4
「く、……俺は能年透」
男――透はすぐに口を開いた。
「理由は、伝統だが、……聞かなきゃわからないのか?」
「ああ、わからないな」
「ここは超能力を強くしたいやつらが集まるところなんだよ。それでさ、誰でも自分より強い先輩の方がいいよな?」
いまいちスッキリしない解答だが、零斗は一応納得した。メグが疲労――超能力の使用による脳の疲れ――する事も考えると、これ以上この男を固定していてもなんの利益も無いので、透を解放するのが今は一番のせ選択だろう。
「メグ、凍結能力を解除しろ」
零斗がメグに指示を出すと、透はすぐに動けるようになった。一応警戒し、少し離れたところにいる龍華とメグを手で引き寄せる。
念を押すように零斗が透に告げる。
「先輩が学校の伝統通りにやったということはわかりました」
「なら、それでいいじゃないか」
扉に向かって歩きながら、透がサラッと答える。しかし零斗は続ける。
「世の中には階級がありますよね、俺は嫌いですけど、……俺の所有物に手を出さないで下さい」
透が歩みを止め、指摘する。
「階級は嫌いなのに、奴隷は所有物か。矛盾しているな」
それはもっともな指摘であり、普通なら充分黙らせることができた――もっとも黙らせる必要など無いのだが。しかし零斗はなに食わぬ顔で答える。
「理屈は捏ねる為にあるんです。わからないんですか? 二人に手を出すな、と言ってるんです。」
零斗は二人の手を引いてもう一つの扉から退室した。
「零斗くん……」
「神上さん……」
メグ、一拍遅れて龍華が零斗に声をかける。いずを汲み取り、返事をする。
「あいつは暗闇で正確に龍華を捕まえた。それを考えると『視える』んだろうが、それならば普通は俺を捕まえに来るはず。……違う場合は『事情』を知っているか、下心で行動したかのどちらかだ」
一拍。
「それ以外の可能性も否定はできないがな」
それ以外の可能性を深く考えると、おぞましいことしか想像できないが、あえて口にする必要は無い。零斗は下駄箱で靴を外履きに代えつつ、幾つかの思考を巡らせていたが、それは校内放送の騒音により遮られる。
『Ladys_and_gentlemans、これより野球部とソフトボール部の超能力有りの試合を始めるZE~~☆」
無駄に良い発音とふざけた雰囲気の視聴覚委員が、謎のBGMと共に試合開始宣言をした。学校と所々が異常に盛り上がり、家に帰れずうんざりしていた一年も興味ありげな顔をしている。零斗は思う壺にはならず、少しでも警備(?)が緩い今逃げることを選択した。
「意味わかんねぇ……。龍華、メグ、今のうちに行くぞ。………………俺はお前らを物と思ったことは無いぞ」
最後の一言で顔を明るくした二人を見て、表現が悪すぎたと零斗は反省した。二人が答える。
「イエス、マスター」
何故かバトル時のスイッチが入っているが、零斗は気にしないことにした。