第5話 物事はそう簡単に上手くいかないように出来ているのです。
ようやく書きたいと思うところが書けてきた。そんな気もするが、それは気のせいなのである。
ぐっうぎゃああああああああああああああああ
と、のたうち回るうちに力尽き死んだかのように眠る。そして目が覚めると。
ち…力だ…!力が溢れている!
だがしかし残念。これは夢なのだ。そう夢なのだよ。
そんな漫画的で超が付いて神が付いて水が付くような便利道具はさすがにも異世界にはないのだ。
眠りから覚めた俺は右手に何かを感じる。柔らかく手触りが良い。昨日の事もあるがセシリアはここにはいないのだ。
はて、ではこれは…?と思い重い瞼を一生懸命に開け目の前を見る。
アンナだ。その右手はアンナのお尻を撫で回しているのであった。俺の右手は神の右手なのか?神よ!俺の右手は神にも届くというのか!
と思うや否やアンナの右手に作られたピースサインが俺の目を襲う。
ぐっうぎゃああああああああああああああああ
とベッドの上をのたうち回るのであった。この痛みを超えたら力が溢れてくるに違いない…そう強く願う俺であった。
さてと…と目の前のクララが呟く。
今はクララ宅から数十分徒歩で歩いて来たところにいる。広い草原だ。この世界に初めて来た時のような草原が広がっている。
「まずは基礎的な事から始めていきたいと思う。昨日、見せてもらったが集中力はなかなかのものだったぞ。」
おお!褒められた!クララさん…俺!褒められて伸びるタイプなんすよ!なんて思っていると
「体つきも良いと見える。体力にも問題はなかろう。タケ坊、お主何かしておったのか?」
と聞いてくる。
「何か…と言われても。実家では空手…」と言ったところで空手は通じないだろうなと思い
「武術を教えていたので。」と言いながら空手の型を見せてみる。
「ふむ。では、まずは魔力の微調整。使い方から学ぶのが良かろう。タケ坊は物に魔力を込めたが、魔力はそれだけではないのじゃ。素早く走る為に足に込めたり、力強く敵を倒すが為に拳に込めたり、敵からの攻撃を防ぐ為に身体を硬くする事だって可能なのじゃ。」
人体強化か。そういう事もできるのかと感心していると…
「それだけでないぞ。魔力そのものを飛ばす事も可能なのじゃ。」
おお!まじかああ!はい!クララ先生!お手本を見せて欲しいです!と手を力いっぱいに挙手をする。
では、見ておれ。と言いクララは手のひらを前に突き出し力を込め始めたかのように見えた瞬間。
はっ!と溜め込んだものを出すかのように叫んだ後、クララの手のひらから黄色をした球体が弾け飛ぶ。
おお!しゅごいいいなんて少年の気持ちに戻ったような気持ちで思う。
だが、クララは少し疲労が見えて取れた。あれ?クララのような魔力の持ち主でも疲れちゃうものなの?昨日は手首のスナップだけで石を飛ばしていたが…
息を整えてクララは口を開く。
「今のは人間の生命を削って出すようなものじゃ。そう無闇に使っていいものではない。」
と言たところで心配になった俺をみて大丈夫じゃ。寝て起きれば戻っている。そういうもんじゃ。と笑う。
では、昨日見せてもらった石を投げた時の魔力は?と返すと。
「魔力を使うには人間の生命を使う。ただし他から魔力を借りる事により使う量を極力抑えることができるじゃよ。タケ坊、四元素は知っておるか?土、水、気、火じゃ。」
おお!なんだか段々とファンタジーにRPG的な展開になって来たぞ!
「元素とはいうが実際には精霊様に力を借りるのじゃ。なに心配するな。何かを対価にするという訳ではないのじゃ。そもそも魔力を授かるというのは、そもそも精霊様の加護があるからなのじゃよ。昨日、タケ坊も使った石を投げる魔力。あれは気が付かぬうちに土の精霊様から魔力を借りておったのじゃ。」
ほほおおおおおおおおお!と更に目を輝かせてしまう。
「ただし、ただ単純に混ぜるだけではいかんのじゃ。基本的には魔力を10とすると使うとき2あるいは3を残りを精霊様から借りるのじゃが、4そして5…となると体力がすぐに持たんくなる。」
「セシリアは魔力を回復させる技もあると言っていたが、それはどういう事なのですか?」
「それは永続的に魔力を使いながら回復させながら戦うという意味ではない。一種の休憩じゃ。精霊様からは借りた力を放出するというだけではなく体内に循環させて魔力に変えていくというものじゃ。じゃが、このやり方はなかなかに難しくての。少し集中する時間も必要な上、使える者はそうそうおらん。」
ほむほむ。一概に便利というわけではないのだな。
「というわけで、昨日言った魔力が分散しておるというのは土との混ざり合いが汚いという事じゃな。もっと、上手く混ぜ込むのじゃ。」
なるほど。理解できた。精霊様の力というのは今はまだよく分からないが要するに魔力とは、俺の世界でいう気というものに近いのだろう。
というわけで早速、何かしてみようと唸っているとクララから
「まずは気の精霊様から風を借りてみるというのはどうじゃ?全身に纏うというと今のタケ坊には難しいじゃろうから足に集中してみるのじゃ。」
よっしゃ!と思い足に集中するも何か引っかかる。石の時は物質が手にあったから分かりやすかった。しかし、風?風とはどうやって借りるのだ?
「どうやって風を借りるのですか?」
そのまま思った事をクララに伝えてみる。クララは笑い。こう答えたーー
「考えるな!感じろ!」
ふぇぇ…しょんな黄色いスーツを着た人のような事を言わんでもぉ…
まぁそういった脳筋みたいな考え嫌いじゃない。むしろ、好きだよ!
再び足に集中し始める。風…風…っと考えるといけないんだったな。足に集中すると同時に五感を研ぎ澄ませる。
頬に当たる心地良い風。そのまま風を体内に取り込むようにイメージする。ちょっと違うが陰陽道の太極図のようにイメージ。
魔力を2か3だったな。そこから綺麗に混ぜ込むようにイメージをし、目を見開き、一歩踏み出す。
と同時にすんごいスピードで5m程進んだかと思うと仰向けに転がってしまい後頭部を打ってしまった。
ぐっうぎゃああああああああああああああああ
と言いたいが今度は言葉すら出てこない…ぐぅ…この痛みを超えたら…と思うがそう都合よくは出来ていないのだった。