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黒田玲のいちばん長い日(4)

20歳の姿で灰色の髪の毛に変えた分身を操作して、玲の分身は冒険者ギルドの前に立っていた(玲自身は影潜ミを使って隠れている)。


(……何気にこの世界の人と初めてコミュニケーションをとるのか)


玲は少し緊張していた。下手なことを言って目をつけられれば正規の手続きを経ずに街に入ったことがバレるかもしれない。そんな事情もあって、玲は冒険者ギルドに入るのを躊躇していた。


(……まあ会話に気をつければ大丈夫かな。格好は他の人と同じだから違和感はないと思うけど)


実際、玲の横を街の人が通り過ぎていくが、特段注目されてもいない。


(……ままよ!)


分身と影が冒険者ギルドに入っていく。





中はさっきと変わらず、冒険者で賑わっていた。よくあるテンプレのように、扉を開けたら先輩冒険者にガン付けされるとか、因縁をつけられる様子がない。


(テンプレ展開がないのも寂しいな……まあ、それだけ違和感がないってことだろうけど)


どうやら街のモブキャラのように一般人として振るまえたようだ。しめしめと玲は「登録・昇進・所属変更関係」と書かれたカウンタまで足を進める。先ほどモッズ君の登録を担当していた受付嬢が座っていた。


「すみません……冒険者登録をお願いしたいんですが……」


「はい、かしこまりました。では登録の前に宣誓確認を行います」


玲の分身が受付嬢に声をかけると、受付嬢はそのように返答してきた。


(……宣誓確認?さっきギルドで盗み着いた時はそんな話はなかったけど、盗み聞く前にそんなやり取りがあったのかな?)


「まず、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


(きた!この手の質問!)


玲はいつか名前を聞かれたとき、こう答えるように考えていた。


「レイです」


玲は自分の名前を正直に答えていた。


(だって、偽名とか使っても咄嗟の時に反応できそうにないしな)


「では、レイ様。宣誓確認いたします」


受付嬢は真っ直ぐ分身の目を見つめる。


「冒険者とは自分の命を落とすこともあり得る職業です。モンスターとの戦いで命を落とすこともありますし、人間に殺されることもあります」


受付嬢は慎重に言葉を続ける。


「死体が残る死に方であればまだいい方で、モンスターに食べられることもありますし、アンデットとしてモンスター化し、同じ冒険者に討伐されることもあります……それでも冒険者になりますか?」


これは最終確認だと玲は思った。おそらく登録目的や遊び半分の冒険者を最初の時点で弾くためのものだと推測した。受付嬢はこちらの真意を測るためにじっと分身の瞳を見つめている。


(ここで即答できないようでは冒険者になれないだろうな……)


玲は冒険者になることに怖さがないわけではなかった。現に影の中の玲は足の震えが止まらなかった。


(でもここで引いたら違う気がする)


玲は怖さを断ち切るために影の中で自身の太ももを強く叩く。


(……よし!)


「はい!なります!」


玲は影の中で決心を固めると、分身に返事をさせた。その返事を聞いた受付嬢は生半可な返事ではないと確認できたのか優しく微笑む。


「はい、レイ様の覚悟、しかと受け取りました」


受付嬢からの宣誓確認に合格印をもらえた玲は影の中で脱力した。


「レイ様。では、登録手続きを始めたいと思います。よろしいですか?」


「あ、お願いします!」


分身がワンテンポ遅れて返事をする。受付嬢はクスリと反応し登録の説明をしてくれた。





その後の説明はモッズ君にしたような説明と同じだった。水晶に手を置き、年齢と性別を確認される。ちなみに年齢のところで20歳と答えた時、若干受付嬢がフリーズしたが、特に問題なかったようでプレートをもらうことができた。受付嬢がフリーズしたとき、玲は内心どぎまぎしていた。その後、冒険者についての簡単な説明をしてもらい、最後に受付嬢の激励の言葉が贈られる。


「……私たち冒険者ギルドは一人でも多くの優秀な冒険者を求めております。レイ様がその一人であることを私は願っております」


「はい、精一杯努めたいと思います」


説明が終わったので分身がカウンタから離れ、ギルド内の椅子に腰かける。


(これが冒険者プレートか……)


冒険者プレートとは冒険者の身分証のことで、名前とランク、所属ギルド、年齢、性別が記載されている。ちなみに中身はこうなっている。


ーーーーーー

名前:レイ

年齢:20歳

性別:男

ランク:F

所属:ローグライト王国マルジェイド子爵領ホブンズ市

ーーーーーー


(まず、身分証はこれで確保した……あとは金だ!)


玲は当初の目的物である身分証を手に入れたことにほくそ笑む。次は金を手に入れるため、分身が席を立ち、掲示板のところまで行く。


(Fランクで討伐依頼がいいな……あ、でもEランクのゴブリン討伐でも……いや、今からだと時間がかかるな)


玲は転移した当初にゴブリンを仕留めていたので、要領がわかってるゴブリン討伐の依頼書に分身の手を伸ばそうとしていた。しかし、街の周辺にゴブリンはおらず、ゴブリンのところまで歩くと日が落ちてしまう。時間的にできないと思い、伸ばした手を元に戻す。


(ここは大人しくFランクのディッチラット討伐依頼にしておこう。場所は街の下水道って書いてあるし……)


玲の分身はFランクのディッチラット討伐の依頼書を剥がし、依頼受注カウンタに持って行った。


「すみません…この依頼って今から受けられますか?」


その問いに依頼受注カウンタの受付嬢が大丈夫ですよと答える。


「ディッチラットってどんなモンスターですか?」


「そうですね…見た目は大きいネズミですね。雑食で目に入る生物や汚物を食べる傾向があります。そのため下水道に迷って入り込んだ子どもが食べられそうになることもあり、市がギルドに駆除のため討伐依頼を出すんです」


とんでもない害獣だった。


「完全に駆除できないんですか?」


「まあ、そういう話もなくはないんですが、繁殖力が強く、一匹逃すと勝手に増えてしまうんです。またディッチラットに使える素材はありませんので、冒険者の人気も低いんですよ」


そう言って受付嬢は困った顔をする。


「それに人を襲うと言っても下水道に入ってきた人間のみを襲うので、普段は下水道から出ずに生息してるんです。人を怖がってるみたいですね」


なるほど、依頼主である市のスタンスはこうだな。危ないけど表に出てこないので完全駆除はやり過ぎだから、増えすぎないように間引く程度にしておこう。こんな感じの依頼かな。


「ちなみに力さえあれば子どもでも討伐は可能です。そういうのもあってFランク依頼にされてます」


「なるほど、成果物は何ですか?」


「ディッチラットのしっぽです。その本数によって依頼の報酬が決まります。ちなみに一本銅貨5枚です」


玲は相場がわからんと思った。しかし、ここはうなずくしかないので適当に分身の首を振っておく。


「じゃあ、その依頼受けます」


「かしこまりました。ちなみに本依頼は納品期限がありません。終わりましたら成果物とハンコが押された依頼書を持って、『依頼報告』カウンタまでお越しください」


そう受付嬢は説明しながら「依頼受注」のハンコを依頼書に押してくれた。分身にお礼を言わせ依頼書を取らせた玲はこれからの仕事に胸を膨らませた。





「くさい……」


玲は分身の口を通して、何度目かわからない感想を口にした。玲は今、下水道の前にいる。ちなみに分身を通して、物を見たり、聞いたり、臭いを感じたりと知覚することはできるようだ。


(中に入る前からこんなに臭いとは…臭いだけでも何とかできんかね……あ、消えた)


どうやら臭覚を消すことができたようだ。分身を通して外の臭いを感じることはなくなった。


(さて、中に入ろうかね)


下水道へは案外簡単に入れた。一応門があるのだが、申し訳程度の閂しかなく、普通に外から開けることができた。どうやら中からディッチラットが出ないための処置のようだ。


(処置と言えるか怪しいけどね


中は真っ暗で松明等の明かりがない。たまに割れ目から差し込む光で辛うじてわかる程度だ。玲は奥へと進んでいく。


(と、来たようだ!)


目の前にデカいネズミが三匹現れた。こちらを見てチューチューと威嚇してくる。


(よし!相手はビビってる!このまま影ノ棘で……うわっ!)


突如分身の脚に噛まれたような衝撃が走り、分身が消えてしまった。


(痛い!なんだ!?…こいつ、いつの間に後ろに!)


どうやら後ろに一匹いたようだ。あの三匹は囮だったらしい。背後からこちらを潰すつもりだったようだが、分身が消えたことにより、集まってチューチューと相談している。


(今回は分身だから助かった…多分暗いからわからなかったんだと思う。松明か何か持ってくればよかった)


玲は影魔法で何とかできると思い、ギルドから出た後、そのまま下水道まで来ていたのだ。先輩冒険者がいたら殴って叱るレベルの無鉄砲な行いである。


(んー、また影代リを使っても死角から襲われそうだし、影潜ミから影ノ棘を使っても視界が悪いから当たりにくいし……あ、霊体化ならいけるかな)


玲は影潜ミを解くとすぐに霊体化を発動させる。黒くすけた体がいきなり現れ、ディッチラットは警戒を強めるも、すぐに四方を囲み出し、容易に逃げられないようにしてくる。玲は何もせず、じっと立つ。


痺れを切らしたのはディッチラットの方だった。四方を囲んだネズミ達は全員で玲に飛びかかる。


スカッ


勝ったと玲は笑った。体をすり抜けたネズミ達は不思議そうな目で玲を見つめる。


「「「「ヂュッ!?」」」」


ネズミ達がいきなり苦しみ出す。白目を剥き、泡を吹いて膝をおる。ついにはまともに立っていられなくなり、横倒れにその短い命を落とす。玲は仕留めたことに安堵し霊体化状態を解く。


「フゥ……何とか倒したな……倒したっていうのかな?勝手に倒れたっていう感じだけど……」


玲は少し休憩した後、手持ちのナイフで倒れた四匹のネズミの尻尾を取りに回ろうとするが、そのまま剥ぎ取りを行うと手が汚れてしまうことに気づく。


「どうしよう……あ、こういう時こそ分身か」


玲は影代リを発動し、尻尾の剥ぎ取りを始めた。


「うえ……気持ち悪い……分身でよかった……」


ネズミの血や汚水で汚れた分身の手を見ながら玲はぼやく。分身は一度解除すると汚れなどが消えるようで、尻尾の剥ぎ取りが終わった後に分身を解除して再び分身を出すと、手はすっかり元通りになっていた。玲は尻尾を影潜ミで回収しながら、今後の流れを整理する。


「うん、要領はわかった。このまま下水道を突き進んでいけばネズミが勝手に襲ってくるから、霊体化状態で進んでいこう。んで、尻尾の剥ぎ取りの時だけ影代リで剥ぎ取りを行うと」


玲は内容を頭の中で整理し終わると、背を伸ばし気合を入れる。「よし!」という声とともに霊体化を発動し、下水道の奥へ奥へと進んでいった。その背中は少し頼もしく見えた。





「随分とあつまったな……」


玲は集めた尻尾をだるそうに見ながらそう呟く。玲の目論見は当たっていた。霊体化した玲にネズミたちは不意打ちをしてくるのだが、玲の体を通過してしまう。そして霊体化の影響ですぐに死んでしまうので、玲は戦闘(?)の時間より剥ぎ取りの時間の方が長くかかったのだ。そのため玲の中では討伐依頼というより解体依頼というような感覚で仕事をしており、内心退屈だったのだ。


「25本か」


結構討伐できたと玲は思ったが、一般的な冒険者がどれだけ討伐できるのかわからなかったので、相場より多いのか少ないのかわからない。だが、流れ作業のような仕事に「今日はもういいだろう」と自分の中でケリをつけ、下水道を出ていく。


「あ、納品の時どうしよう」


玲は尻尾を影潜ミで保管していたのだが、納品の時に影から出すのを人に見られたくはなかった。


「この魔法が一般的な魔法とは思えないし、見せたら厄介ごとになりそうなんだよね……」


玲はそう言うとあることを思いつく。


「……人さらいたちの服を使うか」


玲が今着ている服のほかに人さらいたちが着ていた服は影潜ミで保管してあった。玲はその内のチュニックを影から取り出し、穴を縛って一つの風呂敷のように形を作ると、その中にネズミの尻尾を入れていく。不格好な状態で包み出来上がるとそれを持って、簡単に解けないか確認する。


「……よし、大丈夫だね。じゃあ戻ろうか」


玲は分身を作り、分身に包みを持たせると、冒険者ギルドへと戻っていく。冒険者というより派遣のアルバイト終わりのような分身の背中を、玲は影から苦笑いして見つめていた。

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