青春ゲーム
「青春っゲーーーム!」
佐田がまた妙なことを言い出した。
喜村は無視して読書を続けるし、逢坂は窓の外を眺めたままだ。そして僕はため息をつく。
授業が終わり、皆は部活やアルバイトで一目散に教室を出て行ったが、帰宅部で目的も目標もない、僕ら四人はクラスで次第に寄り添うようになっていた。
今日も窓際の席で、僕らは時間を持て余す。
「おい山田ぁ、青春ゲームしようぜ」
やべ、からまれた。
「交代で青春っぽいことを言い合うゲームな。例えばそうだな……『河原で殴り合いのケンカ』みたいな? 青春を連想するフレーズで競い合うんだ。ちなみにこれ五点だからな。負けた奴はラーメン代おごりで。はい、スタート!」
二人に助けを祈るが、どちらも目を合わそうとしてくれない。
「じゃあまず俺からな、えーえーえー、『クラス全員の名前が入った文化祭Tシャツ』。どう?」
「四点」
答えたのは喜村だ。相変わらずメガネの奥の視線はハードカバーに向いているが、一応こちらの話に耳を傾けているらしい。
「うはっ、喜村っち、厳しー。じゃあ次、山田で」
「え、僕?」
別に乗り気ってわけじゃないけど。ほら、皆暇だし。久々に生まれた会話を僕の手で終了させてしまうのも忍びないから。
「そ、そうだなー……『下駄箱に入ったラブレター』……とか?」
「二点。つまらない」
姿勢はそのままに目線だけ上がっており、睨まれているようで萎縮してしまう。
「サディスティックだなあ、喜村っちは。じゃあお手本言ってみてよ」
十秒ほど沈黙が流れ、
『コンビニ前でたむろしてガリガリくん』
また十秒言葉が途切れた。
「う、う~ん……なんつーか、シュール?」
「なあ佐田、提案なんだが……もう帰ろうぜ」
佐田は素直に従い、自分の席へカバンを取りに行った。喜村も本にしおりを挟んで閉じ、「トイレ」とだけ呟き、教室を出て行った。
僕も机に出ている教科書をしまい、腰を上げる。
「……ねえ山田」
逢坂が視線を窓の外から僕へと向ける。肩まで伸びた艶やかな黒髪が、ふわりと揺れた。
「『好きだ』」
「……は?」
逢坂は僕をじっと見つめ。
「なあ山田、帰りに本屋寄りたいんだけど」
「山田ぁー。ラーメン食って帰ろうぜー」
いたずらっぽく笑った。