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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とここねと動物虐待
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俺とここねとエスカレート

 猫とエアガンでじゃれているだけで、彼女は平穏な日常を送ることができる。

 そんな甘い考えを抱いていた俺だったが、彼女の言っている通り俺は弱者の気持ちなんて結局のところ理解していなかったのだろう。彼女の性格は平穏どころか、どうやらどんどん荒れているようだった。


「あ、犬だ」

「たまに繋がれてるよね、スーパーの前って」


 学校帰りの彼女とデートをしている途中、スーパーの前に繋がれている飼い犬を見つけた俺達。犬をスーパーの中に入れることはできないのだから、当然の話だ。犬ははっはっはっと舌を出しながらこちらを見つめている。


「……」

「ちょ、ちょっと、こっち!」


 そんな犬を見ていた彼女がカバンからエアガンを取り出そうとしていることに気づいた俺は、強引に彼女の肩を掴んで人気のしない場所まで引っ張っていく。


「……? あ、あれ? 私何を」

「何考えてるのさ……あれは誰かの飼い犬だし、そもそも人だっているのに、あんなところでエアガンを出しただけでアウトだよ」

「すみません……身体が勝手に」


 万引き常習犯は手が勝手に窃盗をしてしまうなんて話をよく聞くが、彼女もそれになりかけているらしい。彼女からエアガンを取り上げた方がいいのだろうかと悩んだが、ここで取り上げたところで彼女はまた周囲を呪う人生を歩み始めるだけだ。時間が経てば、彼女が大人になれば、精神的に余裕を持てば、自然に解決してくれると信じ、逸る欲求を抑えきれない彼女のために、本来は週末だけだったが、その日の夜も公園に出向き猫と俺達なりの遊びにふけようとする。


「……いないなぁ」


 普段来ない曜日だからか、いつもはやれやれといった感じに俺達を出迎えていた猫の姿が見当たらない。どこかの茂みで寝ているのだろうか。適当に口笛でも吹いて呼ぼうかとも考えたが、夜の公園で口笛なんて吹いていれば、近くの人に怪しまれるかもしれない。俺達はひっそりと、暗闇の中で宴を楽しまなければいけないのだ。おやつのちょーるの袋を開ければ、匂いにつられてやってくるだろうかとカバンを探っていたが、彼女の視線が地面の一点に刺さっていることに気づく。


「鳥だね」

「鳥ですね」


 暗くて全体は見えないが、小さい鳥ということはわかる。フクロウ以外で夜に鳥を見るなんて珍しいなと、写真を撮ろうと思ってスマホを取り出すが、横に並ぶ彼女は銃口を向けた。周囲に人の気配は無い。スーパーの前と違って、彼女がエアガンを取り出そうと、引き金を引こうと、それを咎める人は誰もいない。それでも、素直に彼女がしようとしていることを肯定はできなかった。


「ここねちゃん、猫はなんだかんだ言って頑丈だけど、あんな小さい鳥を撃ったら死んじゃうかもよ」

「……あの猫がいつまで経っても出てこないのが悪いんです」


 猫を撃っても怪我をしない程度には改造をしているが、鳥を撃っても怪我をしないかどうかなんて試してもいない。もふもふした毛皮も無い、骨と鳥皮一枚の鳥を撃ってしまえば、姿形を保てるかすらわからない。一応忠告はしたが、彼女は冷たい目で引き金を引く。動かない猫相手に練習していた程度の腕前では、小さな鳥に当てることはできなかったようで、名も知らない鳥は一秒後にはどこかへと飛び立ってしまった。隣から聞こえる舌打ちの声。それに呼応するかのように、茂みからのそのそといつもの猫がやってきた。待ってましたと言わんばかりに銃口をそちらに向けて躊躇うことなく撃つ彼女だが、逃げもしない、恐れもしない猫相手では最早満足できないのだろう、すぐに飽きてカバンにエアガンをしまい、つまらなさそうに帰りましょうと呟いた。


「悪かったな、急に呼び出して。ほら、おやつだ」


 猫に餌を与え、彼女の肩を抱きながら公園を後にする。彼女が動かない標的相手に満足できなくなったとして、動く標的を相手にできることなんてほとんどないし、彼女にそんな技術もない。エスカレートすることなく、このまま飽きて別の何かにのめりこんでくれることを、自分にのめりこんでいた彼女に動物虐待を勧めた愚かな身ながら祈る。その週末、彼女は夜の公園に行かずに、俺の部屋で漫画やアニメを見ながら、たまに愚痴を言うに留まった。そんな愚痴に付き合う程度で、彼女がこれ以上心を黒くしないなら安いものだと、へらへらしながら慰めるのだった。



「……というわけなのよ、酷いと思わないかしら?」

「どうでもいいよ……ちょっと疲れてるんだ」

「何? 聞いてなかったの? いつもレポートを代わりにやっているこの私の悩みを? 大体ね……」


 翌日。講義室にやってきた俺に気づいた鹿野さんがちょっと聞いてよと言うので聞き流す。彼女の愚痴は聞けても、大学の友人の愚痴には付き合っていられない。一人で勝手に盛り上がってぺちゃくちゃと喋っている鹿野さんを放っておいて別の友人である熊ヶ谷さんを眺める。


「……くそっ、絶対に捕まえてやる……」

「どうしたのさ彼女。レアな動物でも逃がしたのかい?」


 いつもは割とニコニコしながらペットの写真を眺めている彼女だったが、今日はとても殺気立っている。女の子の日という訳でもなさそうだ、何かあったのだろうかと、その子のメイドでもある獅童さんにこっそりと聞くと、大きくため息をつきながら話し出した。


「何か、よく行く公園でBB弾を見つけてたらしいデス。あそこはお嬢様のお気に入りの猫がいまシタからね……犯人を捕まえて蜂の巣にしてやるだなんて言いだして、挙句の果てにはモノホンの銃まで持って見回りをしようとするんデスから。勿論そんな危険なモノは没収してゴミ捨て場へポイデス、代わりに世界の国旗が出る玩具にすり替えておきまシタ」

「ははは……」


 裏でそんなことになっていたなんて聞くと乾いた笑いしか出てこない。俺達が蜂の巣にならなかったことに感謝しながらその日の講義を受け、食堂で夕食を採っていると彼女から連絡が飛んでくる。


『今日の夜、公園行けますか?』


 昨日は結局行かなかったのに、何か学校で嫌なことでもあったのだろうか? 何かあったのかと聞いてみるのは簡単だが、それで彼女が気分を害してしまう可能性は十分にある。素直に猫ちゃんと遊ばせて、ある程度ストレスが解消された状態で話を聞くのが一番だろうと、その申し出を快く了承した。念のために熊ヶ谷さんが今日は見回りをしないことを獅童さんに確認しておき、夜の公園に俺達は繰り出す。ちっちっちっ、と舌打ちをすると、茂みの中からまたかよと言わんばかりにのそのそと猫がやってきた。


「……」


 何も言わずに銃口を猫に向ける彼女。しかし今日は当てるつもりがないのか、わざと猫から離れた場所に狙いを定めているように見える。夜だからよく見えないが、あんな銃だっただろうかと疑問に思っていると、


『パァァン!』


 エアガンでは到底出すことのできない大きな音と、驚いて逃げ出す猫の姿。そして地面には仰向けに倒れた彼女の姿があった。彼女を抱き起そうと近づき、彼女の手に持っているソレがエアガンでも何でもない、人だって簡単に殺せるモノだと気づく。反動で倒れたであろう彼女は、今まで見せたこともない興奮した表情をしていた。


「ここねちゃん、これ……」

「昨日ゴミ捨て場で見かけたんです。最初はエアガンだと思って、どんな使い心地なんだろうって持って帰って調べたら、何と本物だったんです! これは、神様から私へのプレゼントに決まってます! これで、これで……」


 大きな声で叫べば、不審に思った人が来てしまい騒ぎになるかもしれないと悟ったのか、その先の言葉は胸の中にしまう彼女。今の彼女の中にはとある二文字しか存在しない。神様を呪いながら、俺はとりあえず地面にめり込んでいる証拠を回収すると、話は俺の部屋でしようかと促した。暴力を振るってでも、彼女からソレを奪って壊すべきだったのに。



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