俺とうさぎと神の遣い
【どこの】飼い主が亡くなってすぐ犬が盗まれる【国でしょう】
76 : 名無しの***ちゃん 4/24(木) 07:06:07.06
あのー、犯人わかっちゃったんですけど
77 : 名無しの***ちゃん 4/24(木) 07:07:06.76
あっ……(冊子)
自分 78 : 犬の神◆DOGODGODOG 4/24(木) 07:07:07.67
犬も飼い主のとこに逝けてよかったやろ
そもそも広島ってことは犯人はゲロカスの可能性もある
あいつら貧乏だから犬だって食うやろ
79 : 名無しの***ちゃん 4/24(木) 07:08:07.06
>>78
チョ〇コー乙
ゲロカスは肉を食う前に皆で集まってお祭りするから
隣国との友好な関係に亀裂を入れてしまったことに対する贖罪を、たった1つの擁護なのか地元野球ファンへのヘイトなのかよくわからないレスで済ませてスマホを閉じ、大学に向かい何食わぬ顔で講義を受けてお昼に学食へ。
「やあ獅童さん。お肉ばかり食べちゃダメだよ、野菜も食べなさい」
「食べてマスよ、ショーガ焼きに入ってるタマネギとか。でも貰えるモノは貰いマス」
学食で獅童さんを見かけた俺は、そっと自分の買ったサラダを彼女のトレーに置く。ちなみに先日はたまたま彼女が俺がいつも食べている学食にやってきただけで、普段は講義の場所の関係上、お互い別の学食で食べている。最近は彼女にアプローチするために、こうして俺がストーカー染みた行為をしているのだが。
「今更だけど、牛とか豚とかオッケーなんだね」
「肌の色だけで偏見を持たないでくだサイ、食事を制限する神様なんて必要ないデス。日本は素晴らしいデスね、八百万の中から好きな神様を選んでいいんデスから。最近信仰しているのは、自分の顔を食べさせてくれるアンパンの神様と、黒い山羊をたくさん産んでくれる神様デス」
「神道ってそんなシステムだったかなぁ……? まぁ、日本で生きるならそれで正解だよ」
何やら彼女は勘違いをしているようだが、彼女の勘違いを正せるほど俺も詳しくはないので、適当に相槌を打つ。少し前まではグローバルだの人権だの、日本は閉鎖的だ海外を見習えだのそんな言葉が飛び交っていたが、難民や宗教によって他国がボロボロになりかけている今となっては、宗教に無関心で島国である日本は素晴らしいと言う他にない。ご飯を食べ終えた後、ご飯粒のついたまま俺を見て舌なめずりする彼女。
「信仰者もただ他力本願に救済を求めるのはよくないと思うのデスよ、祈ったところで神様は助けちゃくれないなんて知ってマス。だから神様を自分で探しましょう、そして食べましょう。神のようなパワーを手に入れて幸せな人生を送るのデス。犬の神様を食べたら嗅覚が鋭くなりマスか?」
「犬神の祟りは凄まじいよ、やめときなさい。食べられる神様はいないけど、神の遣いならその辺にいるよ。狐とか」
「狐は食べられないデスよ、私知ってマス、狐にはアルトサックスがあるんデスよ」
「……?」
何やら彼女は勘違いをしているようだが、彼女の勘違いを正せるほど俺も詳しくはないので、日本でよく神の遣い扱いされている動物を列挙する。その中の一つ、鹿に彼女が食いついた。
「鹿、知ってマス、お肉がヘルシーなんデスよね。何で鹿の病院があるんでしょうと疑問に思ってまシタが、神の遣いなら納得デス。おっと、そろそろ講義の時間デス。終わったら鹿の病院に行って譲って貰えないか交渉してきマス」
「鹿の病院……?」
何やら彼女は勘違いをしているようだが、考えているうちに彼女はトレーを持ってどこかへと去って行ってしまった。まぁ人間、全ての勘違いを正す必要はない。いつか自分で気づいた日に、友達に話して笑いの種にするくらいが丁度いいのだ。そう悟りながら俺も自分の講義を受け、夜に部屋でゲームをしていたところスマホが震える。獅童さんからではなく、『神聖なる病院に鹿の死体を貰いに来たイカれたうさぎを捕まえたので飼い主はさっさと引き取りに来い、来なければ解剖する』というサークル仲間の怒りのメッセージであった。
「鹿野って読むんデスね。漢字は難しいデス。数年くらいじゃ日常会話で精一杯デス」
「ま、別の言語覚えてから日本語を学ぶのは難しいだろうね。仕方がない仕方がない。これからはグローバルな時代だからね、ルビも振らないあの病院が悪い」
彼女を引き取った後、近くのファミレスで食事をする俺達。鹿の病院なんてものは存在しないが、鹿がたくさんいる場所なら、都合のいいことに県内にある。なので少し勇気を出してデートに誘ってみることに。
「ここから電車で1時間、フェリーで20分くらいに宮島ってのがあってね、そこには鹿がたくさんいるんだよ。観光客が多いから狩ることはできないけど、鹿の肉ならどうにかなるかもしれない。週末にでも行かない?」
「本当デスか!? 行きマス行きマス。自分で狩った肉の方が美味しいなんて錯覚デス、与えられる肉も等しく美味しいデス」
汚い食べ方と平然と生き物を殺す残虐性、ちょっと日本人の価値観とは合わない思考さえ受け入れることができるなら、この子はただのチョロインだ。約束を取り付けて、彼女に鹿の肉を食べさせるために根回しをして、土曜日の昼に俺達は宮島の地を踏んだ。
「値段の割には微妙デスね、穴子飯。タレが美味しいだけだと思いマス。後はブランド力デスね。高いから美味しいという先入観があるんデス、でもきっとそれは幸せなことなんだと思いマス、高いご飯を帰るだけのお金があって、先入観で美味しいと思えるんデスから」
「カッコつけてるとこ悪いけどご飯粒ついてるよ」
「それにしても流石は観光地。ガイジンだらけデスね」
「言葉狩りが流行ってるから気を付けた方がいいよ」
船の上で穴子飯なんか食べてよく酔わないなとか、見た目が外国人の人がガイジンって言うのは別に問題ないかなとか、そんな事を考えているうちに鹿と遭遇するが、とりあえず写真でも撮っておくかとスマホを取り出す俺とは対称的に、彼女は特に興味がないらしくふらふらと近くにあった屋台へ向かう。
「獅童さん、ほら、鹿がいっぱいいるよ」
「……私は鹿を食べに来たんデス。その辺の鹿を可愛がる感性は持ち合わせてないデス」
「……? 怒ってる?」
「別に。それよりどこで鹿の肉を食べられるんデスか?」
俺は撃てない動物は動物として可愛がるが、彼女は食べられない動物に興味は無いらしく、鹿よりもカキや饅頭の方に目を奪われている。これから鹿の肉を食べるというのに揚げた饅頭を頬張っている彼女に適当に島の説明をしながら、目的地へと向かっていった。
「簡単な話なんだよ。その辺で呑気に生きてる鹿を狩ることはできないけどさ、いつかは死ぬんだよ。死んだ鹿をほっといたらどうなる?」
「腐臭を放ったりして観光客が減りマス」
「その通り。だから死んだ鹿はこっそりと処理するんだよ。地元の有力者がね。で、俺の親戚もいるから宴会に混ぜて貰うように交渉したってわけ」
「なるほど。コネは大事というわけデスね。犬神さんの顔に泥を塗らないように精々お酌しマス」
「助かるよ」
それなりに高級そうな屋敷では、鹿鍋をつつきながら既に酒の回っているおっさん共がゲラゲラとよくわからない話をしていた。その中の一人である親戚にペコリと礼して、取り皿に鹿の肉を入れて彼女に渡してやる。
「ありがとうございマス。……うーん、柔らかくて美味しいデス。しかもカロリーは牛や豚の3分の1! つまり3倍食べても大丈夫ということデス」
「その発想はおかしくないかな……?」
そのまま勧められるままに料理や酒を頂く俺達。可愛い彼女だなとか、まだ彼女じゃないですよとか、そんなお決まりの会話をおっさん共としたりして、宴会が終わる頃には普通の観光客はとっくに帰っている時間帯になっていた。大食いだがお酒はあまり強くないらしく、ふらふらとしながら島の入り口に向かう彼女。そんな俺達を、鹿がじっと見つめていた。
「……けっ、いいご身分デスね。生きてるだけで餌を貰えて、神の遣いだなんて持て囃されて」
「ちょ、ちょっと獅童さん?」
そんな鹿の1匹を睨みつけながら、カバンからナイフを取り出す彼女。酔った勢いで殺害しないだろうかと冷や冷やしていたが、舌打ちしながら彼女はカバンにナイフを戻す。
「冗談デスよ。ナイフを突きつけられても微動だにしない、人間を舐めてるとしか思えないその態度、腹が立ちマスけど、犬神さんにまで迷惑かけるつもりはありませんから。さあ、帰りまショー。穴子飯はまだ売ってマスかね?」
「もう営業時間過ぎて……というか値段の割には微妙って言ってなかったか……?」
「女の子は気まぐれなんデス」
彼女の心の闇を垣間見ながらも、今すぐどうこうできる問題でもないだろうと、帰りのフェリーの甲板で風に揺られ、横でぱくぱくと饅頭を食べている彼女を眺めながら、初デートのフィードバックをするのだった。