突然のの00
「始まりは劇的であれば劇的であるほど良い
ただしその場合、終わりはありきたりであるべきだ」
そんな、誰かの格言に従って、少し先の話からお送りします。
『 僕は弱い。
弱くて、脆くて、儚い。
だから逃げる。
全てを回避する。
逃げるが勝ちとはよく言ったものだ。
それなら僕の人生はいままで、全勝無敗だ。
連勝記録は未だに、止まることを知らない。 』
「氷爪・飛三!!」
前方、約3mの距離から、氷の直線が縦に3本飛んでくる。
氷の直線の向こうにいるのは、背の高い男。
「上位職ごときが、マスタージョブの俺様と戦おうなんて10年早いんだよ!」
このままだと確実に当たる。
その未来が『確立』している。
「全回避」
僕が言うと氷の直線が僕を避けていく。
「お生憎様、戦おうなんて考えてないよ」
避けて、氷が僕の後ろに飛んでいく。
僕の後ろには、志帆がいる。
「シールド」
志帆の前に薄い緑色の膜のようなものが現れる。
「私と戦おうなんて、100年早いのよ」
爪は膜に染み込むように消失した。
まあ、きっと100年じゃ足りないだろう。
「才能の開花 『氷爪・飛三』」
今度は志帆が、氷の直線を放った。
僕の背後から再び、3直線が飛んでくる。
「あーっぶない!! 全回避!!」
「ちっ」
志帆が舌打ちをした。
「ちっじゃないよ、当たったらどうするのさ!?」
「避けたんだから良いじゃない」
「そういう問題じゃなくてさ……」
そんな事を言っている間に、氷が男目掛けて飛んでいく。
「!? アイスシールド!」
男は手に持っている赤いツメの武器で、目の前に円を描いた。
すると、そこに氷の膜ができる。
氷の直線と膜がぶつかり、パリンと砕ける。
「あ?なんで魔道師ごときがマスタージョブの、
しかもツメのスキルを使うんだよ!!
お前が持ってるのは、杖じゃなーか!!」
男のそんなごもっともな不満を無視して、志帆が言った。
「私にできないことはないわ」
「ゲームのシステムはどうなってるんだ!」
男が声を荒らげて叫ぶ。
「そんなこと言われてもなあ…」
システムなんて、僕に怒鳴られても困る。
「バレット」
志帆がエネルギーの塊を放つ。
本当は、エネルギーではなく魔力なのだが、この際それは良いとしよう。
バレットは魔法使いの初期スキル。
要するに、あまり強くないはずなのだ。
しかし、志帆の手にかかれば、
最強系ヒロインの手にかかれば、威力は桁違いだ。
男の周辺の地面が削れる。
何もない草原に小さなクレーターができた。
当たったら痛いだろうな……。
男の頭の上にある体力ゲージも一瞬のうちに削られる。
男は痛そうに右腕を左腕で覆い、こちらを睨み、
「くそっ! 『転送』!」と言って、どこかへ飛んでいった。
『 これは、最弱の主人公と最強のヒロインのお話 』
それではこれから過去に戻って、
なぜこんなことになっているのか、
その理由を、語っていきたいと思う。
……語るほどのものではないのだが……
読んでいただきありがとうございました。
続けて、1話以降も読んできただけると幸いです。