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「あーもー。先輩のせいで僕まで怒られたじゃないですか……」
「後輩よ、お前が図書室なんかに逃げたのが悪い」
責任転嫁をし合う熾滝とソンジンだが、今しているのは鬼ごっこである。捕まったら説明だけでも聞いていけ、というルールの。全力で走る熾滝は偶然、人垣に突っ込んでしまった。人垣がある理由は、
(中心にいるアイツは、……黒羽根?)
熾滝が疑問を持った次の瞬間、辺り一帯が暗黒に包まれた。
黒羽根家に代々伝わる『光』系統の超能力の応用の一つ、通称シャットダウン。点、線、面、空間の一切の光を遮断して、一時的に視覚を使えなくする技である。
驚く間も無く、ドゴッバキッと原始的な音が響き渡った。黒羽根が道を切り開いた為である。
鷹夜が使った超能力による暗黒は、二階から始まり校舎の五分の一程を覆い尽くした。暗闇に慣れている鷹夜と、一部の超能力者以外は暫くの間、殆ど動くことができなかった。しかしそんな中、動くことができたのは主に透視能力の持ち主だった。透視能力は心の眼で見る能力の為、暗闇だろうが目をつぶっていようが一切の関係は無いのだ。
そして、零斗達がいる教室に、どさくさに紛れて上級生が侵入(進入)してきた。むしろ今まで誰も来なかったのが不思議だが、教室内の獅子滅裂とした惨状を見ればどの程度危険か予想できた為、正面突破をかける者はいなかったのである。
「ねえ、零斗くん、ここは危険だよ、帰ろうよ」
メグが暗闇の中で、早口で零斗に声をかける。零斗は完全では無ものの、回復した脳を回転させて答える。
「ああ、そうだな。でもとりあえず、視界が回復してからにしよう」
零斗が悠長で、かつ冷静な判断をしたとき、後ろで物音がした。かなり大きな音で、立ち上がった程度で出る音では無い。あきらかな以上を察知した零斗が、一番後ろにいた龍華に声をかける。
「龍華!」
しかし帰って来たのは返事ではなく呻き声と足音、それも走るような。
(龍華がやられた? 暗闇での不意打ちで冷静に能力が使えないのか。……今優先すべきは敵を止めることだ!)
「メグ! 床に凍結能力を!」
緊急事態の為、零斗は断片的な言葉で短く指示を出す。メグも短く答える。
「了解しました、零斗様」
メグの保有する『火』系統超能力が発動する。次の瞬間、敵はうおッと無様な声をだし、バランスを崩した。滑ったのではない、固定されたのだ。空気中の水分を使って作った薄い氷の幕は、超能力による繊細な操作で、圧力で溶けた後すぐ凍結し、圧力をかけても溶けない程温度を下げられたのだ。
この間、わずか二秒。
キャッ、と可愛らしい悲鳴をあげた龍華に零斗はすぐ指示を出す。
「そいつから離れろ。暗闇はそのうちなんとかなる。超能力はいつでも使えるようにしとけ」
案の定暗闇は薄れ、人の顔こそ区別できないが、多少は見えるようになって来た。元々は鷹夜が逃走の為に使った技なのだから、暫くたてば薄れて当然なのだが。
零斗は問いかける。
「さて、お前は誰だ? 何故こんなことをした?」