俺と野良猫のプロローグ
深夜の公園。少年ではないが青年とも言い難い中途半端な大人、というか俺こと犬神鷲人が、子供のように嬉々とした表情で猫に銃口を向けていた。きっかけは、小学生の頃に、近所のガキ大将に教えて貰った遊び。チャチなエアガンで、野良猫を撃つ、そんなシンプルな遊び。特に悪意があっての行動でもない、ただの子供特有の残虐性を持った行動。すぐに飽きるか、やっていい事と悪い事の区別がつくか、一緒になって猫を撃っていた友達も、元凶のガキ大将もすぐにそんな下らない事はやらなくなった。
『フーッ! フーッ!』
けれども俺は、もう二十歳だというのに未だに猫を撃ってはストレスを解消したり、興奮したり。ストレスを解消といっても、別に俺は悲惨な生活を送っているわけではない。一般家庭で育って、遊ぶために大学に進学して一人暮らしをしている、そんな恵まれているかもしれない人間。凄惨ないじめを受けているとか、家庭環境に問題があるとか、そんな事は全然無いのに、それでも俺は自分のやっている行為……動物虐待を辞めることができていない。もういい歳なのに。捕まれば、自分の人生が台無しになる可能性だってあるのに。
『シャー!』
結局のところ、人間は一度痛い目を見ないとわからないのだろう。もしくは、普通の人間だって異常な部分は、それをやらないと死んでしまうような部分は誰だって持っていて、たまたま俺にとってそれが動物虐待だっただけなのかもしれない。だから仕方がないんだ、と誰かに言い訳しつつ、目の前の猫に向かって威嚇射撃を行う。子供の頃からやっているからか、気づいたら射撃の腕前はそれなりのものになっていた。その能力をもっと他の事に活かせばいいのに、と自分に呆れながらも、ジリジリと哀れな猫の精神を追い詰めていく。
「チェックメイト」
怯えが入ったのか、猫の動きが鈍くなる。俺はニヤつきながら、猫の前脚に狙いを定める。本物の銃ではなくただのエアガンだが、それなりに改造を施しているので当たれば骨が折れてもおかしくはない。殺しはしない、殺すほど俺は悪ではない……そう自分に言い聞かせるように言い訳をしながら、引き金を引いた。