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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とうさぎの動物捕食
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俺とうさぎと柴犬のステーキ

「ばぁぁぁぁぁぁぁぁっかじゃないの、あ~あ、もうこれはアレね、一生童貞ね。チャンスを逃したわ。恋愛に高尚な何かを求めてる人間の末路ね。三十台後半くらいになって、非正規で結婚相談所に行って門前払いされるのよ。あーよかった、私はそんなことにならなくて」

「こないだ鹿野さんの彼氏と飲んだけど、初めての時に自分から目隠ししたらしいね。ド変態だね」

「あの野郎……」


 ホテルに行かずに布団の中で悶々とした翌日。学食でサークル仲間にゲラゲラと笑われたので仕返しに彼女の恥ずかしい初体験談を述べてガンガンと机を叩かせる。これが原因で破局して男を信じなくなった彼女が一生独身になりますように。


「そんなわけで麻酔銃貸してよ。彼女のためにその辺の生き物をハントするんだ」

「……研究に何度か協力して貰ったし貸してあげるけど、バレたら尻尾を切るからね」

「わかってるって。バレないバレない。プロ舐めんなよ」

「何のプロなのよ……というか周りに人がいないとはいえ学食なんだからもう少し小声で喋りなさいよ……」


 日頃の行いが良いのか前世でロマンスでもあったのかはわからないが、すんなりと小型の麻酔銃を貸して貰った俺は自分の部屋で二丁の銃を構える。そうして自分の世界に酔うこと数十分、スマホが震えて現実世界に引き戻された。


『野良犬はどこにいますか?』


 獅童さんからのメッセージだ。とりあえずは会って話をしようよと彼女の居場所を聞きだしてそこに向かう。彼女と出会った公園のベンチで、不満そうにコーラを飲む彼女。初めてあった時と同じような露出の高い服装だ。


「お待たせ。外では痴女なの?」

「動きやすい服装の方が狩りがしやすいんデスよ。それより野良猫は見つかるのに野良犬は見つからないんデスよ、故郷では野良犬の方が多かったのに」

「日本は安全な国だからね。狂犬病対策に野良犬は皆殺しにされちゃったんだ」

「なんデスと!? うー……犬を2匹程捕まえたいんデス」


 そのまま話をし始める彼女。2週間程前に俺と同じような流れで男に誘われて韓国料理を食べたのだが、その時に『犬は棒で叩くと美味しくなる』と言われたそうだ。なので彼女は犬を2匹捕まえて、1匹は普通に食べて、もう1匹は叩いて食べて味比べをしたいのだという。


「経緯はわかったけど、どこかから逃げて野生化した犬くらいしか見ないだろうなあ。中華街とかに行けば、犬鍋屋とかあるんじゃない? そこで殺す前の犬を譲って貰うとか」

「とりあえずはその方向で探して来マス。犬神さんも見つけたら捕まえてください。神様なんデスから」

「犬神の名を持つ者としては協力するべきではないだろうけど、まあ期待しないで待っててよ」


 犬を探すという方向で話を終えた後、もう少し辺りを探してみマスと去っていく彼女。俺は犬を探すことなくアパートへ戻る。今まで20年生きてきて野良犬なんて見たことが無い。探すだけ無駄だ。そのまま数日が経ったが、この辺の中華街には犬鍋屋は無かったらしく、学食で見つけた時は不満そうにカツ丼を食べていた。


「ウウウウ……」

「獅童さんが犬になってどうするのさ。というかそこまで拘ることなの?」

「日本に来る前は犬とよく闘っていまシタ。日本と違って安全じゃないデスから、犬に襲われるんデス。何とか倒しても、狂犬病持ってる可能性が高いので食べられないんデス。お腹が空いてるのに、倒したのに、勝ったのに食べることができない悲しみがわかりますか? その恨みを晴らす時が来たのデス。そうだ、近所の飼い犬を捕まえればいいんデス。ニュースでやってまシタ、隣の国ではよくあるらしいデス。つまり私がやっても、隣の国の人のせいにされマス」

「最低な発想だよ……」


 俺も、多分彼女も法律をガン無視しているが、それでもやっていいことと悪いことがあると思う。盗みを働いてしかも隣国との友好な? 関係を壊そうとするなんて悪魔の所業だ。冗談デスよ、と口元にご飯粒をつけたまま目を逸らして笑い、講義があるのでと去っていく彼女。彼女が愚行を働く前に、どうにか犬を調達できないものかと悩みながら帰路につく途中、民家の前に人だかりが出来ていた。


「孤独死ですって、親族とかも全然いないそうよ」

「怖いわねえ」


 ここに住んでいたお婆ちゃんが玄関の前で心臓発作を起こして亡くなった、そんなよくある話。よくある話だが、俺にとっては重要な話だ。何度もこの家の前を通っているから知っている。確認するように庭を覗くと、そこには飼い主が亡くなったとも知らず鎖に繋がれて寝ている二匹の柴犬がいた。部屋に戻り、最近買った車に乗って野次馬がいなくなった頃に戻ってきた俺は、カバンから小型の麻酔銃を取り出すと人懐っこいのか俺に向かってハッハッと舌を出している犬達に向ける。


「もうすぐ婆さんのところに送ってやるからな」


 これは悪行ではない。もう飼い主がいないのだから自由だ。むしろ獅童さんの欲求を満たし、こいつらを婆さんの所に送り届けるという善行だ。そう自分に言い聞かせて引き金を引いた。


『ワオ! 本当デスか?』

『ああ、二匹、それも同じ品種の犬が手に入ったよ。モノがモノだけにさっさと処理したいんだけど、どこに行けばいいかな?』

『私の家、というかご主人様の家に来てくだサイ』


 よく寝てる犬を車に乗せて、彼女が働いている大きな屋敷へ。インターホンを押すと、露出の高い服の上からエプロンを着けた、マニアックな彼女が出迎えてくれた。


「流石は犬の神様デスね、ささ、こっちデス」

「……メイド服じゃないの?」

「着辛いし動き辛いデス。ご主人様も『似合わないな……』とがっかりしてまシタ。それより調理場に向かいまショー」


 犬を1匹ずつ抱えて屋敷の中にある、普段彼女が料理を作っているという調理場へ。彼女は自分が抱えていた犬を床に置くと、ポケットからナイフを取り出してサッと首のあたりを一振り。


「ハイ、これで1匹死にまシタ。鮮度が命デスからね、もう1匹を縛ってくだサイ」

「恐ろしい子……」


 もう1匹の犬が暴れてもいいように手足を縛って床に置く。彼女はうどんとかを伸ばすアレを棚から取り出すと、犬に向かって打ち付けた。使い方を間違えている。


「デス、デス、デス、デス、デストローイ♪ ……疲れました、お願いしマス」

「あいよ。悪いね、不殺の誓い、破っちまうかも」


 サバイバル能力に長けてそうでもやっぱり女の子なのか、殴っているうちに息が上がってバトンタッチ。俺が殴り始める頃、ようやく犬が起きたのかキャウンキャウンと吠え始めるが、残念ながら俺は普段から猫を撃っている人間だ、余計興奮するだけだと鼻息を荒くしながら何度も何度も犬を打つ。


「とどめは私が刺しますね。ああ安らかになんたらかんたら。ラーメン」


 痛々しい打撲の跡がいくつも残り、吠える気力も無くなってしまった哀れな犬の前で十字を切って、ナイフで犬の首を十字に斬りとどめを刺す彼女。それでは料理をするので外で待っていてくださいと、鼻歌を歌いながら解体用の大きな包丁を取り出した。調理場から出て屋敷の中を適当に眺めることしばらく、肉の香ばしい匂いが調理場から漂ってくる。


「とりあえずステーキにしてみまシタ。先入観を取り払わなければなりまセン。目隠しするのであーんしてくだサイ」


 ステーキが乗せられた2つのお皿を前にして、目隠しをしてまだかまだかと涎を垂らす彼女。何だこの倒錯的なプレイはと困惑しながらも、フォークにステーキを刺して順に彼女の口元に持っていき食べさせる。


「……間違いないデス、こっちの方が臭みが無くて美味しいデス」

「こっちは叩いた方の犬だよ」

「本当デスか!? 迷信じゃなかったんデスね。ありがとうございました、この世の真理に一歩近づけました。犬は叩いて怯えさせると肉が引き締まって美味しくなるとかそんな感じなんでしょうね。ささ、犬神さんも犬を食べましょう」

「まあ、神様だからね。取り込んでパワーアップしないとね」


 その後は仲良く犬のステーキを食べて、彼女に見送られながら屋敷を出る。サークル仲間に今日知った真実を伝えると、『よく叩いたから血抜きがちゃんとできてるだけよ、殺してから叩いても変わらないわ』なんて退屈な回答が飛んで来るのだった。







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