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日本、異世界転生禄  作者: 安眠丸
第一章 乳児編
1/7

プロローグ

 机の中に、見慣れない便箋があった。

 飾りすぎず、かといって地味ではない淡いピンク色をした便箋。

 封はハートのシールでされ、中の手紙には可愛らしい丸文字が淡々と綴られていた。

 ――――伝えたいことがあります。今日の放課後、屋上で待っています。――――

 一文字一文字よくみると、線が少し震えている。

 緊張して書いたのだろうか。少なくとも、冗談や嘘の類ではないのだと思う。

 頬が少し緩むのが自覚できる。

 

「うひっ」

 

きっと今の俺は人様に見せられない顔になっているだろう。

 踊りだしたくなる手足を押さえ、足早に教室をあとにした。


        ◇ ◇ ◇


 屋上は満天の青空の下、穏やかな陽光に照らされている。

 四月下旬。

 新入生が未だ学校に浮いた存在であるこの時期に、俺の人生に春が来た。

 想えば、苦節十六年。

 中の下の顔に生まれ、女っ気も無く。友人も無く。孤独に生きてきた―――。

小学生の頃から体の小さかった俺はいじめの対象となり、友達なんてできなかった。中学に上がって環境が変わったと思ったら、コミュ障の俺は女子にキモがられ、男子にまで敬遠されるようになった。高校一年の間はできるだけ目立たず、空気の如く過ごし、クラスメイトに名前を覚えてもらえているか不安だ。(近頃は、担任すら俺のことを忘れていることがある。)

 結局、友人なんて一人もできなかった。

 しかし、退屈で、空虚な灰色の日々は今日この日をもって終了だ。

 俺は、この手紙の主と付き合い、この世の春を謳歌するのだから。

 それを想うと鼓動が高鳴る。

 どんな娘だろうか。

 可愛いだろうか、美人だろうか。性格はおとなしいのか、明るいのか。

 何となく、理想の女の子が俺の頭を占めていく―――。


 突然、強い風が吹き髪をひどく乱した。

 ピンク色の妄想から脱すると、屋上の扉が開いていた。

 鼓動がさらに高まり、手汗がひどいことになっている。

 期待を胸に、眼だけで待ち人を探す。


「よぉ、おひさっ」


 思っていたよりも軽いノリの声がした。

 なんとなく、嫌な予感がする。

 声の主は、腰に細いチェーンを巻き、厚い胸?を張り、学生服を着崩している。

 ……もう嫌な予感しかしない。

 鈍色の金髪を風になびかせて奴は言い放つ。


「会いたかったよん、オレの財布ちゃん」


 奴の輝かしい笑顔が、俺の妄想をことごとく砕いた。



  ◇ ◇ ◇


 結局、期待を胸に俺が待っていたのは、小学校でのいじめグループの一人だった。

 笑い話にもならない。

 確かに、あの便箋には「好き」なんてどこにも書かれちゃいなかった。

 ただ、「伝えたいことがある」と書いてあっただけだ。

 バカらしい。

 あぁ、バカらしい。

 考えてみればすぐに分かる事だった。友達一人できないこんな俺に告白が来るわけがない。さっきまでの俺をぶん殴ってやりたい。

 悔しさに、顔を俯けることしかできなかった。


「おいおい、せっかくの再会なんだからもっと喜べよ」


 不愉快な声に瞼が熱くなる。こぶしが小刻みに震える。


「お前、影薄いから見つけんのに苦労したんだぜ」


 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう


「まぁ、いいや。とにかく今日は財布、置いてきな。それで勘弁してやっから」


 なんで俺ばっかり、こんなやつ、ちくしょう、ちくしょう


「おい、その目はなんだ」


 ちくしょう、こんなやつ

 目に力を込めて、抗議する。


「っ、ちょっと見ねえ間に調子に乗りやがって」


 胸元を捕まれ、フェンスに投げられた。

 ガシャンッと鳴って、俺が軽く跳ね返ると蹴りが腹に入った。胃の中のものが口まで戻ってきた。

 俺が崩れる落ちる前に、胸や腹を重点的に痛めつける。

 そのたびに、ガシャンミシガシャンミシとフェンスが鳴る。

 

「ははははは、金さえ出してりゃ痛い目見なくて済んだのにな」


 締めだっと、胸に強烈な蹴りが入る。

 予想に反して、フェンスは小さく鳴った。





 「あ」





 目の前で、気の抜けたような声がした。

 背中の支えを失った俺は、後ろに倒れ、浮遊感を感じ、世界が反転した。

 そして――――――




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