表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂は、猫のかたちをして  作者: velvetcondor guild


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/23

第九話 あの日の電話

  第九話 あの日の電話


窓辺で外を眺めていたあきおは、

ふいに胸の奥がざわついた。


(……あの日……美咲は……)


記憶の底から、

あの瞬間がゆっくりと浮かび上がってくる。


---


◆ 事故当日・夕方


美咲は仕事を終え、

いつものようにスマホを開いた。


「あきお、今日は、早く行くと言ってたけど……

そろそろ連絡くれてもいいのに」


軽い気持ちで電話をかけた。


コール音が鳴る。

鳴り続ける。

いつもなら三回で出るのに。


「……あきお?」


不安が胸をかすめたその時、

電話がつながった。


だが──

聞こえてきたのは、

あきおの声ではなかった。


「もしもし、こちら○○病院の者ですが──」


美咲の心臓が止まった。


「……え?

なんで……病院……?」


電話の向こうの声は、

淡々としていた。


「秋尾明生さんの携帯でよろしいですか。

先ほど交通事故で搬送されまして──」


その瞬間、

美咲の世界が音を立てて崩れた。


「え……?

事故……?

あきおが……?

嘘……嘘でしょ……?」


声が震え、

足が勝手に動き出した。


「状態は……非常に厳しい状況で──」


「行きます!!

すぐ行きます!!

待ってて……待っててください!!」


美咲は叫ぶように言い、

電話を切った。


---


◆ 病院へ走る


夜の街を、

美咲は息が切れるほど走った。


信号なんて見えていない。

涙で視界が滲む。


「お願い……お願いだから……

死なないで……

あきお……!」


何度も何度も名前を呼びながら、

ただ走った。


胸が痛い。

呼吸が苦しい。

でも止まれない。


あきおがいない世界なんて、考えられなかった。


---


◆ 病院の受付で


自動ドアが開くと同時に、

美咲は叫んだ。


「秋尾明生さんは!?

どこですか!?

どこにいるんですか!!」


受付の看護師が驚き、

慌てて立ち上がる。


「お、落ち着いてください。

ご家族の方ですか?」


「違います……!

でも……でも……

あきおは……私の……!」


言葉にならない。

涙が止まらない。


看護師は優しく肩に手を置いた。


「……申し訳ありません。

処置室に入られています。

今は……お会いできません」


美咲は崩れ落ちた。


「いや……いやだ……

会わせて……

お願い……!」


声が震え、

喉がつぶれそうだった。


---


◆ 処置室の前で


美咲は壁にもたれ、

震える手で顔を覆った。


「なんで……

なんであきおが……

どうして……!」


涙が床に落ちる。


その時の美咲の姿が、

あきおの胸に深く刻まれている。


自分のために泣いてくれた人。

自分の名前を叫んでくれた人。

自分を失って崩れ落ちた人。


あの日の美咲の涙は、

今もあきおの心を締めつける。


---


◆ 現在の窓辺で


記憶がふっと途切れ、

あきおは窓辺に戻った。


(……美咲……

あんな思いをさせたのに……

今も俺を大事にしてくれてるんだな……)


胸が痛い。

でも温かい。


美咲を守りたい。

もう二度と泣かせたくない。


その思いが、

猫の小さな胸の奥で静かに燃えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ