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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とここねと動物虐待
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俺とここねと汚い花火

「あー……猫、撃っちゃったんだ」

「……」


目の前でうつむく彼女と、猫だった肉塊。犬を撃ち殺した経験があるからか、驚くほど冷静に反応している自分がいた。キョロキョロと辺りを見渡し、柔らかそうな地面を見つけるとそこに血に触れないように肉塊を持ち運ぶ。


「とりあえず、埋めよう。証拠隠滅だ」

「……はい」


こうなることが予測できなかったわけではない。周囲の人間への憎しみは、ここねちゃんに動物を撃ち殺す勇気を与えてしまった。殺してしまったことは仕方がない。今更警察に二人で自首してやり直そうなんて考えは全くない。周囲に人がいない事を確認しながら穴を掘ると、そこに肉塊を投げ入れて埋める。お墓の意味合いも兼ねていたので、心の中で合掌をした。


「ほら、銃は預かっとくから」

「……」


いつのまにか俺の部屋から持ち出していた銃を渡すように言うと、銃を我が子のように大事に抱きしめながら、不服そうな顔をする。


「ここねちゃんが持ってるってバレたら、大変な事になるよ。一人暮らしの俺と、家族と住んでるここねちゃん、バレやすいのはどっち?」

「……」


かといって今の彼女に銃を持たせたまま帰らせれば、家が血の海になりかねない。尤もらしい説得を続けることしばらく、理解してくれたようですっと銃を俺に差し出した。受け取った銃を俺がカバンにしまうと、彼女は一人にさせてくださいと言わんばかりにとぼとぼと家路につくのだった。数日後、事前に連絡することなく俺の部屋のチャイムを連打して、扉を開けるや否や入ってきた彼女の顔には、痣ができていた。


「親にやられたの?」


男の一人暮らしに救急セットなんてもんはない。ダッシュでコンビニで治療に役立ちそうなものを買ってきて、消毒液のついた綿で痣をぽんぽんするという、合っているのかもわからない治療を続けながら問うと、彼女は歯ぎしりをし始めた。


「……学校の連中です。犬が死んでからもう大分経ちますからね、日常に戻ったんです。むしろ向こうはストレスが溜まってるわけですから、前より悪化したのかもしれませんね」


怨嗟の表情をしながら、彼女は俺の机を見る。正確には、俺の机に置いてある、犬や猫の命を奪ったそれを。


「次は、何を殺せばいいんでしょうか?」

「ここねちゃんは何もやる必要は無いんだよ。さあ、応急処置は済ませたから、帰ってゆっくりおやすみ」

「……」


生気の無い表情で、とぼとぼと俺の部屋を出ていく彼女。家族でも無い、学校だって違う俺はここねちゃんの盾にはなれない。けれど、ここねちゃんの剣にはなれるとばかりに、俺はエアガンの整備をし始める。数日後の夜、俺は犬を殺したあの家の近くに黒ずくめの姿で潜む。主犯格がこの日は部活で遅くに帰ってくることは既に調べがついている。しばらくするとターゲットが歩いてきた。まだ犬が死んだことから立ち直れていないのだろう、少しその表情は弱々しいが、そんな表情でも平然とここねちゃんを虐める悪魔なのだ。容赦はしない。


『パァン!』

「ひっ…!」


威嚇射撃がてら彼女の足元をエアガンで撃つ。エアガンといっても目いっぱい威力を上げるように改造したのだ、当たればしばらく学校に来れないくらいの怪我はするだろう。何発か威嚇射撃をしただけで、彼女は大きな声を上げることも、逃げることもできずにただ立ち尽くすのみとなった。集団で弱者を虐めるような連中は、一人になれば何もできない。


「だ、だれか、たすけ、てっ……」

「警告だ。これに懲りたら、二度と犬なんて飼うな。もし吠える犬を飼って見ろ、次はお前の家族も似たような目に合わせてやる」


ここねちゃんを虐めるな、と警告したいところだが、そんなことを言えばここねちゃんの差し金だとバレてしまうのは当然の話だ。だからあえて犬に絡めることで、犯人はここねちゃん関係ではなく、犬の吠える声にうんざりしていた近隣住民だとミスリードさせることにした。彼女が俺を近隣住民の誰かだと思って混乱している間に、俺は彼女の脚を撃ち抜く。


「あぁっ……!」

「痛いか? 苦しいか? だが、彼女の痛みは! 苦しみは! こんなもんじゃねえんだよ!」


大事なここねちゃんの仇を取る気持ちは何だかんだ強かったようで、ギロリと彼女を睨みつけながら、大きな声は出さない方がいいとわかっているのに、彼女の、なんて言うべきではないのに、怒号を発しながら、執拗に同じ箇所を何度も撃つ。悲鳴と怒号により人がやってくる気配を察知した俺は、もう少し撃っておきたかったのにな、と動物を撃っていた時の感情を思い出しながら、その場から逃げ出すのだった。



『以前お伝えした犬が殺害されたニュースですが、昨日犬の飼い主である女子中学生が何者かに脚を撃たれる事件が発生致しました。被害者の証言から、警察は近隣住民の犯行によるものと見ており……』


翌日、大学から帰って部屋でテレビをつけていると、そんなニュースが飛び込んでくる。俺の思惑通り、近隣住民が怪しまれてくれたようだ。しばらくは俺もここねちゃんも疑われる心配は無いだろう。あらぬ疑いをかけられた近隣住民に心のなかでごめんなさいをしているうちに、ここねちゃんがやってきたのかチャイムが鳴る。


「あいつ、しばらく入院するみたいです」

「よかったね」

「皆可哀相だよねって、お見舞いに行くみたいです。何かクラス全員でカンパする流れになって、私も徴収されました。……周りを傷つければ傷つけるほど、最終的に私に跳ね返ってくるんですかね?」

「……」


テレビのニュースを眺めながら、イライラした表情で色々語る彼女。良かれと思って復讐を手伝ったけれど、失敗だったなとため息をついていると、彼女はイライラが限界に来たのか、リモコンを手にしてテレビに思い切り投げつける。彼女の力が弱いのか、テレビが頑丈なのか、液晶が割れるなんてことはなく、リモコンがボトンと落ちて、蓋が取れて電池が転がる結果に終わる。ギロリと机の上に置いてある銃を見つめる彼女を眺めながら、液晶が壊れてくれた方がストレス解消になってくれたのにと、自分の私物より彼女の幸せを願う男になる。


「ああ、そうだ、やってみたいことがあったんですよ。線路行きましょう」

「線路?」


何をするかは知らないが銃を使わないならまあ大したことじゃないだろう、だなんて呑気な事を考えながら、部屋を出て一人ですたすたと歩く彼女についていくことしばらく、普段から俺達が使っている電車の線路の前へとやってくる。その近くには何匹か野良猫がいた。普段から人に餌を貰いなれているのか、それともここねちゃんがこっそり餌付けをしていたのか、俺達の方に自然とすり寄ってくる。


「それは?」

「またたび粉ですよ。ほら、猫ちゃん達、最後の晩餐ですよ」


ここねちゃんはカバンからまたたび粉の入った袋を取り出すと、それを開けて線路の方へと投げつける。線路中に振りまかれるまたたび粉とその匂い。猫達はぞろぞろと線路の中へと入りこみ、狂ったようにまたたびを堪能し始めた。しばらくすると、遠くからカンカンという踏切の音がする。


「何するんですか、手を退けてください」

「……」


ここねちゃんがやろうとしていることを理解した俺は、黙ってここねちゃんの目を塞ぎ、巻き込まれないように、乗客に姿を見られないようにその場から離れる。やがて電車がやってきて、周囲で汚い花火が咲いていく。殺ったのは電車だ、なんて言い聞かせながら、ここねちゃんに結果を見せることなく、その場を後にした。


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