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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とうさぎの動物捕食
19/57

俺とうさぎと焼きカラス

「Umm……」

「どうしたんだい深刻そうな顔をして」


 この日の昼、食堂に向かった俺は既に食べ終えたトレーを前にして、スマートフォンを見ながら悩んでいる彼女を見つけて対面に座る。俺に気づいた彼女はスマホの画面をこちらに向けた。


「『クレイマンしんちゃん』だね」


 そこに表示されていたのは大人が子供に見せたくないけど劇場版は評価が高かったりする国民的アニメ。獅童さんもステレオタイプな外国人らしくアニメが大好きなのだろうかと思っていると、悲しい表情をしながら昔の話をし始める。


「少女時代の私は乞食みたいな生活をしてたんデスが、そんな私の心の支えは家電量販店の前でアニメを見ることでシタ。久々に懐かしのアニメを見ようと思ったんデスけど、こんなアニメだったかなあと困惑しているのデス」

「違うアニメなんじゃない?」

「うーん……オープニングを聞いた時はこれだ! と思ったんデスが……猫がマシンガンとか撃ってた気がしマス……まあいいデス、アニメ見るような年齢も卒業デスし。そのアニメで印象的だったシーンが、カラスと猫が戦って最終的に猫が勝ってカラスを焼き鳥にして食べるというものだったんデス。さあ、街でカラスを狩りましょう。人間のためにもなりマス。五限終わったら大学前のコンビニで待ち合わせデス。シーユー」


 勝手に約束を取り付けて、トレーを持って去っていく彼女。随分と辛い過去をヘラヘラと喋るものだ、ああいうタイプは顔で笑っていても心は泣いているものだが、今の俺にできることといったら彼女の道楽に付き合ってやるくらいなものだろう。言われるがままに五限が終わった後に近くのコンビニに向かうと、ドアの前で焼き鳥をもしゃもしゃと美味しそうに頬張り、集客に役立っていそうな彼女の姿。その傍らには旅行にでも行くのか大きなキャリーバッグ。


「何で既に食べてるの」

「これは普通の焼き鳥デスよ? コンビニのホットスナックは卑怯デスよね、ついつい買っちゃいマス」

「まあわかるけど。で、カラスなんて狩れるの? ちょっかい出して突かれて怪我したなんてよく聞く話だけど」

「道路に木の実を置いて車に割らせた程度で賢い言われるような動物に負ける理由はどこにもないデス。怪我したのは油断したからデス。百戦錬磨の私達が負けるはずがありません。しかし負けるとすればそれは周囲の視線。肉食べて生きてるし、ゲームでモンスターをハントしたりしてるのに、生きるために、食を楽しむために狩りをしている私を批難するのデス。そんな愚かな連中に復讐するつもりはありませんが、今回はこんなものを用意しまシタ。コンビニのトイレで着替えて来てくだサイ」


 ダブルスタンダードだと一般人を批判しながら、キャリーバッグからツナギのようなものを取り出して俺に手渡す彼女。コンビニでそれに着替えて戻ってくると、続いてヘルメットと安全帯を手渡される。それも装着した俺はどこからどう見てもどこかの作業員だ。


「うんうん、似合ってマス」

「ありがとう。ははーん、わかったぞ。作業員の服装していたら、カラスを狩っていても『ああ、仕事なんだ』って批判的な目で見られない訳だね」

「その通りデス。この格好で犬神さんがカラスの巣からヒナをゲットしマス。すると親が怒って襲ってきマス。それを返り討ちという訳デス。親も子供も食べられる、まさに一石二鳥デス」


 策士っぷりを見せつけた後、更にバッグから脚立を取り出してあそこに巣がありマスと近くの木を指差す彼女。現場監督を気取っているのかオーライオーライと連呼する彼女の誘導を聞き流しながら脚立を登ると、そこには彼女の言う通り鳥の巣と、そこで寝ている黒いヒナ。安全帯を木の枝の丈夫そうなところにかけて巣を取り外そうとしたところで、鳴き声が聞こえる。


『カアーッ! カアーッ!』


 目論見通りヒナを守るために俺を攻撃しに来た親のカラスだ。素早くこちらに向かってきて俺の身体を引っ掻いてくる。人間をナメんなよと彼女に貸して貰ったナイフで応戦し、どうにか黒い身体にそぐわぬ赤い血を流しながら落下するカラスを見届けた後、改めて哀れなヒナ達を親の下へ送り届けるべく、巣を取り外して脚立を降りた。


「お疲れ様デス」

「いててて……普通に引っ掻かれちゃった。ヘルメットしてても身体はこんな作業服じゃ守れないし、そもそも安全帯をかける場所も木の枝じゃ最悪折れちゃうよ。素人がやるもんじゃないし、そもそも獅童さん何もやってないじゃないか。それにカラスは俺達じゃなくて周囲の人も襲いかねない、本職の人は看板立てたりして注意喚起したりするもんだよ。駆除業者を装って周囲の人間を欺いたって得られるのは下らない自尊心だけだ。人気のいない場所で安全策をとろう」

「……そうデスね。リスクは回避できるなら回避する、経済学の基本デス。次の場所に向かいまショー」


 当初の予定では街中にあるカラスの巣を持っていく予定だったが、それを無視して人気のない場所に立っている木を狙う。山と道路の境目のような場所にポツンと立っている木の上には、彼女が事前に調べていた通りカラスの巣があった。俺はカバンから愛機を取り出すと、巣の下に狙いを定めて引き金を引く。かなり改造したエアガンだ、半端な木の枝なんて簡単に壊れてしまう。支えを失った巣はヒューと落下して行き、下で待ち構えていた捕食者の腕の中へ。今回も近くに親がいたようで、巣を持っている彼女に襲い掛かる。


「子供を守るために勝てない相手に挑むなんて、真愚かの極みというものデス。賢い生き物のすることではないデス」


 しかし相手はナイフ術のプロフェッショナル。目にもとまらぬ高速技で、引っ掻かれる前にカラスを切り裂き地面にボトっと墜落させた。


「私達、いいコンビデス。諺にもありまシタよね、剣も銃も強し。」

「その諺は間違ってるけど、いいコンビなのは間違いないね。……ん?」


 連携プレーを褒めたたえているのも束の間、妙なプレッシャーを感じて振り返る。そこには一匹のカラス。そしてすぐにもう一匹が近くにやってくる。


「うわ、こっちにもいマス」


 声につられて彼女の方を向くと、彼女の前にもカラスが数羽集まって、カーカーと鳴き始める。その後もカラスは増えていき、あっという間に俺達は数十匹はいるであろうカラスの群れに取り囲まれてしまった。


「聞いたことがあるよ。カラスは敵を識別して仲間に教えるそうだ」

「流石にこの数はまずいデス……なんて言うと思いましたか? 伏せてくだサイ」


 ボス格と思われる一際大きなカラスが鳴いたかと思うと、一斉に連中が俺達へと飛び掛かってくる。この数じゃ最悪殺されるんじゃないかと恐怖を覚えながらも、彼女の言葉を信じてその場に伏せる。彼女はバッグからバズーカのようなものを取り出した。


「汚物は、消毒デース!」


 スイッチを入れた途端辺りが熱気に包まれる。世紀末の必須アイテム、火炎放射器だ。火炎を放射しながら彼女はその場を回転し始め、襲い掛かってくるカラスを次々と焦がして行く。そしてあっという間に、カラスの数は半分以下に減ってしまった。


『……』

『カアーッ! カアーッ!』

「ハーッハッハッハ! 力こそが正義! 世紀末にならなくたって、それは世界の理デース!」


 敵わないと判断したのか、負けカラスの遠吠えをしながら去っていくカラス。彼女は高笑いしながら、既に焼き鳥になっているかもしれない焦げたカラス達を回収するのだった。その後彼女の屋敷に向かい、カラスやそのヒナを調理して実食へ。


「……美味しくないデスね。所詮はゴミを漁っている乞食。肉も臭くて当然デス」

「ま、美味しさを気にするって幸せなことなんじゃないかな。食を確保できているんだから」

「それもそうデスね。今の自分が恵まれていることに改めて気づきまシタ」


 お世辞にも美味しいとは言えない肉だが、食べるために非道なことをして命を奪ったのだ、捨てるなんて神様も俺達の下らない自尊心も許せない。ソースで無理矢理腹に押し込んで行くと、スマホが鳴る。どうやら緊急のニュースがあったようだ。


「近くで列車が脱線だって。原因は置石。あーあ、死人も出てる。犯人は誰だろうねえ」

「下らないことをしマスね。社会への復讐デスか?」

「さあね」


 いつの世もいるものだ、いじめっ子に復讐できないから、それより弱くて無関係な動物に復讐したり、あるいは社会全体を呪ったり。例え無関係でもそれで本人の憎しみが解消されるなら、それは賢い行動かもなのな、と悟ったところで、


『『『『カァーッ! カァーッ!』』』』


 何羽ものカラスの鳴き声が外から聞こえてくる。まるでそれは、何かを成し遂げた時の、勝鬨のように聞こえたが、今の俺にはそんなことに拘るよりも、目の前のまずい肉を消化することが大事だった。



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