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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺といるかの動物愛誤
44/57

俺といるかとハッピーエンド

「これでうまく行くんデスかねえ?」

「ああ、うまくいくとも。いるかは本当は優しい子なんだ。気づいてくれるさ」

「貴方は現状監禁した上に捨てた屑男だけどね」


 獅童さんと共に部屋を出た俺は、そのまま獅童さんの部屋でイチャイチャするなんてことはなく、別室で監視カメラを操作している鹿野さんの元へ向かう。愛する男に裏切られた彼女は、現状を飲み込めないのか檻の中できょとんとした顔でぼーっとしていた。やがてため息交じりに笑い始める。何かの冗談に決まってる、少しすれば、『なんてねw』なんて言いながら俺が迎えに来てくれると信じているのだろう。


「とりあえず変化があったら呼んで頂戴。私は帰るわ」

「私もお嬢様をずっと眺めている程暇ではないので、お仕事してきマス」

「俺はここに残るよ。監視カメラ越しだけど、恋人である俺だけはちゃんと彼女を見守らないといけないからさ」


 他の二人が部屋から出て行った後、俺はぼーっとカメラ越しに彼女を眺めるが、そんなすぐに変化が出るわけもなく、仕方なく俺はイヤホンをつけ、持参した毛布にくるまる。しばらく眠っていると、ピンポンと言う音がした。彼女が檻の中からトイレやらお風呂やらのために、メイドや執事を呼ぶためのチャイムの音だ。


『おーい、お腹が空いたんだけど、ご飯はまだかい? それと鷲人を呼んで欲しいな、ドッキリのために待機してるんだろう? 一緒にご飯でも食べようよ』


 まだ元気そうな彼女の声が聞こえる。いつもならすぐに獅童さんだったり臨時に雇っているメイドさんだったりがやってくるものだが、この日は誰もやってこない。予めそう言いつけているのだから当たり前だが。


「犬神さーん、お疲れ様デス、ご飯デス」


 いつもと違い誰も来ないのを不思議がっている彼女を眺めていると、代わりにこちらの部屋にメイドが食事を持ってやって来る。


「ありがとう。彼女の分は」

「あるわけないじゃないデスか。犬神さんが言ったんじゃないデスか、完全に彼女を放置しろって」

「だよね。ただ実際にやってみると、罪悪感がね」

「はん、いい気味デス。そのままミイラになってしまえばいーんデス。ああ、でもあの女はともかく、一緒に放置される猫ちゃん達が可哀相です。寝てる間にこっそりご飯食べさせてもいいデスか?」


 お腹を空かせている主人ではなく、巻き添えを食らって放置され、お腹を空かせている味噌汁やカラスを心配そうに見つめる、かつての動物は全て肉というスタンスはどこへ行ったのやら、今のいるかよりもずっと動物愛護の精神に目覚めている獅童さん。『彼女を動物と共に放置することで、自分を客観視させる』というのが俺の完全無欠の作戦なのだが、そのためには彼女と同じく動物達も飢えさせるという犠牲が必要なのだ。


「やるなら最低限にしてね。彼女と同じくらい飢えさせないと、あんまり意味が無いからさ」

「了解デス。あ、お風呂の用意も出来てるので適当に入っちゃってくだサイ」


 お腹を空かせている、一応水分だけは採らないとまずいだろうと檻の中に大量に入れておいたペットボトルで飢えを満たそうとする彼女と動物を眺めながら、獅童さんの作った美味しい料理を食べているはずなのだが、どうにも美味しくないのは罪悪感というゴミのようなスパイスが原因だろうか。それでも自分が選んだ道だ、目を逸らすことは許されないと、黙々と眺めながら食事を採るのだった。



『もう夜遅いし太っちゃうからご飯はいいや、お風呂入りたいんだけど』


 夜10時になり、再びチャイムが鳴る。お風呂に入りたいと言う彼女だが、当然誰も迎えには来ない。仕方がない、俺が彼女の代わりにお風呂に入ってやるかと、彼女の家の風呂を勝手に使い、戻ってくるとチャイムを連打する音がする。


『……!』


 無言でチャイムを連打する、どことなく赤面している彼女の姿。ああ、そういうことかと察したが、トイレに行かせてやるほど甘い監禁犯ではない。こんな時のためにちゃんと檻の中におまるを入れているだろうと、イヤホンを外して毛布にくるまり、『寝てる間にこっそりおまるは掃除しといて』と獅童さんに迷惑な注文をつけて眠りにつくのだった。



『もしかして……僕、捨てられたのかな……』


 二日目の朝。俺が寝ている間に彼女は一人檻の中で寂しく考えていたらしく、起きた時には既に目元を真っ赤に腫らして泣きじゃくる彼女の姿。今すぐにそんなわけないだろうと、お風呂に入っていない彼女を抱きしめてやりたかったが、心を鬼にして大学へ向かう準備をする。こんな歪んだ生活が何日も続くわけが無いが、下らないラブコメのためにお金を払って受けている講義や単位を無駄にするわけにもいかない。監視はこの日講義のない鹿野さんに任せて、俺は自分の講義と、彼女の講義を代弁するために大学へ向かった。


『もしもし、俺だけど。いるかは大丈夫? お腹空いて気絶してない?』

『あのねえ、今日何度目の電話? そんくらいで人間倒れないわよ、水は飲んでるんだから。プロを信用しなさい』

『鹿野さんは獣医志望であってプロじゃないでしょ』

『プロ意識はあるの』


 いるかの過保護な精神が移ってしまったのか、講義の度に心配になって電話をかける俺。講義が終わるとすぐに屋敷に向かい、鹿野さんとバトンタッチとする。そんんくらいで人間倒れないわよとは言っていたが、檻の中に横たわる彼女は、最早生きているとは表現できなかった。原因は飢えよりも、自分に捨てられたという想いの方が強いのだろう。彼女をこんなに悲しませるなんて、全く俺は酷い飼い主だ。……飼い主ではなかったな。


『ニー……』

『アー……』

『うるさい! 僕だって、お腹空いてるんだよ! う、うぅ……』


 衰弱しているのは彼女だけではない。不幸にも巻き添えを食らってしまった、といっても獅童さんが夜中こっそり餌をやっているのだが、猫やカラスも一緒だ。お腹を空かせて鳴く彼達に、彼女は苛立ち始めたが、余計な体力を消費するだけだと気づいたのか、すぐに無言になる。やはり無理な作戦だったのだろうか?



『……』

『……』

『……』


 三日目の夜。三日も水だけで過ごした経験が俺には無いし、三日くらい大丈夫よと言っていた鹿野さんも無い。獅童さんはあるらしいが、今まで不自由無く生きてきたいるかにとっては、死を意識するには十分な日数だろう。どうにかして固形物を食べたかったのか、服はボロボロになり、結局やめたのか檻の中には噛み千切られた服の残骸が転がっていた。


『……ふざけるなよ、あの屑男……』


 そろそろ限界なのだろうか、と作戦の失敗を悟る俺の耳に、彼女の恨みのこもった声が届く。そりゃそうだ、どう考えたって今の俺は監禁した挙句に捨てた屑男だ。そして彼女の口からそれが出たということは、彼女が現状をきちんと判断したということだ。


『何が愛してるだ! ずっと一緒だよだ! 嘘つき! 檻に閉じ込めるくらい僕を愛してたんじゃないのか! 用済みになったら、飽きたら、無かったことにするなんて! ……!』


 そのまま俺を罵倒する彼女だが、途中でハッとした表情になり、周りを見やる。そこには彼女がかつて檻に閉じ込めるくらい愛していた、用済みになったら、飽きたら、無かったことにした生き物達が、ぐったりと檻の中で横たわっていた。


『あ、あはは……そっか、僕も、あいつと同じだったんだ。寂しいからって、自分のために、それっぽい大義名分かざして支配して、用が済んだら捨てちゃうような、クズ女だったんだ……因果応報ってやつか。いや、違う。僕は変わる。例えここで朽ちるとしても、自分はそんなクズでは終わらないと証明して見せる』


 やつれた顔で、ボロボロの服で、けれども人間としての誇りは失わなかったのか、彼女の目に活気が戻る。彼女は部屋の中にあった机を見やる。新しく追加した彼女の檻の鍵の場所は知らないが、自分が閉じ込めた檻の鍵の場所は知っているのだろう。


『こんな、檻なんて!』


 そのまま彼女は机の方向を向いて、檻に思い切り体当たりする。そこまで重い檻では無かったからか、檻はグルリと回転して、机に少しだけ近づいた。同時に彼女の身体もグルリと回転し、硬い檻の地面にダイブする。更に檻の中にあったものも回転して、彼女の頭にゴンと激突する。とても無残な光景だったが、それでも彼女は何度も何度も、それを止めることはなかった。ここまでするとは思っていなかった俺もまた、種明かしをするために彼女の部屋に向かうことなく、ただ彼女の決意を眺めた。


『あった……後は、これを……』


 机に辿り着き、引き出しの中にあった鍵を全て取る彼女。そのまま今度は自分がかつて閉じ込めていたペット達の檻に向かって、再び情けない回転を繰り返しながら向かっていった。味噌汁の檻を、カラスの檻を、自分の罪と向き合うように次々と開けていく彼女。しばらくして、部屋の中には自由になった動物達が、久々に広い部屋の中ではしゃいでいた。一方の彼女はあざだらけだ。


『聞いてるかうさぎ! 君が僕を憎んでいるのは知っている! だからあの男を誘惑したんだろう! 僕はもうどうなっていい! 彼を憎むつもりもない! せめて最後のお願いだ、この子達を、僕が不幸にしたこの子達を……しあ……わ……せ……に……』


 最後の力を振り絞り、チャイムを鳴らしてそう吠え、体力を使い果たしたのかバタンと倒れる彼女。彼女が目が覚ました時、そこはおめでとうと祝福する皆と、ごめんよごめんよと何度も泣きじゃくりながら、少し匂う彼女の身体を抱きしめる俺の姿があった。




「……まったく、そりゃ僕もちょっとだけおかしかったけどさ、ここまでする?」

「ごめんよいるか。俺、馬鹿だからさ。いい方法思いつかなくて」

「いーんデスよ、この女の身勝手さで、もう何匹か死んじゃってるんデスから。私が泣きながら食べて供養しまシタけどね。残った子達は、責任持って幸せにして貰いマスよ? 犬神さんもデスよ、こんな女を愛したばっかりに悲劇が起きたんデスから、ちゃんと一緒に世話するんデス!」

「やれやれ、貴重な動物を研究できると思ったけれど、返さないといけないようね」


 ネタ晴らしをし、余程お腹が空いているのか差し出された食事を獅童さんのようにがっつく彼女。身体はボロボロだったが、その目は優しさに満ち溢れた、俺の愛したいるかの目だった。そんな彼女の元に、一匹の猫がやってくる。


「もぐもぐ……わかってるよ。確かに最初は、寂しいって理由で、動物を集めてたけどさ、途中で本当に好きになったんだ。それ以上に鷲人が好きになっちゃったから、それを忘れてたけど、もう忘れないよ。僕はもう独りぼっちじゃない。独りよがりじゃない、この子達の幸せを作って見せる。……ああ、それにしても猫は可愛いなあ、ほーら、おいでおいでー……うぎゃあああああ!」


 自分の方にやってきた味噌汁を、笑顔で抱きしめようとする彼女。しかし味噌汁は今までのお返しと言わんばかりに、彼女の顔やら手やらをガリガリとひっかいた。ただでさえボロボロの身体が更にボロボロになってしまったが、


「……あはは、あはははは!」

「ははは……こんだけ仕返しする元気があるなら、大丈夫か」

「あはははははっ! いい気味デス! 猫ちゃんよくやりまシタ、今夜は大トロデス!」

「ふふ……ふ……! ひ、ひぃっ!? ふ、ふふふ……」


 彼女は引っかかれながらも、猫を抱きしめて笑う。そのうち猫もやれやれと言わんばかりに彼女の腕の中で大人しくなり、つられて俺達も笑う。俺達の人生は今の彼女の身体のように傷だらけではあったが、それでも今の俺達のように、笑えるような人生が送れると、俺は確信して猫ごと彼女を抱きしめようとし、お前も最初自分を撃っただろと猫ぱんちを食らうのだった。

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