自己紹介の4
お城に行く途中、僕は少年に肩を貸してもらって、
なんとか歩くことができた。
「自己紹介がまだでしたっす、僕の名前は請立 主っす」
「なんだか名前が翼くんに似てるわね」
「…僕は…っ!逃ま…っ!」
「翼くん~?つらそ~うなのです~?」
「辛そうでーす」
鈴紗はきっと、辛そうなどと思っていないだろう……
素晴らしい棒読み加減だ。
「…でも、翼くんは本当に辛そうなので、私が紹介します」
鈴紗を始めて優しいと思った。が、この痛みの発端は鈴紗なのだと考えると、
なんだか複雑な気持ちになってくる。
「見ての通り、この情けない物体が逃惑 翼くんです」
物体、せめて生物として扱って欲しいものだ。
「そして、この高身長で、茶髪ポニーテールのツンデレちゃんが追方 志帆」
「私はツンデレじゃないわ、他人にツンツンしたこともない、
ましてや、デレデレしたこともないわ」
…デレデレはともかく、ツンツンはいつもしてるはずだ。
「こっちの低身長、ロリロリ、ふわふわ、金髪ツインテールが流碧 瑠璃です」
「身長は低くて~金髪ですが~?ロリロリってなんです~?」
「そしてこの、普通身長、普通の黒髪、ビバ普通な私が正側 鈴紗です。」
鈴紗は手を広げてくるりと一回転した。
僕に言わせれば、鈴紗も充分「普通ではない」のだが、
それを言えば、きっと鈴紗は怒るだろう。
この中、僕を含めた弁論部の中では一番まともだと言えるが、
少し、視野を広げて、周りを見てみれば、鈴紗はいろいろと異常だ
一見して、鈴紗は志帆と似ているようにも思える。
静かで、おしとやかで、少し冷たい。
その印象は決して間違ってはいない。
だが、完全に合っているというわけでもないだろう。
気が付けば、僕たちはお城の前にいた。
童話に出てくるような、パステルカラーを散りばめたお城の入口は、
大きく開いた赤い扉で、通路には赤いカーペットが引いてあった。
「…なんだか、メルヘンチックなお城ね」
「璃流~?こ~んなところに~すみたいです~?」
「正直、こんな大きな建物なので、最初から見えてましたけどね」
鈴紗だけ夢がないのはなぜだろう…
確かに鈴紗の言うとおり、遠くからでも見えてはいたのだが……
しばらく通路を歩いていくと、大きな階段が見えてきた。
しかし、階段の前には鎧を着込んだ、明らかな護衛兵もいた。
「貴様達!何者だ!」
「プレイヤー登録をするために来たのよ!」
「いいだろう!通れ!」
僕のツッコミを聞いてくれるだろうか。
まず第一に、護衛兵らしき人はこの広い階段の端にいるのだ。
真ん中を堂々と走って登れば、護衛兵には捕まらないだろう。
第二に、その護衛兵は、こちらに来るわけでもなく、
その場から動かずに、大声で話しかけてきているのだ。
本気で叫んでいるに違いない音量である。
同じことが志帆にも言える。
腰に響いてとても痛い。
そして最後に、あっさりと通しすぎだということだ。
いくらなんでもあっさりしすぎている。
立派な城を護衛しているであろう兵がそんなでいいのか……
そんなことを考えながら階段を上がった。
もちろん主に支えてもらいながら。