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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とここねと動物虐待
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俺とここねと復讐の結果

『続いてのニュースです。本日〇〇市の住宅街にて、犬が殺害されており、警察は注意喚起を…』


 ローカルテレビ局をつけると、そんなニュースが飛び込んでくる。所詮は犬が一匹殺害された程度の事件、全国で時間を割いて流す価値はないのか、数秒ほどで終わって次の殺人事件やらのニュースに切り替わった。




「くそっ……折角あの家の犬は、記事にするつもりで編集してたのに……僕が取材したばかりに……!」

「熊ヶ谷さんに何の落ち度があるんだい、何の因果関係もないよ。強いて言えば、俺が日当たりのいい部屋に移動した方がいいかもねとアドバイスをしたせいかな……」

「いや、犬神君のせいじゃない、全部、全部悪いのは犯人だ。わかってる、そんなことくらいわかってる。それでも、それでも僕はっ……!」


 全体でみれば大したことのない事件、それでも当事者からすれば、それなりに大きな事件。俺に乗せられて何件も取材をした挙句、取材対象が殺されてしまうという悲劇に見舞われた熊ヶ谷さんが、講義中ずっとぶつぶつと呪詛を呟いていた。この調子では当分講義の内容は入って来ないだろう。留年しないかが心配だ。嫌っているお嬢様が落ち込んでいる姿を見て複雑そうな表情をしている獅童さんにフォローを頼みながら、愛する彼女とSNSで会話をする。いじめの当事者は、今日は学校に来ていないらしい。犬とは言え家族を殺されているのだし、そもそも立派に事件なのだから当然の話だが。


「えへへ……えへへへへ……あいつが、学校にいないから、快適です! 取り巻き達も、『大丈夫かな』『心配だよね』とか言ってるだけです! 一生学校に来なければいいのに」


 周囲に怯えることなく学校生活を送るのは久々なのか、学校が終わった後に俺の部屋に来た彼女はとてもハイテンションだ。ただ彼女に友達なんて存在は皆無なので、ざまあみろ、という内容以外に学校であった出来事を語ってはくれなかったのだが。飼い犬を殺された哀れな加害者が学校に来るまで、こんな感じに意気揚々とざまあみろという呪詛を呟き続ける彼女を愛でることしばらく、ようやく主犯が学校に来るようになったのか、この日俺の部屋に来た彼女はいつもと様子が違った。


「……」

「主犯格が、学校来たんだろう? どうだった?」

「凄く落ち込んでました」

「よかったね」


 ここ数日はきちんとインターフォンを押し、俺が鍵を開けるとニコニコしながら部屋に入ってきて挨拶をしていた彼女だったが、この日はガチャガチャとノブを回して強引に開けようとしてきて、俺が鍵を開けても無言でつかつかと部屋に入り、定位置だとばかりに不愉快そうにベッドに座った。主犯格が落ち込んでいると語る彼女の方が余程落ち込んでいるように見える。よかったね、と気休めに言ってみるも、それは彼女を余計落ち込ませるだけだった。


「泣いてました」

「ざまあみろだね。ここねちゃんを虐めるからそんな目に逢うんだ」

「人間らしい感情があったんですね。悪魔とばかり思ってました。犬のためには泣けるのに、どうして私を泣かせることには躊躇しないんでしょうか。私って、何なんですか? 犬畜生以下の存在なんですか?」

「気にしない方がいいよ。ああいう女は、自分に酔ってるだけだ。犬のことなんて、大事になんて思っていないに決まってる」

「クラスメイトも、皆あいつを慰めるんです。私が教室で時折泣いたって、気持ち悪いとか、泣くならどっか行けとか言って来るのに。私って、私って……」

「放っておけばいいよ、そんなクラスメイト。感覚が麻痺してるんだ。俺はちゃんとここねちゃんを正当に評価しているよ。さあ、美味しいものでも食べようよ。俺結構自炊と化してるから料理とかうまいんだ、作ってあげるよ」


 俺のベッドに座ってボーっとしている彼女に精一杯優しい笑顔を投げかけると、冷蔵庫を開けて料理に取り掛かる。その間、彼女は止せばいいのにテレビをつけて、ニュース番組をじっと眺めていた。


『本当に許せないですよね。こういう人はいずれ人間を……』

『心理学的に言わせて貰えばこういった人間は基本的に……』


 全国的には大したことのないニュースでも、ローカルではそうではないらしい。俺達の引き起こしたニュースについて、色んな専門家があれこれと意見を述べていた。いかに犯人が攻撃的で卑屈で異常な存在かを語るだけのニュース番組を見ることしばらく、ここねちゃんはトイレに行くと、そのまま20分ほどひぐっ、ひぐっという声と共に戻ってこなかった。


「……気は済んだ?」


 落ち込んでいるここねちゃんに追い打ちをかけるような物言いだが、俺にはここねちゃんに復讐を諦めて貰うという使命がある。目を赤くしながら俺お手製のディナーをもそもそと咀嚼する彼女にそう問いかけると、彼女は生気のない表情をこちらに向けた。


「普段、誰も私の事を気にかけてくれないのに、私を見てくれないのに、私を見て見ぬふりをしているのに、私を攻撃している人達を誰も批判してくれないのに、こういう時は皆私を批判するんですね。私の苦しみを誰も知らない癖に。世界が、憎いです」

「そっか。でもここねちゃんはあまりにも無力だ。一人じゃ犬すら殺せない。その憎しみは、大人になって立派になって皆を見返してやろうというやる気に変えた方が遥かに建設的だよ。そのサポートなら、俺もやるからさ」


 我ながらクソッタレな正論しか吐かないが、ここねちゃんに現実的に必要なのは復讐を果たす手段でも力でもない。客観的に人間のカーストとして下の方にいる彼女が、大人になった時に人並みの人生を送ることができるためのプランであり、そのための活力であり、それを支えてくれるための存在だ。ここねちゃんは縋るような目つきで、俺を見つめてくる。


「……それはつまり、一生私を愛してくれるってことですか?」

「昔に比べたら、そういう気もあるかな。可哀相、だなんて言ったら失礼かもしれないけれど、俺にもそれなりの誰かを守ってあげたいという気持ちはあるんだよ。君の代わりに犬を撃ったのは、その覚悟でもあったんだ。何ならこれから君を抱こうか?」

「……いえ、今は、いいです。御馳走さまでした。ご飯、美味しかったです。散歩でもしましょう」


 大学生が中学生の少女に抱いてやろうか? なんて言う事案を発生させてみたものの、彼女は顔を赤らめることなく、無言で食事を終えると先に言ってますよと言わんばかりに部屋を出て行ってしまった。振られてしまった俺は時間が彼女を癒してくれることに期待しつつ、夜の道を彼女と歩く。何度通ったかわからない公園に自然と向かう俺達。誰もいないと思っていたが、今日は先客がいたようだ。


「……ああ、犬神君に、彼女さんか」

「熊ヶ谷さん。何してるんだい?」

「猫を避難させようと思ってね。ほら、こないだの事件。場所的に犯人がこの辺を狙ってる可能性はあるしさ。犯人が捕まるか、事件が当分起きないことを確認するまでは、猫とかをうちで匿おうかと思って来てみたんだけど、どうやら今日は留守みたいだ。たまに見つけても、逃げられてしまってさ。きっと犯人が前から狙っていたり、エアガンで撃ったりしてるから人間に怯えているんだ。許せない話だよ」


 普段は嫌われるくらい動物にスキンシップを取っている熊ヶ谷さんだが、事件でテンションが落ち着いているのか、まともな考えに行きついたようだ。日頃の行いが悪いからか、猫には逃げられてしまうようだが。今日は帰るよと去っていった熊ヶ谷さんを見送ることしばらく、茂みからいつもの三毛猫がのそのそと顔を出す。よしよしと撫でた後、寒いから飲み物でも買って来るよとその場を後にする。


「ココアと、お茶……好きな方を選んでもらえばいいか」

『パァン!』


 近くの自販機で飲み物を買っている間、季節外れの花火大会でもやっているのか大きな音がする。飲み物を2つ抱えて公園に戻ると、


「……」

『……』


 無言で銃を手にしたままうつむく彼女と、もう何も鳴くことができない、猫だったものがそこにいた。どうやら彼女の復讐に手を貸したのは、間違いだったらしい。

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