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俺と彼女の動物虐待  作者: 中高下零郎
俺とあげはの動物実験
14/57

俺とあげはと心の闇

「~市で男性が脚を撃たれ負傷した事件について、専門家は~」


 鹿野さんを担いで逃げて、彼女を研究室まで送り届けて、そのままアパートに戻った翌日。テレビをつけてローカルニュースを見ると、丁度俺が起こした事件を扱っていた。スマートフォンを取り出してニュースサイトを開き、その事件に関するニュースのコメント欄を眺める。



 Ataru Takashita -なろう大学文学部


 このニュースでは伝えられていませんが、被害者は知的障碍者だそうです。酷い事件ですね。近くに住んでいますが、怪我をした小動物が見つかる事件が何件か発生しています。犯人は日頃から動物を撃っていて、人間を撃ちたくなったから弱者を狙ったのではないでしょうか? 一刻も早く捕まることを願っています。


 いいね! 返信 ↑76 2時間前



 同じ大学の生徒を始め、色んな人が俺を非難していた。逃げるようにサイトを閉じて、代わりに匿名掲示板であるみたきちゃんねるのアプリを起動する。ニュース関係の板を開き、事件のスレッドを開いてレスを眺めた。



 76 : 名無しの***ちゃん 10/15(土) 07:06:07.06


 被害者は^q^だってさ


 77 : エミリーちゃん◆HATYOIWARU 10/15(土) 07:07:06.76


 >>76

 何 故 殺 さ な か っ た し



 匿名掲示板では被害者が知的障碍者だとわかるや否や、それまで俺を叩いていた連中が掌を返していた。どちらが人間の本質に近いのか、俺にはわからない。名前を晒してるから綺麗事しか言えないと言われればそれまでだし、匿名掲示板に書き込んでいるような連中は底辺ばかりだと言われればそれまでだ。結局装着したまま返していない、興奮度とかを測る機械に記録されたデータを自分なりに解析してみる。特別興奮している訳ではないが、罪悪感を覚えている訳でもないようだ。俺は彼を人間扱いしていなかったのかもしれない、それとも誰かが言う通り、動物を撃っているうちに俺はおかしくなって、人間を撃っても何も感じないような人間になってしまったのかもしれない。


「よし、行くか」


 支度をしてアパートを出る。自首しに行くわけではない。俺は善人ではない、バレなければそのまま隠し通すつもりだし、バレたら後始末をしてくれるという彼女に存分に頼るつもりだ。今まで動物を撃っていた俺が、動物と人間の中間みたいな存在を撃った、ただそれだけのことだと自分に言い聞かせ、向かうは彼女の研究室。昨日の彼女の反応は明らかにおかしかった、心配だから会いに行くのだ。年頃の男にとっては、自分の罪と向き合うよりも、好きな女の子と交流する方が大事なのだ。装置を返しに行くよとメールを送りながら向かい、彼女の研究室のドアをノックする。


「……あら、いらっしゃい、わざわざ悪いわね。解析結果はまた今度話すわ。それじゃ」


 さっきまで寝ていたのだろうか、よれよれの白衣に身を包んだ彼女が、少しやつれた表情で出迎えてくれる。装置を渡すとすぐにドアを閉めようとする彼女だが、はいそうですかじゃあねで終われる程、俺は物分かりのいい人間ではない。


「おいおい、わざわざ装置を返すためだけに来ると思う? 俺が」


 ドアを閉めようとする彼女の力に簡単に勝ち、強引に中に入る俺。彼女はコクコクと頷くと、もそもそと白衣を脱ぎだした。


「そうだったわね、エロいことさせる約束だったわね。女に二言は無いわ、好きにしなさい」

「じゃなくて、お見舞いに来たんだよ……女の子が倒れた翌日にエロいことするために訪問するような男だと思われてるのは流石にショックだよ……」

「それは失礼したわね。でも心配いらないわ、私は玄人よ。素人の貴方に看病されることなんて何もないわ、ただの風邪よ。急に季節が変わったから体調を崩したのよ、そんな訳で私は寝るわ」


 再び白衣をボタン違いで着なおして、ふらふらとベッドに向かおうとする彼女。そんな彼女に俺はカバンからリンゴとナイフを取り出して爽やかなスマイル。


「まぁまぁ、看病させてよ、ほら、リンゴ剥いてあげるからさ。一度やってみたかったんだよ、女の子を看病するの。エロいことの代わりってことで看病させてよ」

「……はぁ、わかったわよ。私は寝てるから、剥いたらあーんして帰りなさい」


 彼女は一瞬ビクっと震えたが、ため息をついてベッドに向かい、俺を見ないように横になる。そんな彼女を眺めつつ器用にリンゴを剥いていく俺。優秀なスナイパー? である俺にとって、この程度の芸当朝飯前だ。けれども、弘法も筆の誤りという諺がある。そして俺は本当は看病をしたくてやってきた訳ではない。


「いてててて……思い切り手を切っちゃった。ごめん鹿野さん、治して治して」


 わざとらしく痛がるような台詞を吐きながら彼女の方へ向かう。獣医学部とは言え彼女は病院の跡取り。体調悪くてもこのくらいの傷、瞬く間に消毒をして包帯を巻いてくれるはずというのが常人の発想だ。ところが、


「……!? ひ、ひぃぃぃぃっ!? い、いや、来ないで!」


 彼女は体調が悪いなんて微塵も感じさせない俊敏な動きでベッドから跳ね起きると俺から逃げ出し、部屋の片隅で縮こまってしまう。既に片隅でゴロゴロしていた味噌汁もビックリして部屋を駆け回る程だ。


「鹿野さん」

「救急箱なら! そこに! そこにあるから!」

「冗談だよ」


 恐る恐るこちらを振り向く彼女に、健康な手を見せてやる。彼女は安心したようにほっと一息つくが、すぐにこちらを睨み付け、またすぐにバツの悪そうな表情になる。


「血が駄目なんだね」

「……」


 俺の問いかけに無言で目を逸らす彼女。俺がカマキリに触れるのを拒んだり、明らかにそんなキャラじゃないのに破瓜を怖がったり、薄々変だとは思っていた。そして昨日のあの反応。疑問が確信に変わり、こんな悪い冗談をしてでも、彼女をもっと知りたくなったのだ。


「……馬鹿な話よね。病院の跡取りが、立派な医者になるべき人間が、血を見るだけで卒倒するなんて」

「そんなことないよ。誰だって血を見るのは怖いよ。鹿野さんは優しいんだね」

「やめて……」


 俺のフォローに震えるような声で返す彼女。優しくされるのに慣れていないのだろう、親の期待に応えるべく頑張って、でも血が駄目なんて医者としては致命的な弱点があって、期待外れだとか酷いことを言われたのかもしれない。けれど、俺は彼女がそれでも頑張っているのを知っている。


「鹿野さん頑張ってるじゃないか、血に慣れるために動物で練習してるんだろう?」


 おかしいとは思っていたのだ、ここの病院は動物は扱っていないのに、どうして彼女は獣医学部なのだろうかと。動物で練習して血に慣れたらきちんとした医者になると考えれば辻褄が合う。医学部は30歳から入っても浮かないような世界だ、彼女が恐怖症を克服してからでも、立派な医者になるのは遅くなんてない。大事なのは夢に向かって、目標に向かって諦めずに努力することだ。そんな彼女を、俺は純粋に応援したかった。しかし、


「やめて! やめてやめてやめて! 違う、私は……私は……っ! そうよ、最初はそうだったわ、まずは人間じゃなくて動物から慣れていこうって思ったの、けれど、けれど気づいてしまったのよ、私の心の中に住む悪魔に!」


 血よりも俺の台詞の方が余程トラウマだとでも言わんばかりに、その場にあったモノを手あたり次第こちらに投げて拒絶する彼女。そのまま嗚咽を漏らしながら、彼女は泣き崩れる。


「動物なら、どんな酷いことだってできるのよ。動物の血を見ても、少しも怖くならないの。非人道的な研究だって何のためらいもなくできちゃうの。親も、学部の同級生も、最初は私を優しい目で見てくれたのよ。血が怖い優しい子だって。それでも克服するために頑張っている立派な子だって。けれど、すぐに評価は変わったわ。犬や猫を解剖しても表情一つ変えないような、人間のために平然と動物を犠牲にするような事を考えるような、危険な子だって。人間は傷つけられないのに? おかしいのかしら? 私はおかしいのかしら? 人間じゃなかったらどんな事もできる悪魔か何かなのかしら? ねえ、貴方はどう思う? 動物を虐めているだけで、人間も傷つけると思われている貴方はどう思うの? ねえ、ねえ!?」


 鬼気迫る表情で立ち上がり、詰め寄るようにこちらに向かってきて、ガクガクと肩を揺さぶりながら、何度も何度も同じような事を問いかける彼女。突然の彼女の変貌に混乱し、うまく言葉を紡ぐことができない。何も言えない俺の態度を肯定と受け止めてしまったのか、彼女は俺のカバンからエアガンを取り出した。


「ええ、そうよ、私は悪魔よ。こんな、こんな猫、珍しいだけの猫、どうなろうが知らないのよ!」


 そして自分に言い聞かせるように、今までの自分が甘かったとでも言わんばかりに、味噌汁に銃口を向けると、震える手で引き金を引いた。


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