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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とここねと動物虐待
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俺とここねと脅迫

「うぎゃああああああ!」


 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

『俺は猫を撃っていたと思ったらいつのまにか撃たれていた』

 な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……


「いでええええええええ!」


 激痛が走り、公園の地面をのたうち回る情けない俺。皆冷たいようで、これだけ大きな悲鳴を上げているのに誰も近くの家から飛び出して来て助けに来てくれない。これが因果応報なのかと悟りながら、俺は気を失い始める。ああ、短い生涯だった……


「……あれ、死んでないや」


 何だかんだ言って前世で女の子三人も幸せにしているみたいだし、天国行きだろうなあと思っていたのだが、天使も悪魔も迎えに来ない。不思議に思って立ち上がり、地面を見るとどこにも俺の血がない。撃たれたと思わしき背中をさする。ひどく痛むが、命に別状は無さそうだ。勝手に実弾で撃たれたと思っていたが、どうやら俺が持っているのと同じような、改造エアガンで撃たれたらしい。生きててよかったーとほっとしながら、さっきまで狙っていた猫の事なんて忘れて、自分の住むアパートへと戻るのだった。






「犯人は、現場に戻る! 絶対捕まえてやる……」

「犬神家の一族の名にかけて! ってやつデスね、よーし、アンパンと牛乳で助手を受けてやるデス」

「いやあ、正直君は猫を虐めそうな人間だと思っていたけど、猫を庇うなんて素晴らしい男だね。犯人捜し、手伝えることがあれば遠慮無く言ってくれたまえ」

「それより貴方の分のレポートは?」


 翌日。猫の事は忘れても、自分を撃った犯人への憎しみは忘れることができないらしく、大学で講義の関係上同じ班になった子達に『昨日公園歩いてたら猫を撃とうとしたやつがいたらしく、誤射で俺が撃たれちまったよクソッタレ』と微妙に嘘を織り交ぜながら事情を説明する。俺以外の班員は全員女性だが、これは彼女達が前世で何かあった気がすると運命を感じて俺の元に集ったのであり、決して友達のいない俺が既に集まっていた彼女達のグループにお情けで入れて貰ったわけではない。講義中に犯人を捕まえる作戦について話し合い、その日の夜に再び例の公園へ向かうのだった。


「いたいた。ほーら猫ちゃん、美味しいご飯だぞー」


 公園で昨日狙っていた猫を見つけた俺は、カバンから餌を取り出すと、猫に向けて放り投げる。昨日自分を襲っていた相手だからか警戒していたようだが、食欲には勝てないのかもしゃもしゃと食べ始めた。それを眺めながら、近くに隠れて犯人がやってくるのを待つ。犯人は猫を撃つ俺に怒り、俺を撃ったわけではないはずだ。本来の目的が昨日達成できなかったなら、この日来る可能性が高い。


「……あ、猫、大人しい」


 しばらくすると、公園に一人の少女がやってきた。中学生くらいだろうか、深夜なのであまり顔は見えないが、活発そうなタイプには見えない。おどおどした、いかにもな中学生女子。そんな女子が深夜に公園に来る用事と言えば限られている。猫に近づいて撫でようとするわけでもなく、彼女はカバンからエアガンを取り出した。


「……」


 震える手で餌を食べている猫に照準を合わせる彼女。自分を撃った犯人が彼女であると理解した俺は、証拠としてスマホでこっそりその姿を撮った。やはり彼女は俺を撃とうとしたわけではなく、猫を撃とうとして間違えて俺を撃ってしまったのだろう。よく見ると手がガタガタ震えている、恐らくは普段から撃っているわけではない、というか昨日が初めてだったのかもしれない。間違えて俺に当ててしまうのも納得の滅茶苦茶なエイム力だ。彼女が引き金を引いたところで猫には間違いなく当たらないだろうが、優しい俺は彼女を犯罪者にさせないために、自分の銃を取り出した。


「あ……え?」


 パァン、という音と共に、彼女の持っている銃が地面に転がる。俺が彼女の銃をピンポイントで撃って弾いたのだ。何が起きたのかよくわからず辺りをキョロキョロしていた彼女が俺を見つけた瞬間、色々と察したようで逃げ出そうとする。


「逃げたら身体撃つよ」

「……!」


 誤射でも無い限り俺に女の子を撃つなんてことはできないわけだが、そんな脅しでも目の前の少女を降参させるには十分だ。観念したようにその場にへたりこんだ彼女に、あらかじめ用意しておいた缶コーヒーを手渡してベンチでお喋りでもしようよと促す。深夜の公園のベンチに、青年と少女。青春っぽい雰囲気が漂わないでもないが、片方の表情はとても暗かった。


「俺撃ったの君だよね」

「……知らないです」

「凄い痛かったんだけど。救急車くらい呼んでくれてもいいんじゃない?」

「……知らないです。女の子に、いちゃもんつけて、恥ずかしく、無いん、ですか。これ以上、いちゃもんつける、なら、警察に、通報、しますよ」


 とりあえず問いただしてみるが、すんなりそうでしたごめんなさいと言えるほど素直ではないようだ。半泣き状態で強がりながら通報なんて言葉を口にする。通報したら彼女も困ることになるはずだが、面倒なので一応更に脅しをかけておく。


「俺のバックには鹿野病院と熊ヶ谷家がついているよ」

「……!? あ、あのでかい病院と家の!?」

「熊ヶ谷家のお嬢さんは動物が大好きでねえ。猫を撃とうとした犯人を、この手で蜂の巣にしてやると意気込んでいたよ。鹿野病院の跡取りも、研究の材料が欲しいと言っていたね」

「……」


 ただの大学の知り合いをバックだなんて言うのは非常に恥ずかしいが、彼女はあっさりとそれを鵜呑みにしたようで顔面蒼白になる。とどめと言わんばかりに、俺は先ほど撮った彼女の写真を見せつけた。


「盗撮、ですか」

「いい銃だねえ、骨折れちゃったよ。治療費100万円かな」

「そんなに、威力は、上げてないはずです。ネットで調べて、改造しただけですけど」

「あ、自分だって認めるんだ」

「……」


 まんまと誘導尋問にかかり墓穴を掘ってしまい、ビービーと泣きそうな、もう何もできそうにない彼女を後目に、彼女のカバンをがさごそと探る。治療費が欲しいわけではなく、欲しいのは彼女の情報だ。


「ふーん、凪中の我東がとうここねちゃんかあ。かあ、凪中って偏差値高いよね、頭いいんだね」

「……どうも」

「凪中って、私立だよね。中学生でも退学になるんだよね。小卒かあ、親御さん悲しむだろうなあ」

「……!!! や、やめて、ください、私、そしたら、殺されちゃう」


 通報して退学にしてやろうかと脅しをかけると、彼女がひどく慌て始める。その必死さからするに、冗談でも何でもなく、親に殺されかねないようだ。


「こういう時さ、何か言うことあるんじゃないの」

「ごめん、なさい、ぐすっ、許して、ください、誰にも、言わないで、えぐっ、ください」

「もっとほら、あるでしょ。ネットでエアガンの改造調べてるような子なら、うってつけの言葉知ってるでしょ。聞きたいなあ」


 泣きながら謝罪の言葉を述べる彼女だが、それくらいで許してやるほど俺は優しい男ではないし、何より彼女の泣き顔を見ていると、手元に置いておきたいなんて考えが浮かんできたので、人生で一度は言われたかった台詞を促す。彼女は観念したように、


「許して、ください……何でも、します、から……」

「いやあ、可愛い彼女が欲しかったんだよね」


 ネットの一部で有名な言葉を口走り、その瞬間に奴隷契約が成立する。猫を撃つことはできなかったが、こうして俺は都合のいい玩具を手に入れたのだった。






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