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時間も間に合い、龍華やメグと離れることにより目立たなくなった零斗は、やたら長くてつまらない偉い人の話を聞き流していた。入学式なんてものをやる国は殆ど無いのだから、進級を九月にすると同時に無くしてしまえばいいのに、等と考えていた零斗は新入生代表の言葉で意識を戻した。
『次に新入生代表の言葉。黒羽根鷹夜さんお願いします』
黒羽根――『光』系統の超能力の名門の貴族――の長男、鷹夜は優秀だと言われていた。超能力が使えない零斗にとっては、天と地ほどの差がある存在だ。
黒よりも漆黒と例えるほうが近い黒髪、ハイライトの少ない黒い目、それなりに整った顔で中肉中背――しいて言うなら零斗より若干高いだろうか――の少年が舞台に上がり、一礼をする。
『私達は国連立日朝第三学業都市高等学校超能力科の試験を無事合格した――――』
鷹夜の話を要約すると、『この高校に合格した優秀な皆さん、身の程を弁えつつ世界の為に頑張りましょう』といった内容をぼかしたものだった。身分を意識した鷹夜の考えかたは、境遇故に個人の実力を重視する零斗には解らないものだった。
その後は偉いおじさん達のつまらない話が始まった為、零斗はまた声BGMにしつつ、意識を舞台からそらした。
なお、『優秀な――』や『今年は和民族が多く――』といった話が多かったようだ。
入学式が終わり、クラスが発表された。と言っても紙が配られただけなのだが。
その紙を見て零斗は呟く。
「もしかして俺が神上家だから1ーAにされたのか? 教師共は入試の成績を見てないのかよ……」
1ーAから1ーFまであるクラスをみると、Aには『神上』『黒羽根』『樹霊』『白狼』『竜王』といった名門(とその奴隷)がならび、Fに至っては全くの無名の苗字がならぶ。
歴代のなかでも特に多くの名門が入ったらしく、教師たちが「『無』の神上、『光』の黒羽根、『地』の樹霊、『風』の白狼、『水』の竜王。和民族でも指折りの名門に教えられて誇らしいな」などと言っており、超能力の使えない零斗としては期待されても困ってしまう。
「大丈夫ですよ、ご主じ……神上さんは頭が良いでしょう」
「龍華ちゃんの言う通りだよ。私は零斗くんを守るのが役目な訳だし、いつも通り頭脳として頑張って」
慣れないのか言い直した龍華と、若干論点がずれているメグの励ましを受けながら、零斗は1ーAにたどり着いた。この先はエリートばかりで零斗としては気後れするが、教室に入らなければなにも始まらない。
「まあ、なんとかなるか」
一言呟き、扉に手をかけ、開いた。