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プロローグ

「佐藤さん、お疲れ様です」

「おう、お前も早めに帰れよ」

俺は挨拶をしてきた後輩に軽く手を振り、廊下に出た。

そのまま階段を降りて外に出ると、冷たい空気が頬を撫でた。

反射的に体が縮み上がり、ロングコートのポッケに手を突っ込む。

この季節はこれだから...。

俺は軽く悪態をついて、首に巻いた厚手のマフラーを口元まで上げる。

こと寒さに関して、俺は全く耐性がない。

生まれが南の方だったことと、就職した後の配属先が極寒の東北であったことは、今思えば、神様の悪ふざけだったと言わざるを得ない。

はぁ、とため息を吐いてイルミネーションで彩られた街中を歩く。

まもなくクリスマス。

カップルのための聖夜が今年もやってくるのだ。

....全く、腹立たしい。

そこの大学生風の男、女にうつつを抜かしてないで勉強しろ。単位落とすぞ。こら、女の方も腕に抱きつこうとするな。 まったく、はしたない!

俺の視線に気づいたのか、そのカップルはそそくさと夜の人混みに消えていった。

...虚しい。

本当は俺だって彼女と過ごすホワイトクリスマスをエンジョイしてみたいさ。でも、顔も普通、年収も高いわけじゃないSEの俺なんて、誰が拾ってくれるというのか。

何度目かわからないため息を吐いて、俺は小さな小道に入った。

家に帰るには近道なのだが、人通りが少なく、道も薄暗い。

治安が悪いわけではないが、一人で歩くには不安になる道だ。

...早く通り抜けちまおう。

視線を少し落とし、早足で歩く。

街灯がチカチカと点滅し、羽虫が集っている。

その下に、人影があるのが見えた。

黒いシルエットが唐突に現れたように見えて、俺はどきりとする。

...小さい、女の子?

背丈は俺の胸元くらいだろうか。

中学生、下手をすれば小学生にも見えるその子に、俺は思わず話しかけていた。


「子供がこんな時間に、危ないよ。お父さんとお母さんは?」

「......」


少女は返事をしなかった。

ただ、ゆっくりと俺との距離を詰めてきた。

街灯を背後にしているためか、顔が見えない。


「 迷子か? 交番が近くにあるから...」


俺が少女の顔を覗き込もうと、腰を低くした途端、思わず息が漏れた。

少女の手が。

その指先が、俺の額に突き刺さっていた。


「あ、あああ、ああ?」


不思議と痛くない。

だが、頭の中身をぐちゃぐちゃにかき混ぜられる感覚に、体が拒絶反応を起こす。


「ああああ!!」

「動くな、やりずらい」


少女が初めて声を出した。

凛とした、鈴のような声であった。


「...ふむ」


どれだけだっただろうか。

とても長い時間が経過したような気がする。

少女はようやく満足したように俺の額から手を抜き、どこからか取り出したハンカチで指先をを拭った。

俺は腰が砕けたようで、その場にうずくまってしまった。


「佐藤 わたる


俺の名前が呼ばれた。


「お前には悪いと思っているのだ。あんな世界のために、お前を送り込む必要が本当にあるのか、私はまだ疑問が多い。だが、ほかの奴らが納得しないのだ。許せ...これも上から目線で印象が悪いな。すまない、こういった話し方しか出来ぬのだ」


朦朧とする意識の中、その少女が謝罪するのが聞こえた。

その時、やっと彼女の顔を見ることができた。

初雪のようなきめ細やかな白い肌。

2つの赤い双眸は血のようで、ずっと見ていれば吸い込まれそうで、気が狂うほど美しい。

そう、美しかった。

背丈は小さくとも、そこにいたのは間違いなく人間では形容できないほどの美貌を持った存在。

それはまるで、


「...女神?」


俺は、先程やられた仕打ちも忘れて、そう思った。

少女は俺の頭に手を置いて言った。


「初めは戸惑うであろう。だが、安心するがいい。私は君を見守っている。その命の最期の一粒が滴り落ちるまで、私は君の味方だ」


身体が冷たくなってきた。

少女の手が触れているところから、少しずつ、凍っていくようだ。

...俺、死ぬのかな。


寒いの、苦手なのにな。

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