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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とここねと動物虐待
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俺とここねとノーマルエンド

 あの時、猫を殺した時も、ここねちゃんは勝手に銃を持ち出していた。けれど今のここねちゃんは、狸を見ても怯えるような状態。人間どころか動物だって撃てやしない。そんな彼女が銃を持ち出してやることと言えば、1つと決まっている。ここねちゃんの選びそうな場所を俺は1つくらいしか知らなかったが、それが正解だったようで、公園には大きなスコップで穴を掘り続ける彼女の姿があった。今は深夜でも何でもない。彼女が学校の帰りに俺の家に寄って、それからしばらくした程度の夕方。だというのに、人気は全くなくて、俺とここねちゃんの二人しか最初からこの世界にはいなかったかのような雰囲気を醸し出している。


「何やってるのさ、ここねちゃん。落とし穴でも掘るつもりかい」


 俺の呼びかけに応じることなく、無言で穴を掘り続ける彼女。やがて白くて硬いものを掘り当てる。あの時彼女が殺して、俺が埋めた猫の残骸だ。匂いもとっくにしなくなったそれを、彼女は大事そうに抱えた。


「犬神さん。私が死んだら、この子と一緒に埋めてください」

「猫と人間じゃ大きさが違いすぎるよ。どれだけ大きな穴を俺に掘らせるつもりだい。いずれ人だってここに来る。馬鹿な事言ってないで、帰ろう。さあ、家まで送るよ」


 彼女の手を取ろうと一歩踏み出すと、右手に持っていたソレをこちらに向ける。それでも俺の心に焦りなんて文字は無かった。


「来ないでください。来たら撃ちます」

「強がるのはやめなよ。ここねちゃんにそんなことをする勇気は無いよ」

「強がりじゃありません! 私は、本気、なんです……」


 俺の挑発とも取れる呼びかけに、声を震わせながら銃口を自分の耳元へやる彼女。銃を持つ手もガタガタで、引き金を引いたところで当たるのか疑問なところ。


「猫をわざわざ掘り当てたってことは、罪悪感があるってことだろう? だったら生きなきゃ。罪の無い動物達に八つ当たりした贖罪は、立派に成長して、動物を愛せる人間になることで行うんだ」

「煽った、分際で、いけ、しゃあしゃあと……!」


 クソみたいな正論をぶちかます俺を、同じくクソみたいな正論と共に睨みつける彼女。全くもってその通り、返す言葉もないが返さなければいけない。


「そうだね。だから俺も変わるよ。俺も意思の弱い人間だ、何かストレスが溜まればまた動物を撃つかもしれない。だから二人で変わるんだ。一緒にやり直そう」

「そんな自己啓発は、他の人と、やればいいじゃないですか! 私なんかじゃなくて! 犬神さんなら、もっと他に、いい人と、結ばれるんです! 一緒にやり直したって、どうせ、どうせ……」


 俺の愛の告白を嗚咽混じりに拒絶する彼女。彼女は自分が捨てられると思っているのだろう。親からも、クラスメイトからも拒絶され続けた彼女に、自分に対する自信なんてものは最早どこにもない。ここで俺と一つになったって、半年後には捨てられる。中途半端に愛されて傷つくことは、彼女にとっては今死ぬよりも遥かに辛いのだ。


「確かに、前世も、前々世も、前々々世も、俺は多分別の人と結ばれたよ。でも現世は現世。銃を持っているここねちゃんに臆さずに歩み寄る俺の本気が伝わらない?」


 前世だの訳の分からない事を言いながら一歩ずつ歩み寄る俺に、恐怖なんて感情はどこにもない。あるのは目の前で震えている、銃を向けられて怯える子猫のような彼女を愛らしいと思う感情だけだ。ああ、きっと俺は、ずっと小学生だったのだ。本当は小さい動物が好きだったのだ。守ってあげたかったのだ。それでも素直になれなくて、好きな子にいたずらするノリを、ずっとずっと引きずっていたのだ。悟りを開いた俺は変われるはずだ。目の前の彼女さえいれば。


「い、いや、こない、で……」


 泣きながら、俺から逃げるように後ずさり、途中で転んで尻餅をつく彼女。引き起こしてあげるよとばかりに手を差し出しながら歩み寄る俺。一進一退の攻防が続く中、とうとう彼女は公園にある茂みにぶつかってしまい、これ以上後ずさることができない。腰が抜けているのだろう、立ち上がって逃げるなんてことはできそうにない。


「大丈夫、俺は逃げないよ。君が逃げたって今日みたいに追い詰めるよ。だから……」


 彼女のすぐ傍までたどり着いた俺が、起こしてあげようと手を取ろうとした瞬間、


「いやあああああああああっ!」


 パニックになった彼女が銃を構え、引き金を引く。その先にあったのは、俺だった。



 …


 ……


 ………





「う、うううう、ううううえええええええっ」


 地面に仰向けに倒れる俺の目の前で、彼女は号泣していた。後を追うなんて考えは微塵もないようで、銃を投げ捨てて、俺の着ていた服を涙でぐちゃぐちゃにする。


「これでわかっただろう? 死んで贖罪だなんて無理なんだよ。生き残った人が、心に深い傷を負うんだ。きっとさ、学校にだって、ここねちゃんの味方はいるはずなんだよ。自分がいじめられるのが怖くて黙ってるだけでさ。そういう子がさ、ここねちゃんが死んだって聞いたら、きっと自分を責めるよ。どうして勇気を出さなかったんだろうって。一生それを引きずりながら生きていくことになるんだ。だからもう、安易にそんなことは考えないで欲しいな」

「はい……はい……わかりました……う、うううううぇぇぇえええええ」


 話の内容を今の彼女がちゃんと聞いているのかはわからないが、彼女は全力で首を上下に左右させて、俺の言うことに対して頷く。この分なら、彼女は一人でも大丈夫かもしれない。


「それを聞いて安心したよ。もう一人でも大丈夫かな?」

「だめ、です、私には、犬神さんが、鷲人さんが、必要、なんです、わがまま言わないから、いい子にするから、お願いします、死なないで、ひぐっ、えぐっ、うわあああああああっ」


 けれども、男に二言は無い。例え彼女が一人で大丈夫と言おうと、無理矢理にでも足を縛り付けて、二人三脚で歩んでいく義務がある。だから俺は、


「わかった。死なない」


 ひょいと立ち上がると、きょとんとする彼女の手を取って立ち上がらせて、抱きしめて強引にキスをした。受け入れているのか、単純に頭が追い付いていないのか、そのキスはしばらく続く。こんなこともあろうかと、銃弾は抜いておいたのだ。


 …


 ……


 ………



 俺達は動物園に来ていた。周りの人達は俺達を犯罪者扱いなんてしていない、ただのロリコン男と女子中学生のカップルと見ていることだろう。実際には一生かけて償わないといけない罪があるのだが。そんなわけで、まずは動物を純粋に愛することから始めよう。


「ペンギン、可愛いですね」


 よちよちと歩くペンギンを眺めながら、ぽけーっとした表情で呟く彼女。あれから彼女の境遇が変わったわけではない。彼女が両親に愛されるようになったわけでも、クラスメイトに愛されるようになったわけでもない。残念ながらそんなハッピーエンドは、俺には無理だ。俺に出来たことと言えば、愛されるということと、愛するという概念を理解させたことくらいなもの。それだけでも、彼女にとっては十分だったらしい。


「ゴリラですよ。大きいですね。あ、こっち向かってきます。何か持ってますよ、バナナでもくれるんでしょうか?」


 檻の中をうろうろしているゴリラを眺めていると、こちらに気づいたゴリラがウホウホとこちらに近づいてくる。ゴリラが持っているのはバナナではない。それが何かを理解した俺は、頭の中で回避のシミュレーションをする。ある程度まで近づいたゴリラは、ここねちゃんに向かって持っていたそれを投げた。


「ひゃっ……あ、当たるところでした……く、くさっ! な、なんですかこれ!」

「うんこだよ。動物園のサルはうんこを投げるの」

「もー、当たったらどうするつもりですか……ふ、ふふふ、あははははっ」


 彼女の近くの地面にべちょっと投げつけられたそれは異臭を放ち始める。彼女のツボにハマったのか、怒ることなく笑い始める。今まで笑わなかった分を取り返すように、ずっと、ずっと。そんな彼女の、ようやく見せてくれた、ちゃんとした笑顔を、俺はずっと、ずっと眺めていた。これからも、ずっと、ずっと。




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