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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とうさぎの動物捕食
21/57

俺とうさぎとウミガメのスープ

「死ぬ前にはウミガメのスープを飲みたいデス」

「……?」


 学食で彼女と食事をしている時に、近くにいた馬鹿そうな大学生が『もうすぐ戦争になるんじゃね?』だの『いつミサイル飛んでくるかわかんねーよな』だの、終末論みたいなことを語っているのに感化されたのか最後に食べたいモノの話をする。ありがちな話題ではあるが、チョイスがよくわからない。


「知ってまシタ? ウミガメのスープを飲んだら美味しさのあまり自殺してしまうというエピソードがあるんデス。だから死ぬ前に飲もうかと」

「……いや、ちょっと待って。聞いたことがあるよそれ。船乗りが遭難中に仲間からウミガメのスープを飲まされて、無事に帰った後にまた飲みたくなったからレストランで飲むんだけど全然違う味でさ。最初に飲んだのは死んだ仲間のスープだって気づいて自殺した、ってオチ」

「なんだ、つまらない話デス。じゃあウミガメのスープはいつ飲んでもいいということデスね」

「そういうこと。夏休みになったら海にでも行かない? 潮干狩りしながらウミガメが産卵しに来るのを待つ。そして産卵を見て生命の美しさに感動した後、役目を終えたウミガメをキャッチアンドイート。最高に夏だね」

「いいデスね! フフフ、夏を満喫しマス」


 ネタ晴らしをした後、そのまま流れるようにデートの誘いをかける。最初に身体の関係を拒んだ癖に積極的にデートの誘いをするのは夏が悪いと結論付けて、楽しみにしながら夏休みを待つ。そして当日、誰もいない砂浜に俺達は現地集合でやってきた。


「人がいませんね。あんまり魅力のない海デス」

「ウミガメを捕まえるんだから人がいたらまずいでしょ。近くにちゃんとした海水浴場があるからね、こっちには多分来ないよ。それとも海水浴場に行って真面目に海を楽しむ?」

「いえ、こっちでいいデス。何かを得るためには何かを犠牲にしないといけないということデスね。それより、どうデスかこの服装」


 感想を聞かれてマジマジと彼女の姿を見る。麦わら帽子に、ピンク色で愛らしいカッパに、機能性抜群な軍手に……文句の付けようがない、これは、これは潮干狩り用の装備だ!


「水着を着て来いよ! 俺だけ海パン一丁だぞ!?」

「だって潮干狩りするって……」

「何でそういうとこだけ真面目なんだよ!?」

「失礼デスね……私はいつだって大真面目デス。言ったじゃないデスか、薄着が多いのはハンティングのためであって痴女な訳では無いと。日本人の悪いところデスよ、最初から『海で遊ぶついでにウミガメ探そう』って言えばよかったんデス」


 俺のがっかりした表情に、やれやれと肩を竦めながら熊手を取り出してその場に座り、適当に掘り始める彼女。俺も仕方なく泊めていた車に戻り私服に着替えて、共に浜辺を適当に掘る。誰も管理していない浜辺なので業者が貝を撒いている訳ではないが、俺達以外に誰もいないので掘り放題。彼女の水着を見ることが出来なかった悲しみなんてすぐに忘れて、潮干狩りに夢中になっていた。所詮男は単純なのだ。


「カニもいマスよ。饅頭みたいで美味しそうデス」


 貝の入ったバケツをニコニコしながら眺めていた彼女が、近くをウロウロしていたカニを眺めてじゅるりと涎を垂らす。饅頭みたいというフレーズにまさかと思って見てみると、案の定危険なアイツであった。


「それ毒だよ」

「失礼な、知ってマスよ。人を見境なく食っては病気になる馬鹿女扱いしないでくだサイ!」

「性病には気を付けなよ」

「いつから男の話になったんデスか……」


 食欲と性欲だけ旺盛な馬鹿女扱いされたのは流石の彼女もショックだったようで、いじけて砂に指でぐるぐるマークを大量に書き始めた。出会った当初こそ彼女のテンションやらに圧倒されており、ヤベー女だなと思っていた節もあるが、気づいたらセクハラするくらいには順応しているようだ。プラトニックな恋がしたいだの言っていたが、結局のところ日頃から動物を撃って愉しんでいるような人間だから、女に対しても優位に立ちたいだけなのだろう。これが鹿野さんみたいな強がってるけどヘタレオーラを隠せない女だったら、積極的にヤらせてよだの攻めていた、そんな気がする。


「ごめんごめん、言い過ぎたよ。ほら、綺麗な貝殻。獅童さんにあげる」

「ありがとうございマス……うう、潮臭いです。あれデスか、潮吹いてそうな私にはお似合いデスか」

「被害妄想だよ獅童さん……」

「はぁ、あそこにいる亀も卑猥な何かにしか見えません……潮だの亀だのイカだの、海は卑猥デス」


 綺麗な貝殻を見つけたのであげて見たが、男ばりに日頃から卑猥な事ばかり考えているのは本当なのか、勝手に曲解して更に落ち込んでしまう。女心は難しいなとげんなりしながら、彼女の指差す向こうにいる、海からあがってきた亀を見やる。


「……いやあれウミガメじゃん」


 地球温暖化の影響なのかはわからないが、随分と神様は俺達に優しく、そしてウミガメに厳しいようで、やってくるとは思っていなかったウミガメがまんまと卵を産むために浜へやってきた。手、というかヒレで砂浜を掘り、そこでじっとし始める。ここから有名なウミガメの産卵が始まるのだ。俺も彼女も現代っ子なようで、近くに隠れてスマホを取り出し、様子を見ながら動画を撮り始める。


「おお、泣いてマス、泣いてマスよ。やっぱり出産の時は痛いデスよね」

「あれは目が乾かないようにしているんだよ。普段海で暮らしてるからね」

「ロマンの欠片もないデスね」

「やってる本亀は真剣なんだよ」


 まさか本当にウミガメに出会えるとは思っていなかったので事前調査なんてしていなかったが、考えて見れば陸ではのろまな亀が産卵をすぐに終えるはずがなく、約1時間も連続で卵を産み落とし続けていた。スマホの電池が切れる頃、ようやく卵を産み終えたのかのそのそと海に向かって戻りだす。生命の神秘に感動していたような俺達だったがそれはそれ、これはこれ。無情にも彼女に抱えられてクーラーボックスの中に閉じ込められてしまうのだった。


「人が来ないうちにさっさと調理しに屋敷に行きマスか」

「了解。卵も取る?」

「産んだばかりの卵や生き物を連れていくなんて、そこまで私は鬼畜じゃないデスよ」


 つい先日、カラスの巣を襲撃してヒナを捕まえ、怒った親すらナイフで切り裂き、挙句の果てには集団で復讐に来た連中を焼き尽くすという非道の限りを尽くしていた彼女だったが、そんな彼女も人間だ。ウミガメの産卵を見て少し感化されたのだろう。人間とはそんな都合のいい生き物だ。屋敷に向かい、彼女が調理をする間にテーブルで電源の切れたスマホを眺めるという依存症っぷりを発揮させているうちに、スープ皿を手にした彼女がやってきた。


「お待たせしまシタ。ウミガメのスープデス」


 コンソメベースの、ウミガメの肉がたっぷり入ったスープを前に両手を合わせて頂き始める。過去に海で遭難した経験も無ければ人肉を食わされた経験も無い。そんな人間が食べたウミガメのスープの味は、まずいわけでもなければほっぺが落ちる程美味しい訳でもないが、彼女はウキウキしながら未知の味を楽しんでいる。うまいとか、まずいとかではない。それが食べられるから食べる。食べたことがないから食べる。食を追い求める人間のロマンとはそういうものだ。


「罪滅ぼし? って訳でもないけど、せめて子亀が無事に成長してくれるといいね」


 人間は強欲な生き物だが、動物を捕りすぎると絶滅してしまい捕れなくなると理解できるだけの頭は持っている。捕りすぎないのは慈悲を与えている訳ではない、今後も捕るためだ。そんな情のない情けを亀にかけていると、彼女が唐突に悲しそうな目をする。


「……実は私、子供を産んだことがあるんデス」

「そう」


 そして出産のカミングアウト。彼女が日本に来る前に、身体を売って生活していたであろうことは想像に難くない。海外への偏見なのか、所詮は出産をすることができない男の反応なのか、そんな彼女の重大そうな告白にそう、とだけ返してしまう。


「避妊する頭も無ければ、堕ろす頭もありませんでシタ。誰でも教育が受けられる日本とは違うんデス。その辺の生き物は捕まえれば食べられる、その辺の男に言われるがままにエッチなことをするとお金をくれる、そのお金でご飯が食べられる、子供が産める年齢になっても、その程度だったんデス」

「子供はどうなったの?」

「わかりません。お腹が痛くなって、その辺で産み落として、逃げまシタ。すぐに死んだかもしれませんし、誰かに拾われたかもしれません。まあ、きっと前者デスよね。このウミガメのように親が死んで子供が生きるのと、私のように親が生きて子供が死ぬの、どちらがマシなんデスかね。……ごめんなさい、わかりきった話デス」


 暗い過去を俺に喋るのは信用してくれているからなのか、彼女が単にお喋りなだけなのかはわからないが、ヤケ飲みだと言わんばかりに目の前のスープにがっつく彼女。『子供ならまた作れるじゃないか』なんてデリカシーもなければセクハラな発言を頭の中に封印しながら、『大丈夫だよ、獅童さんが拾われたんだから赤ちゃんも拾われてるよ』なんて慰めているのか謎な言葉をひりだすのだった。




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