そんな、わたし、操られて……冬。
※砂礫零様へ捧げる掌編です。
お題「あやつる」「のる」「さしこむ」の動作3つをクリアする掌編、としました。
言い出しっぺはわたくしでございます。
ここは山深くある村。
冬の間は山の門が閉ざされて、外の世界と遮断される。
そんな村の楽しみは、おとのいのひ。
山で冬を越すために訪れた、人形遣い達が、村人たちへ人形劇をしてくれるひととき。
その日、いたずら好きの妖精が、人形遣いの人形の一つに紛れ込んだ。
「のわっ! ……ふふふ、よくきたな、勇者よ! この魔王城に一人で来るとは、見上げたやつだ!」
人形遣いのクォートは、慌ててセリフを差し替えた。
操っていた人形が、突然操り糸を無視し、自由に動き出したのだ。
ははあ、これは、師匠から聞かされていた、いたずら好きの妖精の仕業に違いない。
クォートはそう考えて、とっさに合わせてみたのだった。
「マオウ! このボクガアイテニ ナッテヤル!
トコシエノ ラクエン カラ ヌクモリ ヲ ツレテキタ。
フユノマオウヨ、トケテナクナレ!」
夏の虫が羽根を震わせるような音で、勇者役の人形から声がする。
「その程度の力、我には効かぬわ!
……なにっ!?」
突然、勇者役の人形が回転し、そのままふわりと飛び上がると、魔王人形に乗りかかり、勇者の剣を差し込んだ!
「ぐっ……ぐわぁっ! それは、伝説の剣……!
くっ、冬の魔王が死んでも、冬はまた、やってくる……。えいえんに、な……。」
ガクッと倒れる魔王人形。
勇者人形は剣を掲げ、叫ぶ。
「ハハハッ。フユノマオウヲ タオシタゾ!
コレデ フユハ オシマイダ!
マタ マオウガ クルヒマデ。
セッセト コノミヲ アツメヨウ!
セッセト タキギヲ アツメヨウ!」
幕が閉じ、村人たちの拍手が起こる。
「ほんとうに、うごいてるみたいだった」
興奮して頰が真っ赤な子供が、親に話しかけている。
「さあ! クォートさんに拍手を! 樽を空けろ! 肉を焼け! 今日はおとのいのひだ!」
おとのいのひは盛り上がり、酒も肉も大いに振るわれた。
深夜、村の宿の一室。
クォートは、操り人形に話しかけた。
「ふう。良いおとのいのひだ。なあ、勇者役の妖精さんよ。いったい、何のいたずらだ?」
「キヅイテ ヤッテクレテ アリガトウ。
フユノマオウヲ タオスタメ モリアゲルタメニ キタノサ。ヌクモリ ノ オスソワケ サ」
そう言うと、勇者の人形がぽうと光り、何か白い光のかたまりが飛び出した。
「コトシハ ユキドケ ガ オソクナル。スコシデモ モリアゲルコトダ。マタクルヨ」
そう告げると、白い温もりはふわりと浮かび、宿の外、吹雪の中へと消えて行った。
「吹雪の主、冬の魔王の支配が長引く時、聖なる光が現れる。
それこそ、勇者の力、人々の温もり。
……師匠が言ってたのは、これだったのか」
村の人々のざわめきが聞こえる。
白い光が見えた、まさか、酒の飲み過ぎだ、と。
人形使いはごろりと木の寝床に寝転び、明日はもっと盛り上げないとな、と呟いた。
(了)