。
そしてそのためには学園での影響力がある存在に味方をして貰うのが一番であり、学園長である輝夜はまさに絶好の相手であった。
逆に言えばここで輝夜に対して悪印象を残してしまえば、これからの学園生活で援助を受けることが難しくなってしまうため、出来るだけ今のうちに良い印象を残そうと闘覇は考えていた。
「えっと、とりあえず俺…じゃないな、私は敵ではないです。言葉で言っても信じられないかもしれませんが、それでも私は貴方たちの不利益になることはしません」
「そう、分かったわ、信じましょう」
そう言うと輝夜は話を転換する。闘覇はやけにあっさり信じたなと思ったが、変にそのあたりを蒸し返してややこしい事になっても面倒くさいと考え、輝夜の話しを黙って聞く事にした。
「さて、それではこれからの事なのだけど、どうしようかしら、まずはアリシア様の安全を確保しなければならないのですが、アリシア様はこれからどうされるのでしょうか?屋敷に戻られるのですか?」
「それはまだわかりません。ただ、こんな状況になってしまったので屋敷に戻っても安全かと言われると難しいところがあるかと……」
「それもそうですね。それではひとまず落ち着くまでは私が今泊まっている部屋に来られるのはいかがでしょうか?私が護衛につきましょう。結界も張っておけばまた襲撃が来ても対処できるでしょう」
「そうですね。よろしくお願いしたします」
「わかりました。それで闘覇くん、貴方のことなんだけど———」
「あっ、すいません。少しいいですかね」
闘覇は申し訳そうに手を上げながら輝夜に話しかける。
「ええ、何かしら?」
「えっと、その、なんというか。実は私、お金がなくてですね。このホテルで朝飯を食べて以降何も食べてなくて腹ペコな上に今日泊まるところも無くてこのままだと野宿確定になってしまうんですね。それで、その……」
少しばかり言い淀むが背に腹は変えられぬとばかりに闘覇は要件を言った。
「お金を貸してくれませんか?後で必ず返します。いつになるかは分かりませんが必ず、この通りです」
そう言って闘覇は頭を下げる。内心ではこんな事は言いたくないと考えていたが、自らの置かれた状況を鑑みるとここで頼むしかないと考えていた。
「お金、ないの?」
「はい、ありません」
(やっぱり二人ともえぇって顔してるよ。そりゃそうだよな。今だって俺は怪しいのにその上お金貸してくれなんて言い出したらこんな顔にもなるよ。マジで記憶を無くす前の自分をぶん殴ってやりたい)
闘覇は脳内で過去の自分を思い浮かべてぶん殴りまくっていた。
「そう、それではこんなのはどうかしら」
ポンと手を叩くと輝夜はいいことを思いついたといった様子で闘覇に対して提案を持ちかける。
「貴方も今日は私の部屋に泊まりなさい。ご飯については私がホテルに言って用意して貰うわ」
「はい?」
「ええ!」
輝夜の一言に闘覇とアリシアは思わず声を上げてしまった。
「驚くのも無理ないわね。でも大丈夫ですよアリシア殿下。彼は私が見張っておきますから。それにベットは私の部屋にはベットが二つあるので問題はありません」
「も、問題大有りです。ベットが二つしかないなら輝夜様はどこで寝るつもりなのですか?」
「私ですか?私は彼と同じベットで寝ます」
「へ?」
輝夜に指を挿されて呆然とする闘覇。彼は彼女が何を言っているのか数瞬の間理解することができなかった」
「「ええええぇぇぇぇ!!!」」
輝夜の言葉に二人は同時に叫び声を上げた。
「いやいやいや、不味いでしょ。色々と」
「そうです。そんなあってまもないのにふしだらです」
「ふふ、大丈夫ですよ。それに彼には見張りが必要でしょうし」
「で、でも、その、もし彼がその……オオカミとかになったら」
「大丈夫です。私は強いですから」
「そういう問題でもないと思うんですが、一応俺も男ですし」
そう言って闘覇は頭を悩ませる。普通なら断るのだが、断って寝床やご飯まで無しになってしまったら困るので断るに断りきれていなかった。
そんなこんなでしばらく平行線の意見をぶつけていたが、人の来る気配を感じて一旦議論は中断となった。
「詳しくはまた後にしましょうか。人もきたようですし」
輝夜は変わらぬ調子で話を止めた。意見を譲るつもりはないようだった。
「いいでしょう。腰を据えてじっくり話した方が良さそうですね」
アリシアは笑っているがその笑顔には凄まじい迫力があった。
「はぁ、わかりました。詳しい話しは後にしましょう。寝床とご飯をもらう以上、あまりわがままは言うべきではないんでしょうけどいうべきところは言わせて貰いますよ」
そうして闘覇は頭を抱えながらこの難題について頭を悩ませていた。
新年あけましておめでとうございます今年もよろしくお願いいたします。




