遊ぼうよ
――あれは、小学三年生の夏。
「かくれんぼ、やろうよ」
そんな何気ないひと言で、僕とみっちゃんとテツヤとリョージは神社の境内に集まった。
なんでそうなったかというと、夏休みに入ってから連日のように友達同士でゲーム三昧の生活を送っていたら、お母さんに「外で遊んで来なさい」と家を追い出されてしまったからだ。
とはいえ僕の住んでる地域は結構な田舎で、休みだからといって子どもだけで行ける場所などたかが知れている。生憎とその日は市民プールも休みで、学校の体育館も解放される日じゃなかった。
だから、ちょっとでも涼しい場所を探して神社の境内に……という訳だ。
「えーかくれんぼなんてつまんねーよ。サッカーやろうぜ、テツヤんちボール持ってたろ」
「だめだよ。兄ちゃんがボール持ってっちゃったんだもん」
「ちぇっ、しょーがねーなー」
リョージとテツヤは不満たらたらだったが、みっちゃんは楽しそうに境内をぐるぐる駆け回っていた。
「みっちゃんはいいの? もっと他にやりたいこと、ないの?」
「私はなんでもいいの、みんなと一緒に遊べたら」
「ふうん」
やがてリョージとテツヤも納得したのか、四人でかくれんぼをすることになった。
最初は僕が鬼になって、木の幹に頭をつける。
「もういいかーい」
「もういいよー」
みんなが隠れ終わったのを確認すると、さっそく僕は三人を探しはじめる。
リョージとテツヤはすぐに見つかり、あとはみっちゃんを見つけるだけになった。
だが、どれだけ探しても彼女が見つからない。
「いないね」
「どこに隠れたんだよ、ったく」
「ひとりで勝手に帰ったんじゃねーの」
やがて日が暮れ、心配した大人たちが探してもみっちゃんは見つからなかった。警察が捜索しても、みっちゃんは見つからなかった。
それっきり、みっちゃんの姿をみた人は誰もいなかった。
それから一年後。
リョージが変なことを言うようになった。
「みっちゃんが……みっちゃんが呼んでる……」
「えっ、リョージ君、みっちゃんに会ったの?」
「知らない……でも、みっちゃんが呼んでるんだ……。あそこに行かなきゃ……」
そのままリョージはひとりでどこかへ行ってしまい、二度と見つかることがなかった。
あのかくれんぼの日から、ちょうど一年後の日だった。
さらに一年後。今度はテツヤがおかしくなった。
「なぁ……おれ、変だよ……。みっちゃんの声が聴こえるんだよ」
「それって、リョージ君が言ってたのと同じやつ……?」
「分かんねぇ…。なぁ、おれ怖ぇよ……。リョージみたいになりたくねぇよ……!」
テツヤは酷く怯え、顔を真っ青にして震えていた。
気になった僕は、親や先生に相談してみた。けれど大人たちは「友達が二人もいなくなったから、心に傷を負ったんだろう」としか言わなかった。
そしてあんなに怯えていた彼もまた、家族に何も告げずどこかへ行き、そのまま行方知れずになってしまった。
かくれんぼの日から、ちょうど二年後のことだった。
さらに一年が過ぎた、今年。
僕の耳にも、声が聴こえるようになった。
(ねえ、みんなで遊ぼうよ)
「嫌だ」
(またかくれんぼしよう)
「嫌だっ!!」
日に日に声は大きくなり、僕は自分の部屋に引きこもるようになった。
「(二年前、リョージは“行かなきゃ”って言ってた。きっと神社のことだ……あそこに行っちゃだめだ!)」
そして恐れていた、かくれんぼの日からちょうど三年後の今日。
僕は布団を頭から被り、がたがたと震えていた。
(ねえ、またみんなで一緒に遊ぼうよ)
「いやだっ、絶対に嫌だっ!!」
(かくれんぼやろう)
「誰がかくれんぼなんかするもんかっ!!」
(えー、でも……)
(もう隠れてるじゃない。やっぱり一緒に遊びたいのね)
「――――っ!?」
ドクン、と心臓が跳ねる。
そうだ。僕は今なにをしている?
布団を被って隠れている――!
そのことに気付いた僕は、慌てて布団をはね除けた。
(みぃぃぃぃ――――つけたぁぁぁぁ――――)
目の前に、歪んだ笑顔を張り付けたみっちゃんの生首が浮いていた。