第3話 名言とは
勢いに任せて書いていますが、ようやく話が進みそうです。
夢を見るから、人生は輝く。
とは、かの有名なクラシック作家。モーツァルトの言葉である。いや、自分でも何を言っているのか理解が出来ない。目の前の土煙の中にいる、おばあさんを見るまではーー
「タケーーーーーさい!」
うぅん…後5分…なんて、やりとりをしながら寝返る。右手を大きく伸ばしながら寝返る。伸ばしながら寝返った先にあったのは柔らかい物だった。物…?ふにふに…ふにふに…おお、これはなかなか触り心地、揉み心地の良い…なんて思っているのも束の間。
きゃああああああという叫び声と共に叩き起こされる。叩き起こされるというよりビンタを食らったのだった。ビンタを。痛い…
プンスカという表現が似合うセシリアを横目に朝食を取るのだが、セシリアの視線がチクチクと痛い…ついでに右頬もまだ痛い…チラッと見ると奥さんは頬に手を当ててあらあらまぁまぁってな感じで店主に至っては腕を組んでウンウンと頷いている。店主よ貴方は理解してくださるのか!
先生の元へは泊まり込みになるという事で今日でこの宿とは一旦の別れとなる。店主と奥さんにお礼を言い、今度はしっかり自分でお金を払い泊まらさせて頂きますと伝える。
宿の外へ出ると馬車が待っていた。
「先生の元は少し遠いので馬車で行きますわよ。」
先ほどまでのプンスカ顔とは違い周りに花が咲いているかのような笑顔になるセシリアであった。先生に会えるのがそんなに嬉しいんだろうなと思う。そして、今更ながらにセシリアの服装に違和感を覚えたのだった。
今日は甲冑ではないんだな…。白を基調としたワンピースで丈は膝下ぐらいまで。そしてピンクのリボンで腰辺り縛り結んでいる。大きな胸がより強調されてはいるが卑猥な感じはなく清楚な感じと言えば分かるだろうか。そして、髪を解いており、なびかせる金髪ロングはどことなく、どこかのお嬢様のように見えるのだが…
素直に清楚で綺麗ですね。と褒める。
セシリアは満更でもないようで照れながらも胸を張る。セシリアさん…胸を張るのが癖なのかな。俺にとっては凄くご褒美なのですが…良いのだろうか?と思ってしまった。
「今日は見回り等は大丈夫なのですか?」と聞きセシリアは答える。
「タケノリ、敬語はいらないですわ。あと、さん付けもいりません。普通にセシリアと呼んでくださいな。」
と少し照れながらも、はにかみながら言うセシリアは大変可愛かった。セシリアたんは俺の嫁!とでも言いたくなる程だった。満足。我、満足なり。
先生の元へ行くまで時間もあった為、先生について色々と聞いてみた。
「そうですわねぇ。怒ると怖いですが、普段は本当に物静かなお婆さんですわ。魔力は一級品。昔は王宮専属の魔術師だったのですけど、もうお年という事で退職をなさって今は隠居の身。それとー」
と言い紡ぐセシリア。それと?と聞き返すと
「それと…人を見る目が凄いですわ…あの方の前では絶対に嘘は付けません。タケノリも注意なさってくださいね。」
と苦笑いをするセシリアだったが…嘘か…一応、俺は平民出身であり異世界の事は隠しているのだが…そういうのも分かっちゃうんだろうか。
そうこう話をするにつれ先生の家に付いたらしい。馬車が止まると同時に先生が出てくる。
お婆さんと言っていたので失礼ではあるがヨボヨボな感じを想像していたのだが実際よりは若く見えた。年齢は60前半辺りだろうか。
にこやかな笑顔をしてはいるが冷たい作り笑いかのように感じた…が、セシリアを見ると一変し本当の笑顔に変わったかのようだった。
「クララ!久しぶりですわ!」
セシリアがそう言いながら馬車を降り、お婆さんへと近づく。ほう…クララ…とな…シューマンとかじゃないだろうな…
「セシリアや、よく来たのう。で、あそこにいる坊やが?」
と言うと俺を値踏みするかのように見てくる。ちょっと良い気持ちはしないものの、ここで特訓すれば俺も魔法を使えるのだと思うと気持ちが引き締まる思いだ。
「クララさん、初めまして。タケノリと言います。セシリアさんから魔力のー」
まで言ったあたりで手で静止される。
「タケ坊や、ちょいとこの石で、あそこにある岩に投げてごらん。全力でじゃ。今日の後の事は考えるでない。今持てる全てを込めて投げるのじゃ。」
と言い石を投げ渡される。けど、タケ坊って 苦笑。父方のばあちゃんの顔が思い浮かぶ。
石を受け取り、野球投手がピッチング前でよくするような…そう、ロジンバッグをポンポンとするような感じで石を扱う。
よし!まずは右手に集中だ。右手が熱くなる。あの時を…昨日を思い出すかのように目を閉じ集中する…
来た来た…この感じだ…
隣でエールを送ってくれていたセシリアの声はもう聞こえない。
今、持てる全ての力を…
ピンという言葉で表すことが少し難しいが緩んだ糸が引っ張られた時のような、あの感覚を感じたとき…今だ!
目を見開き大きく振りかぶり石を投げる。投げた石が赤く光る。
岩にぶつかった瞬間、ズゴオオと大きな音をたて、その石の形だけをくり抜いたかのように岩を貫通する。
ふわぁ…とその場に座り込む俺。そして、クララが口を開く。
「まだまだじゃのう。まるでなっとらんわい。魔力が分散しすぎておる。」
と言うと足元にある石を拾う。
「タケ坊、よく見ておき。魔力はこう使うのじゃ。」
そう言い、手首のスナップだけで石を投げる。と思った瞬間。
大きな爆発音を立てて岩が砕け散り土煙が舞う。
ーそして思ったのだ。夢を見るから、人生は輝く。と。