風呂から始まる
拙い文章で申し訳ないです。
お目汚し失礼いたします。
風呂。
それは癒しの空間。
幾世の歴史を経て進化し、現代の匠によって最適化されたそれは俺にとって何事にも替えがたい日々の癒しだ。
俺こと小橋健太はそんなことを考えつつ、今日も我が家の風呂を満喫していた。
「ああ~」
反射的にそんな言葉が出る。
湯に浸かりながら今日の出来事を振り返る。
今日のバイトは特にしんどかった。
なんせ閉店ギリギリで客が滑り込んでくるのだ。
そのせいで店仕舞いの時間が遅くなってしまった。当然、俺の帰宅時間も遅くなる。
でも仕方ないよな。だって閉店ギリギリでも店がやっていれば誰だって入ってしまうだろう。俺もそうする。
今日のバイトが特にしんどかったせいか、なんだか眠気がする。
いかんいかん、風呂で寝たら溺死する。
そう思いながらも眠気につられて目蓋を閉じると意識が薄らいでいく。
ドサッ
一瞬の浮遊感の後、とてつもない衝撃が全身を襲う。
「ぐふ」
凄まじい痛みで意識が覚醒し、のたうちまわる。
目を開けてあたりを見渡す。
そこは見知らぬ部屋、足元には幾何学的紋様が縁に描かれた円が俺を取り囲み、そして目の前には真っ黒な胡散臭いローブを着た身長180ほどの金髪碧眼で強面の男がいた。
「(悪魔ペトレマレストよ、我の命令を聞け。サマルカンドのアミュレットの在りかを教えるのだ。)」
は?
「(どうしたのだ?そなたはあの万物を知る大悪魔ペトレマレストであろう。さぁ、在りかを教えるのだ。対価はこの魔石だ。)」
おっさんは懐から赤い輝きを放つ大きいゴツゴツとした石を取り出した。
おっさんが何か喋っているのは分かるのだか、如何せん聞いたこともない訛りと独特の発音で意味不明だ。
多分、言葉は通じないだろうが助けを求めてみよう。
「すみません、ここ何処ですか?何が何やらわからないんですけど」
「(何を喚いている。ペトレマレストよ、そなたならこちらの言葉が分かるのだろう。私を試さないで頂きたい。)」
「何いってんの?ホントにわかないんだけど?」
「(はぁ、しょうがない。)」
おっさんは溜め息をつくと、突如仄かに青白く発光した人差し指で目の前に象形文字のようなものを三文字描いく。何やら呟くと文字が一際輝き、そして弾けた。
「これでよいか?ペトレマレストよ。」
え!言葉が分かる!何で!?
というかさっきの何?マジックかな。
「えっと、あなた誰ですか?」
「私は魔術師バートンである。もう悪戯はいいだろう。ペトレマレストよ、アミュレットの在りかを教えよ。」
「バートンさん、ペトレマレストって何?」
「そなたのことだ。大悪魔よ、もう試すのは辞めろ。」
バートンは苛立たしげに俺を睨み付ける
凄く…恐いです
「悪魔?俺は人間ですよ。」
「バカな、私の悪魔召喚の儀は完璧だ。ミスはない。」
バートンは自信満々にそう言い切った。
「でもそこの紋様掠れてますよ?」
俺は後ろの今にも消えそうなほどに掠れた紋様を指差す。
「あ…」
バートンは足下の幾何学的紋様で描かれた紋様を迂回し、掠れた紋様の方に慌てて移動する。
そして焦燥を浮かべた顔でじっと紋様を眺め、ブツブツと何かの専門用語を呟いている。そして十分ほど経った頃だろうか。どうやら分析が終わったようだ。おもむろに立ち上がり、俺に能面のような顔を向けて言った。
「此度の召喚は失敗に終わった。お前には死んでもらおう。」
「ちょ、ちょっと待った!なんでそうなる?」
「苦しまぬよう逝かせてやろう。」
「ふざけんな!」
怒りに身を任せバートンに掴み掛かろうと円の外に出ようとすると、バチッと電撃が走り、体が弾かれる。
「結界も知らぬとはな。お前は本当に悪魔ではないようだ。」
俺はここで死ぬのだろうか…
嫌だ!女も知らないまま死にたくない。
童貞のまま死にたくない!
そして俺は…
「バートンさん!何でもしますから殺さないで下さい!」
全裸土下座を敢行するのであった。