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放課後、運動部による戦闘が『通路』『校庭』『校門』の三ヶ所を筆頭に始まったとき、零斗は教室で机に突っ伏していた。理由は例の念話のせいで脳が疲れているため、動く気力が起きないためである。
教室の数ヶ所が凹んでいたり、黒くなっていたり、水浸しになっていたり、上級生が倒れていたりするのは、黒羽根をはじめとした名門を勧誘しにきた運動部の先輩が(一瞬で)ブッ飛ばされた為である。と言っても上級生にも名門はいるので、いまだに屋上や校庭で闘っている人達もいる。今年も放置されているということは死者は出ていないのだろうが、充分恐ろしいしおぞましい。
「ねえ、零斗くん。早く行こうよ。学校の机より家のベッドの方が気持ち良いって」
「…………俺はあの人混み、いや人垣を通り抜ける自信は無い。I_am_''SAIJAKU''.OK?」
メグが説得を試みるも、零斗は自虐ネタを使ってまで動こうとしない。メグは既に説得は諦めた龍華の隣に座り、溜め息をついた。
熾滝はバスケットボール部の男と向き合っていた。友達と一緒で無いのは、他の部活に追いかけられ、蜘蛛の子のように散開したからである。
「俺はバスケットボール部副部長、李・ソンジンだ。少々手荒だがついてきてもらおうか!」
男――ソンジンがペットボトルの蓋を開け水を出す。しかし水は床に飛び散らず、空中でテニスボール台の玉になり、熾滝に向かって飛んで来る。
「『水』系統の能力か……。相性は悪くないな」
熾滝に向かってそれなりのスピードで飛んでいた水球は、ジュッと音をたてて消滅した。しかし、よく見ると湯気が残っている。
「お前、『火』系統の超能力者か……」
「さすが三年ですね。僕は『火』系統の超能力を有しています。『火』系統の超能力の本領は炎を出すことではなく、温度を変えることです。高温にすれば水は蒸発しますよね?」
「ならば蒸発できないほどの水ならどうだ?」
ソンジンが再び、さっきより多い水を出そうとしたとき、二人は後頭部に強い打撃を受けた。本である。なぜなら二人が闘っていた場所は図書室だからである。ぐあッと情けない声を出して倒れた二人に、一人の女が話しかける。
「李・ソンジン、それに一年君。貴方達、ここが何処かわかってる?」
「鄭、何すんだ!? ここは図書室だな、俺が悪いさ! でもな、スゲェ痛かったぞ!!」
ソンジンの訴えに、鄭と呼ばれた女はフンと鼻をならして答える。
「図書室内では、図書委員は生徒会役員や風紀委員を越える権限を持つわ。出ていきなさい。本が汚れるでしょう」
若干話が繋がっていない気もするが、彼女の放つ威圧感と、『念』系統の基礎の基礎、念動力により浮かんだ辞書が恐く、熾滝とソンジンは逃げ出した。