エタる発祥の地へ行ってきた ~エタるの語源を探る~
エタるとは
かつてアマチュアゲーム制作界隈で、スゲーの作ると大風呂敷を広げて人を集めたが、完成にも発表にも至らない「エターナルファンタジア(ETERNAL FANTASIA)」という伝説のゲーム開発プロジェクト崩壊があった。数年後、その参加者が開発裏話を小説として発表し、後書きでそのやりきれなさを「エターなった」と表現した。「エターナルファンタジー」は誤解、「エターナル(永遠)」は後付である。その後、アマチュア小説界隈で「エタる」という短縮形、「(小説が)完結しない」という意味に変化した。
語源に照らせば、一話でも発表した時点で、既に「エタっていない」とも言えます。逆に現在の用法は誤用とも言えるのではないでしょうか。
「小説家になろう」において、エタるエタらないと姦しい。
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「エタる」は、「広辞苑」や「現代用語の基礎知識」とかには(まだ)載っていませんが、ネットで調べてみます。
”エターナる[単語]
エターナル
エターナる(エターなる、エターなった、エタる、等)とは、永遠の未完である。
概要
「エターナル」(英語の形容詞eternal:永遠の、果てしない)を動詞化させた造語。ツクラー(ここでは主にPC用のRPGツクールのユーザー)の間で生まれた。
未完の大作「エターナルファンタジー」からとも。
作者が諸般の事情によりゲーム製作を途中で放棄すること、またはその状態を表す。
ニコニコ動画では主にVIPRPGや幻想入りシリーズで用いられる。ネット上のssでは更新が途絶える事を指す。
原因は様々だが、作者が制作に飽きる、展開が思いつかない、周辺環境の変化(仕事の多忙化、パソコンの故障、病気や事故など)といった事が原因と思われる。大抵の場合、何の音沙汰も無く更新が止まる。”
- ニコニコ大百科
https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%A8%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%82%8B
”エターナる
(ゲーム)
【えたーなる】
RPGツクールなどのゲーム製作を途中で放棄すること。またはその状態。
語源は、ゲームの作成のためにグラフィッカー等を大々的に募集したものの、
製作は遅々として進まず、最終的にはWEBページを閉鎖し投げ出してしまい
ツクール界に伝説を残した「エターナルファンタジー」というゲームの名前から。
(略)
また永遠を意味する英語「Eternal」から、永遠に製作中という意味合いでも使われる。
表記ぶれ
エターなる”
- はてなキーワード
https://d.hatena.ne.jp/keyword/%E3%82%A8%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%82%8B
”エターナル(VIPRPG)
えたーなる
VIPRPGのキャラクター。もしもの神々のうちの一柱。
女性(女神)であるが、中性的に扱う作品も多い。
作品を「エターなる(未完成のまま制作を破棄する行為)」の状態に陥らせるが、悪意があるわけではない。
(略)
エターナルの海(RPGツクールで新プロジェクト作成時に広がっている一面海のマップ)を背中に背負っている。”
- ピクシブ百科事典
https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%A8%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%AB%28VIPRPG%29
この記事は2011/02/21(google判定)
「エターなる」そのものの説明ではありませんが、エターナルがゲーム制作界隈でネタとして扱われていた傍証となります。
「エターナルの海」という言葉が出てきたので調べてみます。
”エターナルの海
(略)RPG製作時に主人公の初期位置が設定されていない場合や、エディットデータが消えてしまった時など、フィールドマップの端、すなわち海のど真ん中(北緯90度)に位置が設定される。よって、いきなり海に放り出されるという状況と未完成or作られていない⇒エターナるという言葉をかけて、いつしかエターナルの海として親しまれるようになった恐怖の代名詞となった。
(略)
ちなみに、エターナルの語源としてはエターナルファンタジーという未完のツクール作品からきているようだ。
ゲーム内容そのものではなく、製作者や未完 に至るまでの経緯がネタになっている、とのこと。”
- ニコニコ大百科
https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%A8%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%81%AE%E6%B5%B7
googleで「期間を指定」で過去にさかのぼります。
2009年には既に使われていた様子。そして発見したのがコレ。
やる夫がRPGツクールで超名作を作るようです 2008年3月7日
https://rss.r401.net/yaruo/site_list/archive_list/8286
このスレによると
”20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/07(金) 11:42:32.42 ID:6jh44P4U0
・一昔前の全盛期(?)のツクール界では
・スタジオディ○スやなんたらハーツという
・「ゲームの内容よりもスタッフの数を競う」という
・無駄とも言える内容争いが勃発していました
・「大作ゲーを一緒に作りましょう!」、
・という文句に弱いドット絵師や楽曲者達が
・多かったのも事実です。”
で、ソレに誘われて絵師として参加した筆者が、大風呂敷広げたリーダーに振り回されたあげく、「発表に至らない」で終わった出来事の愚痴を
”275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/07(金) 14:47:56.50 ID:6jh44P4U0
あーまた今日もエターなっちまった
見てくれた人ありがとう!”
という言葉で締めます。コレが、動詞形「エターなる」の初出ではないかと思います。
この「エターなった」という表現がウケたので、
”377 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/07(金) 15:57:37.43 ID:6jh44P4U0
エターなりそうになったら(略)”
という後書きも追加しています。
作中では「エターナルファンタジー」という表現ですが、「ちょwwwwガチでエターナルファンタジアの元スタッフ!?」という読者のツッコミが入っています。「エターナルファンタジア」の実話を「エターナルファンタジー」と仮名で濁したのでしょうか?
翌日から、同一作者と思われる「やる夫がドット絵師でツクール作品に参加するようです」(2008年3月8日)という投稿もありました。
「エターナルファンタジー」という重要なヒントを得ました。
「エターナルファンタジー」で検索すると、
「18禁恋愛アドベンチャーRPG」
「銀河鉄道999 エターナル・ファンタジー」
などが引っかかります。
「エターナルファンタジー ツクール」
で検索すると、「やる夫wiki」が見つかりました。
やる夫がドット絵師でツクール作品に参加するようです
https://yaruo.fandom.com/wiki/%E3%82%84%E3%82%8B%E5%A4%AB%E3%81%8C%E3%83%89%E3%83%83%E3%83%88%E7%B5%B5%E5%B8%AB%E3%81%A7%E3%83%84%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E4%BD%9C%E5%93%81%E3%81%AB%E5%8F%82%E5%8A%A0%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%A7%E3%81%99
”エター
エターとは、インターネット上の俗語で、制作を途中で放棄すること。またはその状態。やる夫スレにおいては、未完の作品は皆ひっくるめてエターとして呼ぶようなところがあり、詳細は後述する。
はてなキーワードの項目「エターなる」も参照のこと
語源は、ゲームの作成のためにグラフィッカー等を大々的に募集したものの、製作は遅々として進まず、最終的にはWEBページを閉鎖し投げ出してしまいツクール界に伝説を残した「エターナルファンタジー」というゲームの名前から取られている。また、永遠を意味する英語「Eternal」から、永遠に製作中という意味合いで使われる。上記リンクのはてなキーワードにもあるように、語源となったツクール界隈などでは「エターなる」と動詞風に(「エターなった」「エターなって」などと活用する)使われる。
やる夫スレ界隈では単に「エター」、または動詞形で「エタる」「エタった」と言うことが多い。
ちなみに上記の「エターナルファンタジー」に大きく関与していたグラフィッカーがニュース速報(VIP)に建てたやる夫スレも存在する。
⇒やる夫がドット絵師でツクール作品に参加するようです
「打ち切りでの最終回」は一応完結を意味する為、打ち切りとエターは厳密には別物である。
作品がエター化してしまう・エター化させてしまう事自体は、ネット上ではわりとありふれている事例である。”
- やる夫Wiki
https://yaruo.fandom.com/wiki/%E3%82%A8%E3%82%BF%E3%83%BC
おそらくこの説明が最も語源に近いと思われます。
また、こういうblogを発見しました。
”ツクールって言うとエターナルファンタジアの○○○○(ハンドル名)事件(参照:エターナル○○○○大全集)と言うのが印象強いです。
詳しくは書けませんが、2k黎明期に声優やドッター等と大々的にスタッフを募集し、
「俺は監督だ」、「ヴォイスの練習やっとくか」と言った迷言を連発し、
最後には夏風邪をこじらせたと適当な理由でサイト消滅と言う有様。
この事件が「エターナる」の言葉の語源だとか。”
https://blogs.yahoo.co.jp/aigis_8947/11012241.html
(注:現在は”Yahoo!ブログ終了のお知らせ 2019年12月15日をもちまして、Yahoo!ブログのサービスを終了いたしました。”)
重要な証言です。
ここからwebアーカイブ(消えたサイトの保存庫)へのリンクを発見しました。
https://web.archive.org/web/20050420130406/http:/studiodias.port5.com/
このサイトは2001-2005にかけて存在したようです。
どうやら、エターナルファンタジーの制作に協力したものの、振り回されて怒り心頭の方が作られたサイトのようです。コレが本当の制作協力者だとすると、名称は「エターナルファンタジー」ではなく「エターナルファンタジア(ETERNAL FANTASIA)」のようです。
"2000.8/12
「ツクールの集いの場」
ゲーム内容は、「ティルズオブファンタジァ」
(略)
2000.12月期
ゲームタイトルが「ETERNAL PHANTASIA」から
「ETERNAL FANTASIA」になる
(略)
2001.8月期
8/31・・・HP閉鎖
題名のごとく、エターナルな作品となる"
ここからさらに、webアーカイブへのリンクを発見しました。
https://web.archive.org/web/20050318142138/http://studiodias.port5.com/ef.htm
ついにエタる発祥の地(のバックアップミラー、のアーカイブ)を発見しました。
残念ながら、webアーカイブには画面の画像は残っていませんでした。
「エターナルファンタジー」「エターナルファンタジア」どちらが正しいのか、確証は得られませんでした。
(移転時の他のURLのアーカイブ
http://web.archive.org/web/20000925152842/http://www.f5.dion.ne.jp:80/~shin1220/
http://web.archive.org/web/20010106134200/http://www11.tok2.com/home/shin1220/
http://web.archive.org/web/20010218075151/http://www.studiodias.com/
)
さらに、2ch(当時)かどこかのの過去ログらしきものを発見しました。
「デジタルファミ通」のツクールコンテストでの発表を狙っていたようです。
https://web.archive.org/web/20050318142553/http://studiodias.port5.com/sphinx.txt
chromeだと文字化けしますが、文字コードを指定、もしくはEdge等で見れます。
”俺は、この団体で、市販のゲームに負けないくらいのゲームを製作したいんですけど。”
”会社設立”
とか夢いっぱいの大風呂敷が出てきます。
時々、無料ゲームや同人ソフトとかで、一章だけとか1ステージだけとか、制作途中の体験版を無料配布してるのがありますが、webアーカイブを見る限り、そこにも至ってないようです。
ツクールコンテストの条件が「未発表の作品」なので、体験版を発表してユーザ評価を聞くということも出来なかったのでしょう。
つまり「作る作ると大風呂敷広げて発表に至ってない」 のが「エターなる」の語源ではないかと思われます。
語源に照らせば、一話でも発表した時点で、既に「エタっていない」とも言えるのではないでしょうか。
また、ちまたでは「エターナル(永遠)に完成(完結)しない」という説明がありますが、ゲームタイトルがたまたま「エターナル」だっただけで、元々は「永遠」という意味はなかったのではないかと思われます。「ファンタジー」と「ファンタジア」の違いも、当時の証人もうろ覚えになってしまったのではないでしょうか。
「やる夫スレ」では、様々なことを「やる夫」という2ch発祥のキャラ、あるいはマンガ・アニメ・ゲームのキャラが語る台本形式、今で言うチャット小説の体で発表されていたようです。
アマチュアのゲーム制作界隈で使われていた「エターなる」が、「(小説が)完結しない」「『エタる』という短い表現」に変化した瞬間、というのもどこかに埋まっていると思われます。が、飽きたのでこのへんで終わります。
それにしてもこのプロジェクトの○○○○さん、「エタる」がこのまま言葉として定着したら、一生モノの黒歴史になりそうです。奥さんにチクられて浮気を信長に咎められた書が博物館に残ってる秀吉ほどじゃないでしょうが。
まとめ
エタるとは
かつてアマチュアゲーム制作界隈で、スゲーの作ると大風呂敷を広げて人を集めたが、完成にも発表にも至らない「エターナルファンタジア(ETERNAL FANTASIA)」という伝説のゲーム開発プロジェクト崩壊があった。数年後、その参加者が開発裏話を小説として発表し、後書きでそのやりきれなさを「エターなった」と表現した。「エターナルファンタジー」は誤解、「エターナル(永遠)に完成しない」は後付である。その後、アマチュア小説界隈で「エタる」という短縮形、「(小説が)完結しない」という意味に変化したと思われる。
十数年を経て言葉の意味が変わり、語源は忘れ去られています。言葉は生きています。
現在の用法は、誤用が定着したとも言えるのではないでしょうか。(例:一所懸命 → 一生懸命、性癖(性的な意味はない)など)
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