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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とここねと動物虐待
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俺とここねと犬殺し

「鹿野さん。麻酔銃貸して欲しいんだけど」

「レポートはやらない、可哀相な私の愚痴にも付き合ってくれない、そんな男がよくいけしゃあしゃあと」

「頼むよ。人の命がかかってるんだ」

「うっ……それなら仕方ないわね」


 いじめっ子の犬を殺すと決めた翌日、鹿野さんに頼み込んで麻酔銃を貸してもらうことに。鹿野さんが麻酔銃を貸してくれなければ、獅童さんが人を殺さなければならなくなるかもしれないのだから、嘘は言っていない。住宅街の家に忍び込んで、犬に向かって大きな音のする銃を撃つのはリスクが高い。麻酔銃で狙撃して眠らせた後に、犬を持ち出して人気の少ないところで事に及ぶのが現実的かつ安全な方法のはずだ。試し撃ちをするために、一人で夜中に公園に行き猫を呼び出す。この前は実弾で狙われたからかかなり警戒していたが、ここねちゃんがいない事を悟ったのか草むらからのそのそと出てきてくれた。餌を多めに地面に置き、長時間もしゃもしゃと食べている隙を狙って遠くから麻酔銃で狙撃する。パシッ、とした軽い音の後、1分後には猫が地面に横たわっていた。


「この分なら犬に撃ったとしても吠えられずに眠らせることができそうだな」


 眠った猫を公園のど真ん中に放置しておいたら色々面倒なことになりそうなので、横たわった猫を抱き上げて、茂みの中に放置する。麻酔銃を撃った時の音もかなり小さいし、抱きあげても全く起きる気配はない。気づかれずに犬を眠らせ、人気の無い場所まで持ち出すことは十分可能だと判断し、俺は更なる情報収集のためターゲットの家へと向かう。


「何……だと……?」


 ターゲットの家の周りを見て絶望する。犬小屋が無い。それがすなわち何を意味するかと言えば、ターゲットは室内飼いの犬だということだ。家の外にある犬小屋にターゲットがいるならば、簡単に麻酔銃を撃って運び出せたのかもしれないが、室内なら話は別だ。家の中に不法侵入した上で犬を持ち運びするのは相当に難易度が高い。家の外から様子を伺ったが、犬の姿は見えない。これ以上家の周りでウロウロしても不審者として通報されるだけだと、その日は諦めて帰路につく。翌日、大学の講義室で悩んでいる俺の横に、同じく悩まし気な熊ヶ谷さんが座った。


「はぁ……最近何か動物のためになる活動ができていないなぁ……かといってアイデアも思い浮かばないし。犬神君、何かないかい?」

「……! ペットを飼っている家を特集して、ネットで公表するってのはどうだろう。理想的な飼い主とかを紹介すれば、ペット飼いたいと思っている人も参考にするんじゃないかな」

「……! それ! それだよ! いいね! そういうのがやりたかったんだよ!」

「提案したからには俺も手伝うよ。あらかじめ地域とかは決めておくね」


 活動がしたいと悩む熊ヶ谷さんを焚きつけて、動物の特集を組むためにペットを飼っている家に訪問することに。勿論目的はターゲットの家に合法的かつ自然に入り、侵入経路や犬の場所を知っておくことだ。それから数日、関係ない家を巡って可愛いですね~と写真を撮ったりする熊ヶ谷さんに振り回されながら、ようやくターゲットの家に。


「こんにちは! 私こういうものでして……」


 俺の隣でニコニコしながら交渉をする熊ヶ谷さん。俺一人がこの家に行って、『すみません、ペットを飼っていたら写真等を撮らせていただきたいのですが』と言ったところで怪しまれるのは目に見えているが、この辺の人間なら誰でも知っている熊ヶ谷家の人間が、謝礼もしますと言えば誰もが信用する。アシスタントとしてあっさりと家の中に入り込んだ俺は、写真を撮りながら家の中を伺う。洗濯物を干すために出入りする窓ガラス辺りが、侵入しやすいだろうか。こっそりと外から開けられるように鍵を壊した上で、ここねちゃんを普段虐めている、取材が来たと浮かれている憎き女にニコニコしながらアドバイスをする。普通のどこにでもいる女子学生にしか見えないが、ここねちゃんが殺したい程憎んでいる敵なのだ。


「ワンちゃんはここで寝かせるのが良いと思いますよ。日当たりも良いですしね。それにこの場所なら、例えサークルの中にいても、不審な人間を察知して吠えることができます」

「そーなんですか! ありがとうございます!」


 適当なアドバイスをした後、ターゲットの犬に餌を与えて信用させる。そのまま撮影やインタビューを終えて家を出る。写真やインタビュー結果をまとめるぞと意気込んでいる熊ヶ谷さんと別れた数時間後、深夜に俺は再びその家へ向かう。そこには俺のアドバイスの通り、鍵の壊れた窓ガラスから見える位置で、サークルの中でぼーっとしているゴールデンレトリバーの姿。念のため鍵を開けて中に入るが、大人しい種類なのと、事前に餌を与えていたこともあり、気づいてはいるものの吠えはしなかった。その日は何もせずに家に帰る。流石に取材をしたその日のうちに殺してしまうと俺どころか熊ヶ谷さんまで疑われてしまう。かといってあまり時間を置きすぎると、今度は鍵を直されてしまう。数日後が一番ベストなタイミングだろうとその日を待ち、ついに決行の日がやってきた。


「ここがあの女のハウスなんですね。できることならガソリン撒いて火をつけたいです」

「こらこら。それじゃあ、犬をさらってくるから、見張りよろしく」


 家族全員寝静まっているであろう深夜。指紋が残らないよう手袋をし、ここねちゃんに見張りを任せて、まだ買い替えられていない、壊れた鍵をこじあける。犬は俺に気づいたようだが、幸いにもまだ俺を覚えていたのか、よほど温厚なのか、ただ眠いのか吠えることなくじっと見つめるだけだ。そんな哀れな犬に麻酔銃を撃つ。1分ほどして完全に眠ったと判断した俺は、サークルの上から犬をひょいと持ち上げる。そのまま家を出て、車に眠った犬を載せ、ここねちゃんと共に人気のいない場所を探してドライブをする。数分後、多少大きな音が出ても誰も気づかないであろう廃屋の付近を見つけた俺達は、地面に犬を置く。そして自分のカバンから銃を取り出すと、ここねちゃんに手渡した。


「……」


 寝ている犬に向けて、銃を向ける彼女。そして彼女は引き金を引き、哀れな犬は命を輝かせる……はずなのだが、彼女はなかなかそれをやろうとしない。段々と彼女の手が震えはじめ、顔が冷や汗だらけになる。


「どうしたんだいここねちゃん。はやく殺らなきゃ」

「わかってます、わかってますよ……!」


 殺す、殺す、と物騒な事を呟きながらも、一向に引き金は引かれない。そしてとうとう、彼女は銃を持たない手で自分の胸を押さえ、ビチャビチャと嗚咽をし始めた。そんなここねちゃんを、後ろから俺は優しく抱きしめる。


「……これでわかっただろう? ここねちゃんに復讐なんて無理だって。いじめっこの犬すら殺せない、優しくて憶病な人間だって」

「違う! 私は、あいつらが、憎くて、復讐するために、生きてて……!」

「違わないよ。虐められても、親に愛されなくても、ここねちゃんは誰よりも優しくて強い子だって、俺は知ってる。今思えば俺も、そんなここねちゃんに惹かれていたんじゃないかな。今なら言えるよ、君を抱けるって。愛せるって。守ってやるって」

「でも、でも、わた、し、は……」

「だからさ」


 俺の手の中で、地震も起きていないのにガタガタと震えるここねちゃん。そんなここねちゃんがこれ以上震えないようにぎゅっと抱きしめた後、俺は彼女から銃を取り上げて、













「俺がやる!」


 躊躇いなく引き金を引いた。

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