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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とあげはの動物実験
6/57

俺とあげはとフェミニズム

「あら。クイズを出してあげるわ。正解したらご飯を奢ってあげましょう」

「それはどうも」


 ある日のお昼。学食でご飯を買おうとした俺の横に鹿野さんが現れる。俺はミールカードで今日は昼で講義が終わるので使い切りたいのだが。


「クモ、カマキリ、ハチの共通点と言えば?」

「虫」

「……」


 彼女の出したクイズにコンマ1秒で答える。クモは昆虫ではないが大半の人は虫扱いしているし間違っていないはずだ。彼女は露骨にイライラした表情でかけうどんを注文すると、ドンとテーブルの上に置いた。


「どうぞ」

「いただきます。俺のミールカード使っていいよ」

「どうも」


 想定外の答えを出してしまったお詫びにミールカードを手渡す。俺がかけうどんを食べ終わる頃には、カツ丼にサラダにケーキにジュースのフルコースを持った彼女が戻ってきた。どうやら限度額一杯使ったらしい。


「ちなみに本来の答えは交尾でオスが死ぬ可能性が高い生き物よ」

「ふうん。カマキリは知ってたけどクモやハチもなんだ」

「カマキリとクモは交尾後に食べられるケースが多いわね。ハチは凄いわよ。ヤってはオスのアレが千切れて、そしたら次のオスがやってくるの。食事中にする話じゃないわね」


 ハチの悲しい交尾を語って俺の下半身をキュンとさせると、食事に集中したいのか無言でパクパクと食べ始める。我が大学の学食は全国最低レベルと名高い。質もさることながら、安いから何なのだと言いたくなるようなおかずの貧相さが有名だ。その辺の外食に比べたら多少はコスパがいいのかもしれないが、貧乏な大学生が使うのだからもう少し色をつけて頂きたい。そんな事を思いながら眺めているうちに、食べ終えた彼女がため息をついた。


「ところで貴方、日本は男尊女卑だと思う?」


 そのまま難しい質問を投げかけてくる彼女。正直言ってよくわからない。俺は女ではないから女の苦労など知らないからだ。だが真実なんてどうでもいいことだ。女性の話はとりあえず女性に有利なように肯定しておけばいいのだから。


「うーん、そうだね。外国にも指摘されてるみたいだし、女の子も不満言ってるし、そうだと思うよ」

「貴方のような女に好かれたいからフェミニズム発動させる人間が社会を滅ぼすのよ。今絶対『よくわかんないけど同意しとけば角が立たないだろう』とか思ってたでしょ。そうやって女性を勘違いさせた結果が今よ。反省しなさい」

「え、ええ……? ご、ごめんなさい……。てことは鹿野さんは男尊女卑だと思ってないの?」


 ところが鹿野さんは俺の返答に肩をすくめて呆れた上に、蔑むような視線を投げかける始末。同意して欲しかった訳ではなくむしろ否定して欲しかっただなんて、恋愛経験がそこまでない俺には難易度が高すぎるというものだ。謝りながら彼女の考えを聞くと、


「だって女って劣ってるじゃないの」


 彼女は何の躊躇いも無くそんな発言を繰り出す。ここは学食。周囲には女性だってたくさんいるというのに。瞬間空気が凍ったような気がした。聞いていた周りの女が『あ? 何言ってんだこいつ』とでも言いたげに鹿野さんを睨んでいるような気がした。


「いやいや、鹿野さん優秀じゃないか」

「私はそりゃあ優秀よ。努力したもの。でも統計的に見たら、身体も弱けりゃ頭も悪い、おまけに感情で動きがち。貴方も『女って馬鹿だから、話振られたら同意しておけばいい、肯定しておけばいい、そしたら私の事をわかってくれるって感じで股を開く』って思ってたんでしょう? そりゃあ処女も少ないはずよ」

「うっ……」


 そのまま構うものかと女性を批判する彼女。総合病院の跡取り娘として、彼女は並大抵ではない努力をしてきたはずだ。だからこそ、周りの女性を好きになれないのかもしれない。自分ならまだしも、周りの女性が権利を欲することを快く思っていないのかもしれない。


「でも女性は子供を産めるし、犯罪者だって男のが多くない?」

「貴方が言うと説得力あるわね。けれどね、子供を産めるって言えばメリットかもしれないけれど、優れた遺伝子を大量に残すことが不可能と考えるとデメリットでしかないと思うわ。犯罪率も男性ホルモンによる攻撃性が影響しているのも事実でしょうけど、日本の女性は犯罪なんてしなくても国に寄生して生きていけるからというのもあるでしょうし、弱いから暴力を振るおうとしても失敗に終わりがちというデータもあったはずよ」

「とりあえず、続きは研究室で聞くから、ここ出よう」


 俺まで女性批判主義者の仲間だと思われたら堪らないので自虐ネタも踏まえてフォローをするが、彼女のマシンガントークは止まらない。お互いの平穏な学生生活のために、彼女を外に連れ出して研究室に向かう。研究所に着くや否や、彼女の話は女性批判から愚痴へと変わっていった。


「という訳なのよ、私の苦労が解って頂けたかしら?」

「優秀な女性には優秀な女性の悩みがあるんだね、よしよし」

「ふん、私はそれくらいで股は開かないわよ。つまり何が言いたいかと言うと、真のフェミニズムのために私達がすべきは、女性のハンデを制度によって埋めるのではなく、配合によって埋めるべきなのよ。メスが強い生き物を研究してそのメカニズムを応用すれば、世代を経るごとに女性がどんどん進化していくかもしれない。そうして真の男女平等を手に入れるの」


 彼女は女性は嫌いなのかもしれないが、男女平等に反対している訳ではない。女性に有利な社会にして生産性を下げて男性との溝を作るよりは、女性自身が今よりも優れた種になるべきだと言っているのだ。彼女は棚にあった図鑑を開くと、俺にカマキリのページとクモのページを見せてきて、この種類はメスが強いから見つけたら捕まえといてねと指令を出す。


「カマキリとクモなんてそんな頻繁に出会わないよ、それこそどこかの研究室から貰って来たら? そもそもその研究が効果があるとして、成果が出るのは相当先でしょ。制度でハンデを埋めた方が現実的だと思うけどなあ」

「争いばかりしていた人間が一応は平和な社会を目指そうと努力するようになるまで一体何年かかったと思ってるの? 人間は簡単には変われないし、無理矢理変えようとしても失敗するだけよ。だから貴方もその年になってそんな事をしているのでしょう?」

「確かに」


 俺もこんな事は辞められと思った事は何度もある。人としてやってはいけないことだ、逮捕されたら大変だ、女にモテない……けれども辞められなかった。ギャンブルだってタバコだってお酒だって一緒だ。簡単に人間が変わることができたなら、今頃この世は天国だ。


「研究とは時間のかかるものよ。私の研究が実を結ぶまでに、果たして人間が滅びてなければいいのだけど。どうするのよ少子化。科学が進歩しすぎて、なまじ結婚しなくてもやっていける人が増えたのは誤算だったわね。異なる価値観を下手に認めるせいで、結婚しない、子供を作らない生き方も認めてしまったのも痛い話よ」

「それは遠回しに私と子作りして欲しいってアプローチ?」

「そうね。交尾して妊娠した後は解体しようかしら。そうしたら浮気の心配も無いわ。そうそう、既にカマキリを何匹か捕まえておいたんだったわ」


 交尾の話を平然としたり、股を開くだの言っていたり、実は興味があるのだろうかと思って軽くギャグをかましてみたが、返ってきたのは恐ろしい台詞。実際にそういう女性がいたらヤンデレに属されるのだろうかと悩んでいる俺の目の前に、カマキリが数匹入った虫かごが置かれる。


「わあ、カマキリだ。やっぱカッコいいよなぁ、男のロマンって感じ。触っていい?」

「潰さないなら」


 俺も男の子だ、屈折した趣味は抜きにして、純粋にカブトムシやクワガタを見てカッコいいと思う感情を持っているし、カマキリも俺からすればカッコいい寄りだ。虫カゴを開けてカマキリを手に取ろうとする俺を彼女はぼーっと眺めていたが、


「駄目!」


 いきなりハッとした表情になり、俺の手を取り上げ、虫カゴを奪い取る。


「え、え? ごめん、何かまずいことした?」

「……い、いいえ、そうじゃないの。えーと……そう、このカマキリは特殊なカマキリでね。触るだけで毒が染み込むのよ」

「うわ、そんなカマキリいたんだ。怖いなぁ……」

「と、とにかく、カマキリとかクモを見つけたら宜しくね。今日は帰っていいわ」


 困惑する俺に虫カゴの中のカマキリの恐ろしさを語ると、俺を追い出すように研究所から出して鍵を閉めてしまう。よくわからないけど、女の子も色々あるんだろうなとそれっぽい事を悟りながら帰路につく。翌日になり食堂でミールカードを彼女に渡したままだった事に気づき、将来結婚したらこんな感じで財布を奪われるのだろうかとげんなりしてしまうのだった。

ミールカード……主に大学生協の学食で使える、一日~~~円まで使い放題のカード。

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