第十五話 「救いの手を差し伸べる者」
アリシアはその光景を呆然と眺めているしかなかった。裏切った従者の放った魔術はアリシアには直撃こそしなかったものの、余波で幾分かのダメージを受けていた。
なによりも目の前で起こったことを理解するのをアリシアの心が拒んでいた。
「なにを……してるの、みんな?」
「「「「「…………」」」」」
アリシアの問いかけに、裏切った従者たちはただ黙ったまま、アルバスとグランの近くに佇んでいるだけだった。
「クララ、リーリャ、マイア、ゼーネ、キリシス、みんな、なんで?なんでそっちにいるの?ねぇ!」
「そりゃ、この5人がこっち側の人間だからだろ」
ヘラヘラ笑いながらアルバスが嘲るようにアリシアに言う。アリシアの心はアルバスの言葉を理解することができなかった
「おいおいおい、鈍すぎぜ皇女様。最初っからこの5人は俺たちの仲間なんだよ。今まであんたのそばにいたのはこんな時のためさ」
しばしアリシアを煽るようにしたアルバスだったが、呆然としたままで反応に変化ないのが分かると、つまんなそうに興味を無くし、グランに話しかける
「しっかし、ここで保険を使うことになるとはな。てかさ、今更なんだがここで使って良かったのか?本来ならもっと後で使う予定だったって聞いた気がするんだが?」
「いざという時は使っていいと言われた。その場にはお前もいたはずだ。聞いてなかったのか?」
「あー、聞いてたとは思うぜ。その後に忘れただけで」
「はぁ、まあいい。とりあえずは周りの奴らの無力化と光の巫女の回収をしなければな」
そういうとグランは魔術を放ち、結界を木っ端微塵に破壊する。そしてクララたちに命じてアリシアを拘束させる。それと同時に倒れている従者たちに魔術を放ち、意識を刈り取る。
「いや、離して!」
「申し訳ございません。アリシア様。それは不可能でございます」
アリシアの叫びにクララが答える。その声は冷たく、無機質であった。
「どうして、どうしてよ!みんなあんなに仲がよかったのに。みんなと出会えてよかったって、大好きだって、ずっとみんなと一緒にいたいって言ったのに!!」
「確かにそれは本心でございます。今でも皆様のことは好意的に思っております。アリシア様を尊敬しているのも、できることならずっと一緒にいたいというのにも嘘はございません——」
クララはその後にしかしと付け加え、話を続ける。
「浄星は全てにおいて優先されるのです。なによりも誰よりも」
クララの言葉を聞き、絶望の表情を浮かべるアリシア。クララの言葉に対する周りの反応を見たことで、皆似たような考えを持っていることがわかってしまったからだ。
「ひひっ、改めて見るとスッゲェ美人だよな。エルフの中でもダントツじゃねぇの?やっぱり美女の絶望している顔は最高だよな」
絶望の顔をもっと間近で見ようと、アリシアに近づいていこうとするアルバス、その顔には下品な笑みが張り付いていた。
「ん?あぁ?」
「ま、て。きさ…ま…など……に、アリシ…ア…さ…まは、さわら…せ……」
そんなアルバスの足をアーシャが掴んだ。その顔には死んでもアリシアの元には行かせないという決死の表情が浮かんでいた。
「はぁ、ウゼェよ。おまえ」
足を掴まれて苛立ったアルバスはアーシャをアリシアのところまでボールのように蹴り飛ばした。
「おいおい、なにやってんだよグラン。ちゃんと意識を落としとけよ」
「俺の魔術は決まっていた。この場合は俺を責めるのではなく彼女を褒めるべきだろうな。よくもこんな短時間で意識を戻せたものだ」
「ふ〜ん。忠義のなせる技ってやつかね。いいね、益々壊したくなってくる」
一方、アリシアの近くまで蹴り飛ばされたアーシャは拘束されているアリシアをみて懺悔するかのように呟く。
「アリシ、ア……さま。申し……わ、け…ごさ……い…ませ………ん」
するとアーシャは力尽きたように目を閉じた。
「いや、嫌ァァァァァァ。しっかりして、嘘よ、嘘でしょ!アーシャ、アーシャ、アーシャ!」
アリシアの悲痛な叫びが部屋中を駆け抜ける。アーシャを助けようと近づこうとするも拘束されて動けずに、ただその瞳からは大粒の涙をポロポロとこぼして、目は真っ赤に染めあげることしかできなかった。
「オイオイ、皇女様よう。そんなに泣かなくてもいいんだぜ。寂しくないようにここにいる奴らはみんなそいつと一緒にあの世に送ってやるし、あんたも少ししたら同じところに送ってやるからよ」
ヘラヘラと嗤いながらグランはアリシアとアーシャに近づいていく。
そして気絶しているアーシャに暴行を加え、無理矢理叩き起こした。
「にしても可哀想な奴らだよな、このメイドたち。こんなに美人で腕も立つんだったらいくらでも幸せになれただろうに、災厄皇女に関わったばっかりに此処で全員まとめておたぶつなんだからなぁ!」
そういうとアルバスはアーシャの腹を何度も踏みつける。アーシャは悲鳴を上げてなるものかと歯を食いしばるが、耐え切れずに苦悶の声が響く
「やめて!」
「あぁん、オイオイ何か勘違いしてるみたいだけどな。こんなことになったのは全部お前のせいなんだぜ。みんなお前の近くにいるから死ぬんだ」
悲鳴をあげるアリシアを嗜虐的な笑みで見つめながらアルバスはアリシアの心を折るべく、アーシャに更なる追撃を行う。
「確かこの女はお前の従者の中でも特に仲がいいんだって?」
そういうとアルバスはオラッというと声と共にアーシャの腹を先程の何倍もの威力で蹴り飛ばす。
「アグゥゥ、ギィィアァァ!!」
「やめて、それ以上アーシャに手を出したら許さない!」
「へぇ〜、許さない、ね。だったら——」
アルバスは笑いながらアーシャの肋骨をへし折る。アーシャの悲鳴が一面にこだまし、アリシアの慟哭が響き渡る。
「ほらほら、どうしたどうした。俺を許さないんじゃないのか?なんとか言ってみろよ」
アルバスはアーシャをいたぶり続けながら、アーシャの悲鳴とアリシアの慟哭を笑いながら聴き続けた。
「あーあ、完全に壊れちゃったよ。つまんねぇの。もう少し楽しませてくれないとな」
アリシアの様子を見てそう呟くアルバス。最初はアーシャを傷つけるアルバスに向かって声を張り上げていたアリシアだったが、今はまるで壊れた人形のようにうわ言を言いながら首をだらんと下げているだけであった。
「それでこれからどうすんだ?」
「光の巫女は連れて帰る。だが浄星のためには光の巫女を闇に堕とす必要がある」
「闇に堕とすって言ったって具体的にはどうすんだよ?とりあえず痛めつければいいのか?」
「それではダメだろうな。心を閉ざす事はできても闇に堕とすことは出来ん。闇に堕とすにはありったけの負の感情が必要だ」
「ふむ、それで?」
アルバスの問いかけにグランは答える。
「仲間に裏切られたというだけでも相当に聞いているはずだが、まだ足りん。闇に堕とすには更なる絶望がいる。そうだな、例えばここにいる従者たちを皆殺しにするとかな」
「いいね。それ。俺も手伝うぜ」
「ただ殺すだけでは足りん。できる限り惨たらしく、可能な限りの苦痛を与えて殺さねばならん。まぁ、どのみちここではできんからな、一度全員を組織のところに連れていかければならん」
「それで、どうやって運ぶんだ?この数を運ぶのは辛いだろ」
「問題ない。そのための道具は預かっている」
そういうとグランは影の中に手を入れる。そして影の中から大きめのスーツケースのようなものを取り出す。
「この中に入れればいい。これは空間拡張の魔術を持っている魔導具だ。拡張された大きさは100人は優に入るものだそうだ。全員をこの中に入れることができるだろう」
そしてグランは影を具現化させ、気絶している従者たちを回収していく
すると——
「いや、やめて」
アリシアが傷ついた心を振り絞って声を上げる。
「ん?なんだ起きたのか?まだ寝ていても構わんぞ。正直なところ組織のところに連れて帰るまで寝ていてもらったほうが助かるのだが」
「私を、私を連れて行きなさい。なんだったら契約魔術で縛ってもいい。貴方たちに私の全てを差し出す、だから——」
「ふむ、それは不可能というものだな。コイツらも連れて行く」
「なんで?狙いは私でしょ。なんでみんなを巻き込むのよ。私だけを狙えばいいじゃない」
「なんで?だと、簡単な話だ。それが我らの望みに繋がるからだ。強いて理由を上げるとするならば——」
一呼吸の間を置いた後、グランはアリシアの髪を掴み、その目を覗き込みながら、凄まじい悪意を込めて言い放った。
「お前のそばにいたからだろうな」
さらに、グランはアリシアの心を闇に染め上げるべく追加の口撃を放つ。
「安心しろ。コイツらはすぐには殺さん。ありったけの苦痛を与えながら殺してやる。もちろん途中で精神が壊れないように魔術で治療もしてやる」
ゆっくりと芯まで染み込ませるように
「この世で味わえる苦痛を味あわせるだけ味合わせた後、惨たらしく殺してやろう。この世に生まれたことを、そしてなによりも、お前のそばにいたことを後悔させるほどに、な」
心の底の底まで染上げるように
「そう、これは全て、お前のせいだ。お前のそばにいたからコイツらは地獄を見る。お前の存在は周りを不幸にするのだ」
グランはアリシアに向かって言葉のナイフを刺し続ける。
「私は、わたしは………」
グランの言葉にアリシアの心は崩壊寸前であった。
そんなアリシアの様子を見て、グランは今はこんなところかと呟く。そして、従者たちを魔導具の中に入れようとする。
「よし、では早速——」
その言葉の続きを口にする事はできなかった。何故なら———
壁がいきなり切り刻まれ、一人の男が乱入してきたからである。
「!!」
「おいおい、なんだなんだ」
その男は黒いロングコートを纏った長身の男であった。よく見てみるとコートの一部が解けており、糸となって部屋に広がって行く。見るものが見れば糸には膨大な魔力が込められているのが分かるだろう。
「戦星変奏・散荷のメルキアデス」
グランたちはその一撃により、一人残らず吹き飛ばされた。そして一人吹き飛ばされずにその場に残されたアリシアを男は優しく抱き上げる。
「すまない、遅くなった」
更新が遅れて申し訳ございませんでした。
これからは週一更新とさせてください。
次回は12月23日更新です。
それとこれから用語集を始めたいと思います。本編で技や設定の詳しい説明を全て入れるとテンポが悪くなる上に説明ばかりでつまらなくなりそうなのでそこらへんの説明を後書きでしたいと思います。
【用語集】 戦星変奏
闘覇が作り上げた規格外魔術の内の一つ。神器の使用を前提としているため、神器なしでは使えない。名前は星座を構成している星に関連したものを使っている。現時点での闘覇が使う主要な技である。




