余談「三代目ドアの悲劇」
余談なので本筋とは余り関係はありません。ですが、二人の性格というか性質というか、そんなものが窺える内容となっているはずです。
「ふぅ、疲れたな…。」
もうすぐ新学期に入るので去年の勉強の復習をしていた。
「ちょっと、休憩するかな。」
時間も3時ちょい過ぎの頃合いでいい感じにおやつの時間だ。
「よっと。」
椅子から立ち上がり1階のキッチン兼ダイニングへ行く。
「何かないかな~。」
冷蔵庫を物色してみる。
「お!いいものがあるじゃないか。」
う~んと何々「こだわりの手作りプリン~卵たっぷり使用~」か。なかなか上玉じゃないか。
プリンを持ってソファに座り、プラスチックのスプーンを用意する。
「じゃ、いただきまーす。」
ベリベリベリ~。
「おお。ぷるぷるで且つこの甘い卵のにおい。」
スプーンで掬ってみるとぷるぷると揺れる。なんと魅力的な動きか。
「ん。」
おお、うまい。甘いぞ、そして舌触りが他のプリンと比べられんほどいい。
「これは…うまいな…。」
それから夢中になってプリンを食べる。気が付くと容器は空になっていた。
「ごちそうさま~。」
久々にごちそうだったな。さて、もう少し休んでから、部屋に、も、ど、…る?
何か、すごいプレッシャーを右から感じる。なんだ、あ、足が勝手に震えて…。
見ないといけない。けど、体が見ることを拒否している。でも、見ないと…。
出来の悪いロボットのように首を回して右を見ると…。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!」
なんかゴゴゴゴ言ってる!?
目の前には髪を逆立て、すごい眼力で拳を握り締めている華琳がいた。
「あ、あ……の。」
ゴン!拳を壁にぶつける音。すごい怒ってます。
「ひぃ!ご、ごめ、ごめん、ごめんなさい!」
に、逃げなきゃ!
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!
何で怒っているか分らないけど、今のこいつには話が通じない。
とりあえず、少し落ち着くまで逃げなきゃ!
とりあえず、距離を取る。相手は身長の高い華琳だ。リーチが違う。間にソファを挟んで対峙する。
「……プリン。」
どうやら、華琳のプリンだったらしい。
「ごめん!あとで買いに行くから許して!」
「……プリン。」
「1個とは言わない。3個、4個買ってくるから。」
「……プリン。」
だめだ、完全に極まっちまってる。こいつから逃げるにはどうしたら―――
「プリンッ!!!」
「どわっ!!!」
いきなり左腕が伸びてきて捕まりそうになる。十分距離を空けていたつもりだが、ここは攻撃範囲内らしい。
だが、今の攻撃は無理がある。おかげで華琳はバランスを崩した。今ならいける!
俺は全力で部屋から出る。そして、左側にある玄関へ―――
シュッ!トスッ!…目の前をプラスチックスプーンが横切り壁に刺さる。
「プ!・リ!・ン!」
「ッ!!」
ただのプラスチックスプーンが凶器に変わる瞬間を目にして恐怖に駆られる。思わず尻もちをついてしまった。
玄関はだめだ。扉を開ける前に捕まりジ・エンドだ。距離を十分に空けてからどこかに隠れなくては…。
俺は後ろにある階段へと向かう。階段を一段飛ばしで駆け上がり、2階の自分の部屋へ走る。
バンッ!
部屋のドアを思い切り閉め鍵を掛ける。弾む呼吸を整え、ドアに耳を当て廊下の様子を窺う。
とっ…とっ…とっ…。
静かに、着実に階段を上がってくる華琳。
「…リ…プ…ン……ンプ…ンプリンプリン―――」
うわ言の様にプリンと呟きながら俺を探している。さながらホラーである。
「………………。」
うわ言が聞こえなくなった…。なんだ、どこかに行ったのか?いや、楽観思考は危ない。今のあいつはいつものあいつじゃない。目的を達成するためにはどんなことだってする。
「ここは時間をおいて様子を見るしかないな。」
―――10分経った。相変わらず廊下から音はしない。もう、さすがに居ないだろう。居たとしてもさすがに話ぐらいは通じる筈だ。……通じるよね?
神経を集中させ音がならないように部屋の鍵を開ける。そして、少しドアを開け廊下の様子を―――
「プリン」
「ッッッッッ!!!!!」
バンッ!ガチャッ!ドアを閉め、鍵を掛ける。
目が…目が合った、…あれは…話の通じる相手なのか…開口一言が「プリン」だ。正常じゃない。どれだけあのプリンのこと想ってるんだ。第一あれはもう妹じゃ―――
ゴッ!
「ひっ!」
ドアを叩いてる…。
ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!
いや、そんな音じゃない。もっと重い音だ。きっと何か武器でも持ってるんじゃ。
バコッ!!!!
ドアから素手が出てきました。
「………。」
もうだめだ。ここも時機に陥落してしまうだろう。
バコッ!!!!
ほら、またひとつ穴が開いた。くそっ!何もできずにやられちまうのかよ。
バキッ!!!!
下の方から足も覗いてきやがった。
バキッ!!!!
三代目ドア…済まない。お前が壊されていくのを俺は見ることしかできない。
バキッバキッ!!!!
だが、俺は最後まで抵抗して見せよう。お前がやられた分だけ!
俺は臨戦態勢を取りやつの襲来に備える。
その瞬間、爆発のような衝撃を受けドアは木片となって部屋の中に飛んできた。
小さな木片が飛び、体に当たる。大きな木片を避け、前を見るともうすでに足が伸びていた。
まず、ローが左足に一発。膝が曲がる。そして、ボディに一発。丁度、肝臓あたり。体が前のめりに。最後に、左側頭部にハイキック。一瞬にして3発の攻撃を食らい完全にダウン。しかし、見えたのはハイキックだけであり、他の攻撃は木片か何か重いものが当たったとしか感じなかった。
気が付くとベッドで寝ていた。頭がグラグラする。体がギシギシ軋みを上げる。寝ながら部屋を見ると木片が飛び散ったままだった。ベッドに寝かせるだけの理性があるなら手加減してくれよ。そのあと、また頭がグラグラして寝てしまった。
後日、目撃者の親父の話によると「無言で道場に現れ、サンドバックを叩くだけ叩いたら帰っていった。」らしい。「鬼気迫るものがあった。」と感想を述べている。
華琳はというと…
「~♪」
プリンを食べていた。冷蔵庫の奥に同じやつが一つあったらしい。とても機嫌が良さそうに見え、俺がプリンを食べたことも気にしてないらしいが…正直、怖いので同じのを4つ買ってきてやった。
ドアの悲劇は書くのが楽しいですね♪
何と言うか、これぞコメディー!って感じでわくわくします。
小説を書く人はこんな楽しい気持ちになれるんですね。
でも、私はお仕事じゃないから楽しく書けるのかな?
本当はもっと辛いお仕事だったり…う~ん。
私は趣味の範囲内でいいのかもしれないですね。