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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺といるかの動物愛誤
32/57

俺といるかと味噌汁

「どうぞ。いやあ、きちんとレディの部屋に入る前にノックをするなんて大したもんだ。どこかの駄メイドはノックもせずに、勝手に鍵を開けて入ってくるからね」


 廊下を歩くことしばらく、彼女の部屋と思わしき豪華な部屋の扉をコンコンとノックすると、明るい声が返ってくる。それを確認すると俺は扉を開けて中に入った。


「どうだい、皆僕の家族さ。可愛いだろう、美しいだろう」

「………………ああ、素晴らしいね! ここは動物好きのユートピアだよ……ああ、癒されるなぁ」

「わかってくれるか、友よ! まったく、『食べられない動物に価値はないデス』なんて言ってるどこかの誰かにも見習って欲しいものだ」


 ご自慢の家族を紹介しながら同意を求めてくる彼女を、結構な沈黙を経て肯定する。精一杯本音を悟られないように、普段の俺ならまずしないような過剰な反応で。確かに動物好きな彼女にとっては、ここはユートピアなのかもしれない。俺のような平凡な学生の数倍以上はあるであろう大きな部屋の中には、猫に、ウサギに、リスに、イグアナに、ハムスターに、とにかく大量のペットが生息していた。どこからどう見ても、動物好きな女の子の部屋だ。おかしな点があるとすれば、


「猫も檻で飼うの?」

「残念ながらこの世界は、もう人間以外の生き物が暮らせるような環境じゃあ無くなってしまったんだよ。家の外で猫を飼えば車にはねられる、家の中で飼ったって、電子製品を触って怪我する。安全な場所に移動させて、餌を与えて愛することが、罪深い僕達にできる唯一の贖罪なのさ」


 どいつもこいつも、檻の中で窮屈そうにしていることだろうか。ハムスターやリスのような小動物ならまだしも、通常は室内で放し飼いにするべき猫のような動物がペットショップでもないのに檻の中に閉じ込められているのは違和感を覚えるし、それ以前にこれだけ大量の種類の動物を同じ部屋に集めれば、お互いストレスが溜まるのではないだろうか。適切なケージの中で飼われているはずのハムスターも、心なしか近くの猫や爬虫類に怯えているように見える。


「さぁ、僕の可愛い家族たち、ご飯の時間だよ」


 部屋の一角に大量に積まれている、それぞれのペットの餌を手に取ると、鼻歌を鳴らしながらそれを与えていく彼女。どいつもこいつも、餌に気づくとのそのそとそれに近づき食べ始めるのみ。狭い檻に閉じ込められて、餌だけ与えられて、すっかり野生を失ってしまったのだろうか。そんな中、一匹だけ野生を失っていなさそうな、恐らくは最近ここにやってきたであろう三毛猫が檻の中で飼い主に向かって威嚇していた。


「どうしたんだい味噌汁。ははーん、わかったぞ。この男の人が怖いんだね。大丈夫、彼は怖くないよ。君のことを虐めたりなんてしない。……すまないね、君が僕を助けてくれた日のことなんだけど、この猫が卑劣な人間に銃で撃たれていたんだ。僕がその人間と戦っているうちに無事に逃げてくれたんだが、後々になって考えたら、まだ犯人が捕まっていないし、この子を野放しにするのは危険だと思ってどうにか捕まえて、今は僕の大切な家族というわけさ」

「へ、へー、そうなんだ。……ん、その三毛猫、ひょっとしてオスかい?」

「おお! わかってくれるか友よ! そう、この子は珍しい三毛猫のオスなんだ。きっとこの子を襲っていた人間も、珍しいから動けなくして捕まえて売り飛ばそうだなんて考えていたんだろうね。ああ、ちなみに味噌汁ってのは、オスの三毛猫だから御御御付、つまり味噌汁ってことさ。いい名前だろう?」

「ああ、まるで前々世からずっとそうだったかのようにしっくりくるよ」


 威嚇していた味噌汁を強引に抱き上げて、よしよしと可愛がる彼女。味噌汁はまだ目の前のミイラを飼い主とは認めていないらしく、必死に攻撃しようとするが爪をほとんど切られているのだろう、ぺしぺしと虚しい猫パンチが繰り出されるのみだ。以前の時のように思い切りわしゃわしゃと味噌汁を撫でてストレスを加速させた後、暴れる味噌汁を檻の中に戻すとガチャリと施錠する。このような日常が続けば、やがて周囲の動物達と同じように、ただ生きるのみの、彼女に一方的に愛されるのみの存在になるのだろう。外の世界で俺みたいな人間に狙われながら、小動物を狩って、生きることを実感する猫生の方が遥かに幸せなんじゃないかと錯覚するくらいには、彼女の愛情はねじ曲がっていた。


「……僕はあの犯人を許さないよ。酷いもんだろう? この包帯。目立たないけど、脚も撃たれてるんだよ。不幸中の幸いか、味噌汁には怪我はないみたいだけどね。君が僕を見つけて救急車を呼んでくれた時、辺りに人はいなかったかい?」

「そういえば、逃げ去る男がいたような……中学生か、高校生くらいだったかな」


 顔をやったのは味噌汁なのだが、犯人について聞かれ、自分とはばれないように架空の犯人をでっちあげる。その情報を聞いた彼女は、包帯越しにでもわかるくらいの憎悪のオーラを出しながらつかつかと部屋の片隅にある机に向かった。


「子供か。子供だからって許さないよ。学校でうまくいっていないだとか、友達がいないだとか、そんなことを言い訳にして動物を虐めるような人間、生きる価値もない」


 犯人を批判しながら机の引き出しを開けると、拳銃を取り出す彼女。恐らくは俺が持っているような、威力は高くなっているが所詮は玩具のエアガンとは違う。人を殺すために作られた、本物の銃だ。


「そ、それ本物?」

「仮にもお嬢様だからね。一通りの護衛の術は嗜んでいるんだ。まあ、皮肉にも護衛のために持たされた銃で、犯人を撃ち抜くんだけどね」


 壁にかけてある、射撃の練習とかによく使う人の形をしたアレの脚の辺りに銃口を向けると、何の躊躇いも無く引き金を引く。精度はよくないのか、本物の銃はエアガンとは違い難しいのか、人には当たらず近くの壁に轟音と共に弾丸がめり込み、近くの檻にいた動物達が怯えているのか中を駆け回る。


「まだまだ練習中なんだ。今までは何かを傷つけるなんてしたくなかったけど、自分が痛みを知ってわかったよ。この子達のためにも、僕は復讐しなければいけない。まずは脚を撃って、逃げられなくしてから、ああ、どうしてくれようか……ああ、僕の可愛い家族達の餌にするのもいいかもね、この部屋にはいないけどさ、他の部屋には悪い人間を喜んで食べそうな子がいるんだよ」

「……」


 とんでもない女を撃ってしまったな、と悟られないように冷や汗をかいていると、陽気な声と共に獅童さんがお茶とお菓子を持って部屋の中に入ってくる。ようやく重苦しい空気から解放され、ティータイムを楽しみつつ雑談をして、それじゃそろそろお暇するよと屋敷から脱出する。その日の晩、お城のようなホテルでメイド服の少女に抱き着きながら、俺は情けなく身体を震わせていた。


「……というわけなんだよ。どうしよう、俺殺されるかも」

「やめればいいじゃないデスか、動物虐待だなんて。動物は食べるものデスよ。綺麗さっぱり足を洗って、あの女とは関わらないようにすればいいんデス。動物を虐めるよりも、愛らしいメイドさんを虐めた方がいいデスよ?」

「怖いんだよ。足を洗ってさ、何事も無かったかのように日常を送ってもさ、いつかバレるんじゃないかって。『僕を騙したんだね』って、銃口を向けられる未来が見えるんだ」

「否定できないデスね……粘着質な女デスし、財力もありマスからね、探偵とか雇えばあっさりバレる気がしマス。……ああ可哀相な犬神さん。将来彼女に撃たれるか、ここで腹上死するか選ばせてあげマスよ」


 死の恐怖に怯える俺を優しく抱きしめる彼女。俺は現実逃避するかの如くその身体を貪り、一時間後に賢者になる。賢者になった今の俺にとっては、この状況を打破する名案を思い付くことなど造作もない。


「閃いた。彼女は現状俺のことを信用してくれているし、このまま彼女と親交を深めて、彼女に惚れられるくらいになって、『実は犯人だったけど君の慈愛の心に触れて改心したよ許しててへぺろ☆』って感じでハッピーエンド。ついでに逆玉。どう?」

「犬神さん……」


 パンツ一丁で今後の作戦を語る俺を、半分くらいメイド服な少女は無表情で眺め、やがて大きくため息をつくと、


「天才デスか!?」

「だろう!?」


 俺の完璧な作戦を保証する。こうして俺は自分を恨んでいる少女を攻略するという、感動的な恋愛モノの主人公となる事を決意したのであった。



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