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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とあげはの動物実験
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俺とあげはと不細工な猫

「来たよ鹿野さん。……少女漫画を読むなんて、意外と女の子らしいところあるんだね」


 メールで呼び出された俺が彼女の研究室に向かい、本を読んでいる彼女の後ろから中身を覗くと、そこには可愛らしい女の子がたくさん描かれていた。


「失礼極まりないわね。それとこれは少女漫画じゃないわ。『河合なんてそんなとこ行っちゃ駄目です』のキャッチコピーでお馴染みの、予備校生の日常を描いた萌え漫画よ」

「予備校生って結構年行ってない? 萌えなの?」

「絵柄が可愛ければいいのよ。可愛いイズジャスティスよ。そう、そこなのよ」


 あまり萌えに思えない設定の漫画をパタンと閉じると、味噌汁に手招きをする彼女。ぴょんと彼女の膝の上に飛び乗った味噌汁を撫でながら、ケージの中にいるハムスター達を見つめ始める。


「可愛ければ大抵の事は許されるわ。過去に悪いことをしてようが平然と主人公の仲間になれるし、人格破綻者でも仲間に恵まれる。私は女の子だから、漫画で見た目がいいだけの女が幸せになるのを見ると腹が立って仕方がないわ。可愛いだけの女なんて、風俗にでも堕ちるのがお似合いよ。あの手の話が人気なのは、読者が主人公ではなくヒロインに感情移入していると聞いたけれどどうなのかしらね? 自分の性格が悪いから、性格が悪いけど幸せになるヒロインにシンパシーを感じるの。哀れね」

「散々な物言いだねえ……まぁ、気持ちはわかるよ」


 お話の中の可愛い女の子に癒されるどころか苛々してしまう哀れな彼女だが、全く共感できないかと言われれば嘘になる。俺も男だ、特に取り柄もない、強いて言えば家事スキルがあって女装したら可愛くなる程度のなよなよした昨今の主人公が女にモテるのは気に食わん。うんうんと頷く俺を後目に、彼女はハムスターのケージに指で鉄砲を作ってばっきゅーん。


「どうして猫やハムスターを虐めてはいけないのかしらね」

「そりゃ法律で決まってるからだよ」

「そうね。法律にはきちんと従うのが私達とは違う、真っ当な人間というものよ。けれど私達はもう子供ではないのだから、何故そんな法律が出来たかを考えましょう。ハムスターはともかく猫は害獣もいいとこよ。アレルギーの人は多いし、糞は臭い。おまけに発情期にミャーミャーと煩い。けれども猫は守らないといけないの。何故?」

「可愛いからであります」

「そう! 可愛いイズジャスティス!」


 意外にも彼女は自分も法律にきちんと従わない人間だと自覚しているようだ。日頃から俺のことを犯罪者だの明らかにアレな研究ばかりしている自分を棚に上げていたので自覚がないのだろうかと若干不安になっていたのだ。少しは察せる人間になった俺が彼女の問いに答えると、味噌汁を抱き上げてくるくると回転し、その後思い切り撫でた。流石に味噌汁も嫌そうだ。


「猫は可愛いから愛されるの。ハムスターは可愛いから愛されるの。ゴキブリとは違うの」

「そもそも鹿野さんは味噌汁を可愛いと思ってるの? 研究対象として見てるんじゃないの?」

「でもね、こう考えたことはないかしら。『この世の猫が人間にとって不細工になったらどうなるのか』……興味ある? あるわよね? 猫好きを公言して、猫のためなら他人を攻撃することも厭わない連中が、不細工な種族へと変わってしまった猫に牙を剥く……嗚呼、その光景が見たいわ」

「ガン無視かい」


 俺の真っ当な質問を無視し、猫好きの人間が猫を攻撃する光景が見たいと語る彼女。彼女は味噌汁の顔に手を当てて、こねくり回して精一杯変な顔を作って見せた。味噌汁はかなり嫌そうでジタバタと暴れ、彼女の手の中から逃げ出してしまった。


「全ての猫が可愛いわけではないわ、世の中人間にとっては醜い猫もいるものよ。その猫の繁殖能力を高めて、更に顔が優先的に遺伝するようにして放てば、しばらくすればこの辺の野良猫が不細工だらけになるかもしれないわ。貴方も気兼ねなく撃てるわね」

「生産性のない研究だなぁ……」

「これは私なりの警告なのよ。人間にとって害を持つ動物を絶滅させるために、子供が繁殖能力を持たないようにした動物を放つなんてことを平然と行っているわ。その報いは受けるべきなのよ。目に見える形で、人間に自分達のやっていることがどういう結果になるかを教えてあげたいの。さぁ、不細工な猫を探しに行きましょう」


 カゴや麻酔銃、餌をカバンに詰め込んで、研究室の外へ出る彼女とそれについていく俺。とりあえず近場で野良猫を探すが、自発的に探すと見つからない、所謂物欲センサーが発動したのかなかなか出会えないし、出会えたとしても可愛い、撃ちたい猫ちゃんばかりだ。


「このまま野良猫を探していても、貴方が衝動的に撃ちそうね。ペットショップに行きましょうか」

「信用無さすぎじゃない? ペットショップは可愛い猫だらけじゃないの?」

「配慮してあげてるのよ。優しいわね私。ペットショップにいるのは可愛い猫じゃなくて高い猫よ」


 その辺の猫を探すのを諦めて、ペットショップに向かう俺達。血統書つきらしい高級な猫を眺めていると、鹿野さんがケースの中にいるチワワを指さす。


「この子なんてどうかしら。可愛いと思う人は少ないわよ」

「チワワじゃないか。猫ですらないよ」

「何言ってるのよ、これは猫よ。スフィンクスよ。お金持ちには人気だけど、こんなものが街中をうろついていたら嫌よね」


 言われて説明文を読んで見ると、確かに毛の薄い猫だと書いてある。趣味柄それなりに猫には詳しいつもりだったが、所詮はその辺をうろついている日本の猫しか知らないな、と向上心を高く持とうと決意した俺を後目に6桁を超える、日本人からすると見慣れないからか可愛いとは思えない猫達を眺める彼女。


「……高い猫は飼うのも大変なのよね。温室育ちだから貧弱だったりするし。保健所に行きましょうか。病気持ちや奇形の猫を救う女神になりましょう」


 しかしペットショップのお高い猫は気に入らなかったようで、今度は保健所に向かう俺達。保健所と言えば犬や猫を殺す場所というイメージが強いが、実際には役場のように手広くやっている。その一角に、里親を募集している動物達が集められていた。


「犬は猫を恨んでいるのかしらね。狂犬病対策に野良犬が駆逐されて、次は迷惑な野良猫だ、という時に法律が変わってなるべく殺しては駄目です、飼い主を探しましょうだなんて」

「猫を飼っているとトキソプラズマにかかる可能性があるとかニュースでやってたけど、あれは危険なの?」

「そうね、猫を飼っている人に頭がアレな人が多いのはそれが理由だ、って主張している人もいるわ。将来その因果関係が明確になったら面白いことになるかもね。それにしても流石は保健所、病気持ちの猫が多いわね」

「動物のお医者さんなんだから治してあげようという気にはならないのかい」

「私はまだ資格がないし。簡単な怪我ならともかく、責任の取れないことはするべきじゃないわ」

「変な研究はするのに……げっ」


 職業柄? なのか病気で毛がかなり抜けていたり、顔のバランスがおかしい猫を興味深く眺める彼女。俺も彼女に合わせて猫を眺めていたが、その中に見覚えのある猫が。


「あ~ら、ここの怪我をして保護された猫に見覚えがあるのかしら」

「いやー、全然ないなあ、ははははは」


 彼女の追及にわざとらしく笑う俺。彼女の言う通り、この猫は昔俺が撃った猫だ。怪我は治っているようだが、野良猫だったので結局保健所で飼われることになったのだろう。達者で暮らせよと勝手な事を思っているうちに、結局引き取るつもりは無かったのかあくびをしながら出口に向かう彼女。


「結局飼わないの? 不細工な猫」

「なんだか馬鹿らしくなってきたわ、不細工な猫が虐げられるのなんて、最初から保健所に行けばわかることじゃない、研究するまでも無かったわ。それに……不細工な猫なんて飼いたくないわよ。飼うなら可愛い猫の方がいいに決まっているわ」

「それもそうか」


 不細工な猫なんて飼いたくないと言い切る彼女。その彼女の発言を批判することなどできやしない。彼女が俺にとって可愛くなければ、あの時俺は彼女の申し出を断っていただろうから。彼女に惹かれていることを再確認した俺は、可愛い猫に囲まれてお茶でもしないかと、猫カフェにでも誘ってみるのだった。

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