23 三日目日暮 戦闘開始
零斗の指示を待つまでも無く、メグが超能力を使う。空気中の塵や埃のの温度が上がり、発火する。それによって明るくなり――一瞬目潰しになったものの、それは相手も同じで――視界が確保される。
皆動揺して一瞬動きが止まり、その隙をついて予測できていた零斗が、右拳を一番近くにいた相手の腹――一番柔らかいところに叩き込む。
「カハッ、オグェェッ……」
それは流れるような動きで、しかし相手を一撃で仕留めることはできず、拳を受けた相手の悶える声で敵味方全員の意識が覚醒する。
とすれば、一歩前に出た零斗が最初に狙われる。悶えている男と飛びかかって来た男はともかく、後ろで道具を取り出している少年はおそらく超能力を使うのだろう。だとすれば、それの回避を優先すべきであり、男の物理攻撃は受け流す程度が最善の選択だ。零斗は行動を決定した。しかし相手は馬鹿では無いらしく、突然スピードが上がった――肉体強化である。
(避けられないッ!!)
肉体強化は自分の限界、優秀な者になると人間の限界を越えたパワーやスピードを、一時的に手に入れることが出来る超能力だ。その超能力がかかった状態の人間の拳の威力は、決して生身の人間が耐えられる威力では無い。零斗は死を覚悟した。しかし、
斬ッ!
辺りが赤色に染まった。元々炎で赤かった空間だが、そんなレベルでは無く、
「油断すんなよ、リーダー。初っぱなから指揮官が殺られたとか、洒落にもならねぇよ」
そう言った釼の手にある、新品であった筈の剃刀と砂鉄で作られた刀から、紅い液体が滴り落ちる。それを見て、その場にいる全員が理解した。男は肉体強化はおろか、通常の活動すら停止している。そして、その状況を造ったのは刀を持った一人の少年だ。
「ははっ、お前のせいで本気を出さなくちゃいけなくなったじゃねぇかよ」
悪行を行った者は相応の報いを受ける。そのような法律がある。つまり、裁判を行い、死刑になるレベルのことをしている連中ならば、殺しても構わないというものだ。しかしそれは証拠がなければ話にならず、通常通り裁かれてしまう。誘拐犯共が非人道的なことをしていることはかなり確実で、しかし証拠を押さえなければ殺人犯として捕らえられてしまう為に、なんとしてでも証拠を押さえる必要が出てきたのだ。
閑話休題。
零斗は吹っ切れたように笑い、仲間は真剣な目をしている。対して敵は容赦無い相手に恐怖を感じ、しかし絶対に通す訳にはいかないのか、釼を中心に零斗達を見据える。
しかしその後ろで、少年が動揺もせず、冷静に冷徹に呟いた。
「溺れ死ね」
直後、上の階から大量の水が降り注ぎ、零斗達を包んだ。




