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蛮族JKサムライ

書けるとこまで書いてみることにした

遠い夜空には腐るほど恒星が瞬いていて、それら恒星の周りをアホほど惑星が回っている。兆単位もの星が存在するこの宇宙で、知的生命体が生まれた星が地球だけと考える方がどうかしてる。もしかしたら多くの星々を支配する大銀河帝国なんてのもあるかも知れないではないか。


 なのに「異世界」と聞いて別の星をイメージする人は案外少ないのではないかと俺は思う。どうやら人は地球みたいな星がどこかにある可能性より、別次元の世界にロマンを感じる生き物らしい。


 ラノベ、マンガ、アニメ。

 表現の形はどうあれ、異世界モノを見る限り総じて「世界」=「地球」な感じ。

 地球がヤバい時はなぜか宇宙もデストロイしちゃう雰囲気だし、神様の地球びいきはもはやストーカーの域に達している。


 まるで宇宙が地球を中心に回っているとでも言いたいのだろうか。厨二病患者は平気で天動説を唱えやがる。同じ日本人として恥ずかしい。ま、嫌いじゃないですけどねッ。



「と、言いたいところなんだけどなー」



 俺はフッと自嘲しながら窓の外を見つめた。初夏の夕暮れが目に眩しい。完全に遠い目である。



「うはっ タケリーノがスカしてる、ウケるし」 

「誰のせいだと思ってる」



 俺は武器庫(アーセナル)から出て来た蛮族風JKに目を向ける。いや、正確に言うと彼女が腰からぶら下げている物に、だ。

 


「つーかドコ見てんの。え、まさかムラムラしちゃった系!? セクハラ激カンベンけどー」

「耳尖らせてから出直して来い。ダークエルフ詐欺か」



 胸元も太腿も剥き出しスタイル抜群の褐色美少女で、しかも転生者。

 そう聞くと、誰しもがある種族を思い浮かべるだろう。みなさんの頭にも浮かんだはずだ。エルフと対極に位置する似て非なる者。そう、異世界のド定番『ダークエルフ』である。圧倒的俺得な展開だ。

 

 しかし、大抵の人が彼女の腰にぶら下がる2尺8寸の刀に気付いて強い違和感を感じる。そして彼女の自己紹介で『紫外線激熱だしー』などという妄言を聞いてこう確信する。

 

 あ、こいつダークエルフじゃねえわ。


 現代社会における日焼けサロンはデミ()・ダークエルフ量産施設だ。そのうち天誅を下さねばならないと思っているがまあいい。

 問題は、そのデミ()・ダークエルフが帯刀している事だ。

 なんで中世ヨーロッパ風異世界出身の転生者が刀なんてものを持ち歩いてるのか。



『つか、ビビはサムライだし?』


 

 以前聞いた時、は? テメー何言っちゃってんの? 的な感じでビビアナは言った。 

 いやいやいや、と言った俺の声は震えていた。そりゃそうだろう。紫外線でこんがり焼けたJKがサムライとか言い出したら誰だって腕の良いお医者さんを紹介する。

 

 異世界でサムライとか馬鹿じゃねーの。

 侍ってのは我らがニッポンの誇りだから! 異世界人は黙って両手剣振り回しててろやボケ!



『は? 日出ずる最果ての地。東方の島国(ジパング)出身の戦士の武器つったら刀。これジョーシキだし』



 そんなこんなで冒頭へと戻るのだ。

 異世界というのは無数の銀河のどこかにある惑星ではないか。無数の学者たちが議論して出した答えは『否』であった。

 多くの転生者の証言を基に様々なアプローチをした結果、異世界は別の惑星などではなく、地球と同一軸の並行世界という説が今や主流となっていた。

 

 地形、文化、人種。異世界におけるそれらはあまりに地球に似すぎている。時代背景や歴史、そして魔導という根源的法則が違っても、次元を隔てた同一世界としか考えられないほどにだ。

 そしてそんな異世界には極東の島国、ジパングなる国が存在したらしい。


 神を祖に戴く皇が存在し、厳しくも美しき自然に八百万の神々が宿る金色の国。

 その国には神を畏れ敬う人々と、人々を守り、皇に忠義を捧げる義の戦士達がいるとビビは言う。



「ビビの魂はどこまで行ってもサムライだし。今は天皇陛下に忠義を激捧げ、みたいな?」



 そう言ってビビアナは腰元に揺れる刀の鍔をクンッと親指で押し上げた。

 ぬらりと顔を出す鈍色の光。蛮族JKが口端を吊り上げる。いつもはどうしようもない紫外線JKが醸し出す怜悧な雰囲気に俺はゴクリと唾を呑んだ。

 

 ビビアナ・イシュトバーンはサムライである。

 フェーズ2(戦術級)の転生者である彼女は、局地戦、特に迫撃において無類の戦闘能力を有している。

 独自の歩法と呼吸法で練り上げる氣で身体強化をさせたら手が付けられないというのは第参支部甲係(タクティカルフォース)係長、渚さんの言だ。

 

 今回の件、ヤクザの事務所に乗り込むなんて正気の沙汰じゃない。いくら仕事だとしても出来る事と出来ない事があるし危険過ぎる。

 転生者管理局に務めていたって俺は極めて常識的な一般人だ。もし死ぬならきちんとトラックに轢かれたいし、行方不明になるなら突然現れた魔法陣にお願いしたい。コンビニを出たら見知らぬ森だった、がベストだ。


 嫌々ながらも危険な仕事に付き合う事にしたのは、彼女の異常な戦闘能力を知っているからだ。

 なお、そんな無敵のバイト戦士の時給は1,050円である。なんというか……本人が大喜びなので何も言うまい。



「準備できたタケリーノ? ビビ激テンション上がってきたんだけどw」

「俺はダダ下がりだ」

「ノリ悪ッ 信じらんないし! ビビの友達がどうなってもいい、みたいな!?」

「毎回、友達絡みのロクでもない仕事に付き合わされる俺の身にもなってくれよ……」



 こんな終業前にいきなり外回り。しかも行先がヤクザ屋さんが生息する現代の秘境とか嫌過ぎる。

 今日は定時に上がって将来のために知識チートに励もうと思っていたのに……


 一緒に行ってこいという上司の命令に逆らえないのは社会人の宿命でもある。そして自分から『一緒に行く!』と言い出した萌々は、俺のスーツの裾を掴んで背中に隠れていた。お前ホントビビアナ苦手な。



「わ、我に苦手なものなど無い! 無礼者め、粛清するぞ!」

「うはっ 強がるももりん激萌えだし!」

「や、やめろ! 近づくな! はーなーれーろー!」

 

 

 俺を中心にグルグル追いかけっこをする二人。俺は額を押さえてため息をついた。

 今から反社会おじさんの巣窟に乗り込むとは思えないテンションだ。ついていけないのは俺が歳だからだろうか。いや、22歳で歳とか言ってたら年配組を不快な気分にさせてしまう。誰とは言わないけどルルさんとか。



「荒木田様、今、とても失礼な事を考えませんでしたか?」

「気のせいですルルさん」



 どちらにせよ確認しなければならない事があった。俺たちは公的な武装組織に所属しているからこそ、武力行使には明確な枷が嵌められている。これを守らなければ俺たちはただの暴力集団だ。



「ビビアナ、ヤクザの事務所に行くにしても俺たちが行くからには理由が必要だ。遊びやノリじゃ済まされない。わかってるのか?」



 細かく言えば色々あるが、絶対的要件としては事案当事者の誰かに転生者の可能性がある事である。俺たちが持つ逮捕権も捜査権も交戦権も全てが転生者保護法に基づく権限だ。

 現代社会において転生者は異物である。微妙な立場にある彼らの平穏を守るためには、たとえ何があろうとも力の行使を認められた俺たちがルールを守らなければならない。そうしなければ待っているのは悲惨な魔女狩りだ。



「わかってるし。ヤクザに監禁されてる子、激転生者かもしれない、みたいな!?」





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