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零斗がやや出遅れたせいもあり、教室には既に明確なグループができていた。
一人から二人の貴族をその奴隷が囲むようなグループがいくつかと、優秀な平民が気まずそうに集まっているグループである。貴族というだけならばさほど気にしないだろうが、黒羽根を始めとした名門の集まりということを意識して、無名の平民達は無意識のうちに群れているのだ。
音を殆どたてず、しかも後ろの扉から入ってきた零斗達に気がついたのは平民達のグループだった。
(((…また貴族か……。あ……、隣の娘、綺麗だなぁ……)))
例の如く龍華やメグを見て、平民の男達は一目惚れした。いや、彼女に対して「お前の方が可愛いぞ」とか言っている、ある意味勇気のある猛者も一人いたがそれは例外である。ちなみにこういった者達は、基本的にエンブレムやそれに準ずるものを見ていない。
そんな平民達を無視して、零斗は自分の席に座った。その後ろにメグ、龍華の順に座った――なお、奴隷身分に苗字は無く、席に座る場合等には主人と同じ苗字として考え、順番に並べる場合が多い。
平民の一人が美少女に話しかけるのは恥ずかしかったのか、何故か名刺を差し出しつつ、零斗に話しかけてきた。
「あ、あの、始めまして。僕は南条熾滝といいます。突然失礼ですがお名前を教えていただけませんでしょうか?」
「本当に突然だな……、まあいいか。神上零斗だ、よろしく。あと敬語は要らないぞ、使いたいなら別だが」
若干の突っ込みを入れつつ、零斗は答えた。本来は名乗りたくないのだが、どのみちバレるのなら早い方が良いと考えた結果である。
「え? え? 神上?」
「神上だ。それよりもお前の『しろう』って字なんか凄いな。熾天使の熾に滝だろ……」
神上と聞いて聞き返す熾滝に適当に答えつつ、零斗は割りとどうでもいいところに着目する。その呟きに近い小さな声で言われた着目に、後ろの席のメグが反応する。
「本当にね。普通『しろう』っていうと四に『ろう』としか読めないあの字なのに、まあカッコいいよ」
その言葉を聞き、熾滝は顔を紅くして、逃げるように後ろにさがっていった。それを見て、あいつらはエンブレムが目に入らないのだろうか、と零斗は真面目に気になってきたが、今は聞く必要もないし聞く方法もない。
「熾滝くん、どうしたんだろ?」
メグが呟くと同時に教室の前の扉が開いた。時計を見れば学級活動が始まる時間だ。となれば入ってくる人物は限られてくる。――担任の教師である。