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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とここねと動物虐待
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俺とここねと生き地獄

「~♪」

「機嫌良さそうだね」

「こないだ、学校のトイレで犬神さんとLUNEしてる間にも無意識に鼻歌が出てたらしくて、多分クラスメイトに聞かれちゃいました。あ~あ、また色々言われるんだろうなぁ」

「その割には嬉しそうだね」

「余裕があれば多少の陰口なんて気にならないんです」


 俺の部屋のベッドで漫画を読む彼女は随分と上機嫌だ。ストレス解消に彼女が猫を撃ち始めてからしばらく、少しずつだが彼女のメンタルは安定し始めてきたらしい。二人きりになる時は鼻歌すら歌うくらいだ。日中は普通の、ロリコンな大学生と中学生のカップルになれているのだろう。


「あ、そうだ。調理実習でクッキー焼いたんです」


 ごそごそとカバンから不格好なクッキーの入ったビニール袋を取り出すと、顔を赤くしながら俺に手渡してくる。何も言わずにそれを口にする。実に調理実習らしい味だ。


「何か変なもの入れてないよね?」

「あはは、調理実習ですよ。クラスメイトと一緒に焼くんですから、そんな暇ありませんよ」

「クラスメイトと一緒に焼いたのかい?」

「……おかしいですよね、班は決まってるはずなのに、7人の班と1人の班が出来るんです。悲しくて変な体液入っちゃったかもしれません」


 折角猫の犠牲で彼女が上機嫌になったというのに、また俺は地雷を踏んでしまったらしい。よしよしと彼女の頭を撫でながら、袋の中のクッキーを一気に胃の中に流し込む。


「よし、今日は一緒にお菓子でも作ろうか。まあたこ焼き器しかウチにはないけど」

「あ、それじゃあカステラが作りたいです! お祭りとかで売ってるあれ!」


 幼少期はそれなりに明るい子だったのだろう、お祭りの時の記憶を思い出したのか目を輝かせてウキウキする彼女。コンビニで小麦粉やらハチミツやらを買ってくると、ネットでレシピを見ながら彼女とたこ焼き器でカステラを焼く。カステラ焼き器を囲んで向かい合って、爪楊枝でカステラを突きながら、そういえばそろそろあの日だったかなと話題を振ってみた。


「ここねちゃん、来週の日曜日誕生日だよね」

「何で知ってるんですか!? 教えましたっけ」

「初めて会ったあの日、学生証見たからさ。何か欲しいものある?」

「うーん……特に思いつかないですね。どうやって毎日を乗り越えるかで精一杯でしたから。あれが欲しいとかこれが欲しいとか、それを楽しめる余裕のある人間の特権ですよね」

「悲しいこと言わないでさ。ちょっと余裕出てきたんじゃないの? 何か考えといてよ、高いもんは無理だけどさ。別にゲームソフトとか味気ないものでもいいんだよ。誕生日を祝って何かあげて俺が自己満足することに意味があるんだからさ」

「考えときます」


 本気で誕生日プレゼントについて悩んでいるらしく、無言でもそもそとカステラを食べ続ける彼女。結局この日彼女が答えを見つけることなく、こちらから催促するのもアレだしとそれ以来俺も話題を振ることなく、日時が過ぎて気づけば誕生日を前日に迎えた土曜日の夜。彼女のストレス解消のために、俺達は公園へとやってきていた。


「猫ちゃーん、ちょーるですよー」


 この日の彼女は猫を撃ってストレス解消をしようとは思っていなかったらしく、カバンから猫の大好物を取り出すとニコニコしながら遊び相手に差し出す。餌にがっつく猫の身体を撫でる彼女。知らないうちに彼女は動物を愛でることで癒されて人生と向き合える人間になっていたのだろうかと感動していたのも束の間、


「えいっ」

『フニ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛』


 今度はカバンから檻を取り出すとスキを見て猫を掴み檻の中に閉じ込めてしまった。突然狭い檻の中に入れられ暴れる猫に、これでも食って黙っていろと言わんばかりにもう1つちょーるを与える彼女。


「犬神さん、少しの間だけでいいんで、猫飼えますか?」

「ペットNGなんだけど……」

「後、誕生日プレゼントはハムスターがいいです。明日買いに行きましょう」

「聞いてないし……」


 彼女が何を考えているのかは、明日にならないとわからないし教えてくれないだろう。俺は諦めて彼女を家まで送った後、猫の入った檻を自分のアパートへと持ち帰る。騒いで大家にバレて最悪追い出されるかなとも思ったが、事情を理解しているのか猫は部屋では一切鳴かずに、用意された餌と玩具を堪能していた。翌日の昼、これなら大丈夫だろうと猫を部屋に置いて、彼女と一緒にペットショップへ向かいハムスターのコーナーへ。ゴールデンやらジャンガリアンやら、最近はカラーハムスターなんてのも人気らしい。


「どのハムスターがいいの? 公太郎はゴールデンだよ」

「なんでも良いですよ、そもそもハムスターの種類なんて知りませんし。やっすいのを1匹で」

「とりあえずジャンガリアンにしとくか」


 ケージやらモロモロ込みで五千円の誕生日プレゼントを購入して俺の部屋へ。ケージの中で回し車を懸命に回しているハムスターを床に置くと、部屋で大人しくしていた猫を檻から取り出す彼女。猫は本能的にハムスターに興味を持ったのか、ケージの外からじっと中を見つめる。手出しをすることはできないが、常に捕食者に見られているというのは中のハムスターにとっては大変よろしくないようで、ハムスターは回し車から小さな寝室用の木の小屋へと隠れ、びくびくと外を伺うように。そんな弱肉強食とも言える悲しい光景を、彼女は微笑みながら見ている。どうやらこの光景を見たくて彼女はわざわざ猫を捕まえて、誕生日プレゼントとしてハムスターを強請ったらしい。


「可哀相だよ」


 猫をストレス解消のために撃とうなんてクソッタレな提案をしている人間が何を今更だが、折角誕生日プレゼントとして購入したのだ、出来ることならちゃんと可愛がって欲しいというのが普通の感情だろう。


「ですよね、可哀相ですよね私。周りは自分に危害を加える人達ばっかり。怖くて怖くて自分の部屋から出られない。それすら周りの皆は許さない。学校に行かないと私は親に怒られるし、学校に行けばあいつらに嫌がらせをされる。犬神さんは優しいけれど、私とは違う人間だから、この苦しみを本質的に共有することなんて、理解することなんてできやしない。だから誰かに、いや、何かに理解して欲しかったんです。このハムスター、昔の私にそっくり」


 しばらくケージを見つめる猫と、見つめられるハムスターという光景を眺めていた彼女だったが、やがて満足したのか猫を掴んで檻の中に再び入れ、ハムスターを恐怖から解放する。そしてケージを開けてハムスターを取り出すと、手のひらに乗せてもう片方の手でよしよしと撫でた。ハムスターにかつての自分を重ね合わせた彼女は、同族嫌悪することなく、かつての自分に優しくする道を選んだようだ。


「犬神さん」

「わかってるよ。こっちで飼えって言いたいんでしょ? それくらい構わないよ、ハムスターは鳴かないし」

「ありがとうございます。それじゃあ、猫を公園に返しに行きましょうか」


 二人で公園に向かい、檻を開く。猫はやはりいつもの住処の方が心地よいのか、辺りを元気そうに走り回った。また来週になれば、彼女はエアガンで猫を撃つだろう。そうやってストレスを解消して辛い現実に耐えて、またある時はハムスターを可愛がって人間としての心を失わないようにするだろう。そういうちょっとおかしな日常が、彼女を幸せにしてくれるはずだと、俺は能天気に考えていたのだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] おつかれ様です! うーん、ここねちゃんの闇はどうしたら晴れるものか。。。 もしかしたら持っているべきものなのかも、解決にわざわざ向かわせる必要はないのかもしれないけど、やはり気になっちゃい…
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