一夜の出会い
鈴虫の音が耳にさわる夜更け。
ゴトッと、戸が開く音で俺は目を覚ました。
目の前には、俺を抱き寄せるように寝る母の顔がある。
彼女の髪は痛んで艶が無く、肌はくすんだ色をし、頬は痩せこけている。
まともな食事すらできないここ最近の生活のせいだった。
一日二食あれば良い方で、たまに一日食べないでいることもあった。
しかし、彼女は母として俺の世話は欠かさなかった。
少しでも栄養を蓄えていたいだろうに、俺のために乳を出した。
出の悪い日は、ひどく悲しい顔をして謝っていたことが頭から離れない。
いつもは温かい微笑みを向けてくれるのに――――――。
ガシャン
皿の落ちた音が闇に響き、俺を現実へ引き戻す。
泥棒でも入ったのだろうか、盗むものもないけど。
とにかく、何かがいる。
ペタペタと動き回る足音は複数。
それに、木の床を軋ませていない。
(…………人じゃない)
おそらくは、小型の獣。
ネズミ、だろうか。
正体はわからないが、足音は徐々に増えていく。
それに加えて、固いものがぶつかり合う音も増えていった。
怖い。
今ここで、何が起きているのか解らない。
それが怖い。
だから、俺は首を回して、音のする方を見た。
(……………………………へ?)
目が自然と見開く。
陶器の欠片、小石、木屑。
ゴミと誰もが思う物が、宴会をしている。
そこにある全てのゴミには手が生え、足が生えていた。
中には目があるもの、口のあるもの、鼻があるもの、耳があるものがある。
彼らは騒がしいくらいに走り回り、手足をせわしなく動かし、身振り手振りで会話しているようだった。
時にぶつかって身を割ってしまった奴もあったが、その欠片に新たな手足が増えてまた動き出した。
まるで、祭りのようだった。
滑稽で、微笑ましく、楽しい祭り。
小さいもの達が踊り、騒ぎ、割れては増えてさらに騒がしくなる。
目の前に光景を怖がった、先の自分が滑稽に思える。
怖いものなんてない。
そう思うと、体を蝕んでいた冷たい感覚が溶けていった。
「きゃっきゃっ」
気が付けば声を上げていた。
彼らが、こちらを振り返る。
そして、世界が凍った。
見つめ合うこと数秒。
隅にいた奴の一匹が、そろりそろりと逃げていく。
あ、こけた。
カシャンと音がして、ほかの全てが動き出す。
彼らは蜘蛛の子散らすように逃げ始める。
ぶつかり合って、割れて、増えている姿も見えた。
しかし、最後には欠片のひとつも無い。
ただ、夜の静けさが残っていた。
昨日は休んでしまってすみませんでした。
風邪が悪化してしまって………
今回やっと、彼らと出会うことができました。
次回からどんどん物語を進めていく予定です。