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菩薩系メイドと蛮族系白人ギャル

 年季が入った7階建て商業ビルの3階。

 1基しかないエレベーターを諦めて、コンクリ階段を上った先に転生者管理局第参支部のオフィスはある。

 やけに設備が整ったキッチンスペースやリビングスペースもいつも通りだし、スタッフがほとんど出払っているのもいつも通りだ。

 いつもと違う光景があるとすれば、俺が今こうして支部長に頭を下げ続けていることだろう。



「本当にすみませんでした支部長」

「私は反省している人間を鞭打つ趣味は無いよ。いいかげん頭を上げたまえタケル君」

「すいませんっしたっ!」



 頭を下げっぱなしの俺に向かって笹原支部長はダンディな声で言う。

 俺が何に対して謝っているかは…… まあお察しの通りです。



「ともあれ、誤解が解けてよかったじゃないか。良い経験をしたと思えばいい」



 おまわりさんに現行犯で手錠をかけられそうになったのはつい昨日の出来事だ。

 運良く丁係(回収班)のスタッフが俺達の身分を証明し、暴行の嫌疑は晴れたが今度は公然猥褻の容疑に切り替えられた。


―――パンツ丸出し(公然猥褻)コイツ(萌々)やんけ!


 と叫んだら揉めに揉めた。

 萌々はますますヘソを曲げ、味方であるはずの丁係スタッフさんすら道端のゲロを見るような目つきに変わった。


「セクハラだな」

「セクハラですね」

「セクハラだろ」

「サイテー」

「キモッ」



 俺の容疑はセクハラになった。誰だ最後のやつ。

 支部長の介入で事なきを得たが、女性スタッフ全員敵に回した感が半端なかった。

 最後は完全アウェーの空気でした。



「さあ話はこれでおしまいだ。私も喉が乾いてしまったよ。ルル、お茶を淹れてくれるかね」

「かしこまりました」



 そう言ってクラシカルなメイドさんがまるで未来を予想してたようなタイミングでお茶を淹れる。俺はその楚々とした立ち居振る舞いに一瞬見惚れた。

 露出は少なくも一目でわかるきめ細かな肌。ハッと息を呑むほど儚げな雰囲気。そしてどんな時でも優しく緩い弧を描く母性に溢れた糸目。



「ふう。やはり君の入れるお茶は落ち着くよ」

「ありがとうございます。荒木田様もお飲みになりますか?」

「え? あ、は、はい!」



 彼女が控えめで穏やかな慈母のような女性である事は事務所スタッフ全員が知るところ。

 だというのに、時折それが偽りなのではないかと思ってしまうのは、彼女がその性格に反する過激な肉体を有しているからだ。


 地味なメイド衣装を暴力的に盛り上げる胸と腰。結い上げたうなじから立ち上る、むせ返るほどの色香。

 目の前に茶を置かれる時にふわりと漂ってくるのは、脳髄を甘美に揺るがすシクラメンの香りだ。そしてこれが体臭だというのだから男はたまらない。本人は生粋の地球人だと言うが、俺は前世は絶対淫魔(サキュバス)だと思っている。


 年齢不詳。菩薩系糸目美人。天然媚薬入り体臭持ち。

 それが笹原家のメイド、天田ルルさんである。


「ふふ、荒木田様、私の顔に何かついていますか?」

「い、いえ何も!」


 ルルさんに優しい笑みを向けられただけでドキっとする。女性の美醜に全く興味の無い俺が、だ。

 もしかしたらちょっと好きかもしれないです。


「きっとタケル君は君に見惚れていたのだよ」

「まあ! 私のような者が。光栄ですわ荒木田様」


 ちなみに彼女に年齢を聞くことは第参支部ではダントツ1位の禁忌(タブー)である。

 20代に見える40代。40代に見える20代。どちらも正しい気がするのが怖いところだ。

 以前飲み会で支部長がグダグダに酔っぱらった挙句「ルルは私が生まれる前から笹原家に仕えていた」と暴言を吐いていたが、流石にそれは酒の席の冗談だろう。


 

「ところで、前から思っていたんだが、タケル君は……熟女好きなのかね?」

「どういう……意味でしょうか? 坊ちゃま(・ ・ ・ ・)……?」

「ははは、だってそうだろう? 第参支部は若くて可愛い子ばかりなのに、よりによってウチの年増メイドなんかに…………ん? 何だねルルやめたまえ。私の腕はこれ以上曲がらな―――いひぃぃぃぃぃにあぁぁぁ~~~ッッ!!」 



 いつもの夫婦漫才が始まったので俺は自分のデスクに戻った。支部長の腕から聞こえてはいけない音が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。

 メーラーの受信フォルダを流し見て、急ぎの案件が無い事を確認してから壁掛け時計に目を向ける。

 15時20分。普段ならそろそろ学生連中が事務所に来る頃だ。ちなみに笹原支部長はルルさんに奥の応接室(防音)へ連行されたが、まあいつもの事なので問題ないだろう。



「おお! こ、これが『ハソドパワー』……っ クッ この世界にも侮れぬ使い手が……ッ」



 リビングスペース。再放送の超能力番組を見て興奮しているぺったんこがいる。

 言わずと知れた自称魔王様。日比野萌々さんである。



「何っ!? ハソドパワーで金魚が水槽をぐるぐる回っている! 我もそのような術式は知らぬ……ッ Mr.マソック、こやつ只者ではないな!」



 萌々さんはMr.マソックのハソドぱわーにくぎ付けのご様子。ぶっちゃけ本物の魔法ぶっ放す連中がわんさかいる世の中で超能力もクソも無いと思うんだけど。

 


「お子様は能天気でいいねえ……」


 

 当人には聞こえないように俺は呟く。

 俺が今こうして頭を下げていたのも元を正せばコイツが悪い。そのおかげで警察からは非公式に抗議が届き、本部からは小言も賜っている。支部長が執り成してくれなければ今頃本部に呼ばれて大目玉だったに違いないのだ。


 

「ふんッ 愚かな。スプーンがそんなに簡単に曲がるはず……ぬあっ! ま、曲がった……だと!?」



 萌々が勢いよく立ち上がり、小走りでキッチンスペースへ。引き出しをゴソゴソ漁ってスプーンを掴み取ると急いでソファに戻る。

 そして神妙な面持ちでMr.マソックの解説を聞き、時折大きく頷いてスプーンの首に念力を送っていた。どうやら手品師のスプーン曲げに感銘を受けたらしい。おい、大丈夫か災害級(フェーズ4)



「ちわっすぅ~!」



 唐突に事務所の入口から声が届いた。

 頭の弱そうな挨拶。特徴的なハスキーボイス、無駄に高いテンション。俺は一発で誰が来たかを悟る。



「今日は誰がいるかなぁ~っとォ! あ、タケリーノ、ちぃーす!」

「ああおつかれ。なんだよ、事務所に来るなんて珍しいなビビアナ」

「激ヒマだから来たったwww」



 胸元を豪快にはだけさせたブレザーは有名お嬢様高校のもので、残念ながら彼女は本物のJKだ。

 短過ぎて腰巻にしか見えないスカートからは健康的かつ野性的な足がスラリと伸び、華奢な体型には不釣り合いなほど豪快な胸が豪快な谷間を形成している。


 淡緑色の瞳、アッシュブラウンの髪。

 スラブ系寄りの挑発的な目鼻立ちが完全に日本人離れしているのは、それこそ完全に日本人の血が入っていないからだ。

 どう見てもクール系なのに、妙な愛嬌を感じるのはその天真爛漫な性格を知っているからだろうか。


 日本人離れしたルックスとスタイル。彼女が道を歩けばすれ違う人がみな驚きを以て振り返る。美人だ。まごう事無き

 しかし人々が彼女を見て驚くのは、残念ながらその美貌がずば抜けているからだけではなかった。

 今日もまた一段と健康的過ぎる肌の色を目にして、俺は呆れ混じりに言う。 



「ちょっと見ない間にまた一段と焼けたな……」

「え、わかる? ビビ紫外線ねーと生きていけねーし? 愛だべ。愛じゃね? つか今日一人タケリーノ?」


 そう、肌の色だ。

 彼女は紫外線を愛し過ぎてついにSHIGERU並(ワールドクラス)のステルスをその身に宿すに至ったのだ。だが驚くべきことはまだいくつかある。


 サバンナの猛獣をフューチャーしたと思われる爪は長く尖り、原色で塗りたくられて凶器へと変貌を遂げている。マスカラを着けすぎて、もはや壁となった睫毛は瞬きの度に小規模の風すら発生させる。

 刷毛で塗ったと推測されるアイラインは歌舞伎の隈取を彷彿とさせるし、鳥の巣みたいになったアッシュブラウンの髪はトルネードから生還した人のそれだ。


 もはや白人なのか黒人なのか蛮族なのかもうワケわからん状態のガチンコ黒ギャル。

 名をビビアナ・イシュトバーン。転生局第参支部でアルバイトする女子高生転生者である。



「うはッ モモりんいるじゃ~ん! ビビ(げき)ラッキーじゃね!?」



ここまでが一気書き分

続き書くか迷い中。

ノッてきたようなノッてないような

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