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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺といるかの動物愛誤
43/57

俺といるかと監禁生活

 かつているかが部屋として使っていた、動物達が檻に入れられて集められていた部屋。死んでしまったり、鹿野さんに引き取られたりして数もすっかり減ってしまったその部屋に、今日新しい仲間がやってきた。世にも珍しい二足歩行のいるかだ。


「ど、どういうことなんだい? 性質の悪い冗談はよしてくれよ、こんな獣臭いところ、ずっといたら頭がおかしくなってしまうよ」

「ごめんよいるか。でもいるかが外の世界にいるだけで、他の男の目に止まるだけで、いろんな可能性を考えて、俺は頭がおかしくなってしまいそうなんだ。ここならずっと一緒だよいるか。寂しくないように、ペット達も一緒だからね」

「今なら間に合うよ……もしも親がこの事を知ったら、君は大変なことに」

「なるわけねーデスよギャハハハハハハハ」


 檻の中で困惑しながらも、バレた時に俺が両親に消されてしまうことを案ずる優しいいるか。だが、そんな彼女の妄想はドアを開けて下品な笑い声と共に入ってきた、上機嫌そうなメイドによってかき消された。


「ざまぁ見ろデス、いい気味デス。あ、念のため言っておきますが旦那様の許可は得ていマスよ。『これ以上馬鹿娘が世間に迷惑をかけないようにしてくれるなら好きにしていい』とのことデス。勿論海外旅行ばかり行っている奥様も無関心デス。犬神さんに愛されて勘違いしちゃったんデスか? お嬢様は親に愛されてなんてないデスよ?」

「な!? いや、そんなはずは……あ、あれ?」

「可哀相に。自分に都合のいい記憶を捏造しすぎて区別がつかなくなったのね。お薬を注射しなきゃね」


 いるかは両親を嫌っていたし、両親に構って貰えなかったからあの性格になったはずなのだが、いつのまにか娘を危険な目に合わせる男を消すくらいには溺愛しているという設定になっていたようだ。心の話は専門外のはずだが、怪しげな薬を手にし、邪悪な笑みを浮かべている鹿野さんも部屋にやってきた。


「いやーしかし、檻に入っているだけでお嬢様が凄く可愛く見えマス。周りに迷惑かけないデスし」

「あ、そうそう。私エサ持ってきたの。はい、生魚。いるかだし食べるでしょ?」

「うえっ生臭い……」


 鹿野さんが彼女の檻の中にポイと生魚を投げ入れると、鼻を摘まみながら近くに置かれている、味噌汁が入れられている檻の中に投げ入れる。動物の事なんてすっかり忘れていたと思っていたが、流石にそれくらいは覚えていたようだ。もっと彼女には思い出して貰わないと。そのためなら、俺はどんな変態にだってなって見せよう。


「ああそうだ。はい、おまるも置いておくからね。それじゃあ俺達は大学に行って来るから」

「あ~お嬢様をペットにできるなんて、生きてて良かったデス!」

「極限状態まで追い詰められた人間の反応がどうなるかは興味があるわね」


 いるかを檻の中に放置した後、俺達は部屋を出て大学へ向かう。講義の間、ノートなんか取らずに俺はスマホ越しに、監視カメラでいるかの部屋を覗いていた。排泄行為が見たいとかそんな歪んだ想いがあるわけではなく、彼女の心情の変化を観察するために。


「くそう、なんで僕がこんな目に……」

『ナーオ……』

『カーッ! カーッ!』

「うるさいっ! なんで君達みたいなのがここにいるんだ! 僕は君達と同レベルだってのか?」


 飼い主を心配しているのか鳴き声を発する、彼女が捕まえた味噌汁や、救ったカラスだが、今の彼女の中にそんなペット達との幸せな想い出は無いらしく、みっともなくペットに向かって恫喝する。これ以上見たところで無駄だな、と俺はスマホの電源を切った。



「ただいまいるか。どうしたんだいそんなにもじもじして」


 大学から帰って、帰ると言っても自分の家ではなく彼女の屋敷なのだが、部屋に向かうと檻の中で窮屈そうにもじもじしている彼女の姿。監禁してすぐにおまるを使うほど、自尊心を無くすことはできないらしい。


「檻に閉じ込めるどころか、レディにトイレもろくに行かせないなんてね。心底見損なったよ」

「ごめんよいるか、嫌わないでおくれ。わかったよ、さあ、トイレまで案内するよ」

「……! ここは僕の家だけどね」


 檻の鍵を開けて、まさかすんなり脱出のチャンスが巡ってくるとは思わなかったのか驚く彼女の手を取りトイレへエスコート。トイレを終えた彼女の手を取り、再び檻に向かう途中、


「……えいっ!」

「ぐほっ」


 彼女は俺をドンと突き飛ばし、廊下に情けなくすっころぶ俺を怒りのこもった目で見やる。


「まったく、君がこんな人間なんて思わなかったよ。でも、それだけ僕の事を想ってくれたことは嬉しいよ。少し君は頭を冷やすべきだよ、警察に連絡して、少しだけ罰を受けて貰うからね」


 そしてそのまま警察に連絡するつもりなのか逃げ出して行った。俺は檻のある部屋に戻り、味噌汁や自分が撃ったカラスと言った面々を眺める。やがて部屋にやってきたのは彼女が呼んだ警察ではなく、


「んー! んー!」

「馬鹿デスよねえお嬢様は。この私から逃げられるわけが無いのに。1回目ですからこのくらいで許してあげマスけど、もし次に逃げだそうとするなら、その時は容赦しないデス。そういえば鹿野さんが、試したいクスリがあるとか言ってまシタから、次捕まえた時は連絡してみマス。ああ、旦那様にお願いして、臨時でメイドや執事を増やして貰ったんデス。タレントが逃げるテレビ番組でも引っ張りだこの凄腕達デスから、私がいない時はボタンを押せばトイレやお風呂に連れてって貰えマスよ、至れり尽くせりデスねえ」


 服はボロボロ、滅茶苦茶に紐でグルグル巻きにされた、哀れにも絶対的捕食者である獅童さんに捕まってしまったいるかの姿だった。乱暴に檻の中に投げ入れられた彼女の紐を解いてやる。一体何をされたのかは知らないが、まるで虐待された小動物のように、檻の片隅で縮こまるのだった。


「よしよし、大変だったね」

「あの悪魔……って、何で服を脱がすのさ」

「俺達恋人じゃないか。嫌かい?」

「嫌じゃ……ないけど……」

「よかった。いるか、愛しているよ、だからどこにも行かないでくれ」


 震えている彼女を優しく抱きしめながら服を脱がしにかかる。弱っている時に優しくされたら、女はコロっと堕ちるものだ。堕ちる以前に恋人なのだが。自分を監禁している屑男に、彼女はにへらにへらと照れながらなすがままにされる。そこには既に、俺への恨みなんて感情はどこにも無かった。





「ただいま、いるか」

「おかえり。あ、待って、今日まだシャワー浴びて無かったから、浴びてくるよ」

「うん、行っておいで」


 彼女を監禁してから数日後。大学から彼女の屋敷に向かった俺を待つのは、すっかり檻の中の生活を受け入れてしまった恋人の姿。あれからも逃げ出そうとしては獅童さんにお仕置きをされたらしく、既に逃げるという選択肢はすっかり無くなり、付き添いなんていなくてもトイレやお風呂に行った後に、自分から檻の中に入るレベルにまで堕ちてしまっていた。監禁の基本は恐怖による支配。更にストックホルム症候群的なアレも組み合わせることで、今の彼女は本当に外の世界よりも、こっちの世界の方が良いと思っている節がある。こうして彼女は行き過ぎた動物愛護の精神から外の世界に迷惑をかけることなく、檻の中で幸せに暮らしましたとさ……では困る。俺の目的はそんなことではないのだから。



「ただいま、いるか」

「おかえり。ふふふ、今日は準備万端だよ。恋人の君を待たせるわけにはいかないからね」

「いるかみたいな彼女を持って俺は幸せだよ。それじゃあ……」

「ちょーっと待つデス!」


 その翌日。いつものように大学から彼女の屋敷に向かい、彼女を抱いてお話して帰るというルーチンワーク。だがこの日は彼女にとっては望まぬ訪問者がやってきた。


「何だいうさぎ……僕は今から彼と愛し合うんだ、お邪魔なメイドは消えてくれないか。というかいつまで猫やらカラスやら同じ部屋に入れておくんだい」

「そんなことより犬神さん、こんな女よりも私とイチャイチャしませんか? 私、前から犬神さんの事いいなって思ってたんデス。私の方がこんな女よりスタイルもいいですし、絶対私を選んだ方が得デスよ?」

「な、何てことを言うんだ! 全く……ねえ鷲人、こいつを僕のお世話係からクビにしてくれないか。いつも僕に酷い嫌がらせをするんだ」


 部屋に入ってきて突然俺を誘惑し始める獅童さん。いるかははぁとため息をつき呆れるばかりだ。俺が獅童さんを選ぶ訳がないと思っているのだろう。そんな彼女に、


「……確かに、いるかよりも獅童さんの方が良い女かもね。なんか飽きちゃったんだよね、いるか。従順すぎてつまらないというか」

「……は、はぁ? ちょ、ちょっと何言っているんだい、冗談だよね?」

「デスよね! 私達前世では恋人同士だったらしいデスし、きっと相性抜群デスよ! ああ、そういえばお世話係クビにして欲しいんデスよね? わかりました、お世話やめマス。そりゃあ犬神さん、私の部屋でイチャイチャしましょう」


 俺は清々しい程の屑発言をした後、無情にも獅童さんと共に部屋を出て行ってしまう。部屋には、鍵のかけられた檻の中で呆然とする彼女と、それを見つめる動物達の姿があった。



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