第八話 思い出のデート
第八話 思い出のデート
窓辺に座り、
ゆっくりと流れる雲を眺めていると、
ふいに胸の奥がざわついた。
(……美咲と、あの時……)
猫の身体の奥底から、
人間だった頃の記憶が静かに浮かび上がってくる。
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◆ 休日の朝、待ち合わせ
駅前のロータリー。
春の風が少し冷たくて、
あきおはポケットに手を突っ込んで立っていた。
「ごめん、待った?」
振り返ると、美咲が走ってきた。
白いブラウスに淡いピンクのカーディガン。
髪が風に揺れて、
その姿を見ただけで胸が温かくなった。
「いや、今来たところ」
本当は10分前からいたけれど、
それは言わない。
美咲は笑って、
あきおの腕にそっと手を添えた。
「今日はね、行きたいところがあるの」
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◆ 公園の散歩道
二人は並んで歩いた。
桜は散り始めていて、
風が吹くたびに花びらが舞った。
「きれいだね」
美咲が言うと、
あきおは横顔を見つめた。
「……うん。
美咲が見てるから、余計にきれいに見える」
美咲は顔を赤くして、
小さく肩を叩いた。
「もう……そういうこと言うの、ずるい」
その仕草が可愛くて、
あきおは思わず笑った。
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◆ ベンチでの会話
公園の奥にあるベンチに座り、
二人はコンビニで買ったコーヒーを飲んだ。
「ねぇ、あきお」
美咲が少し真剣な顔をした。
「私ね、あなたといると……
なんだか安心するの」
あきおは驚いた。
「安心?」
「うん。
仕事で嫌なことがあっても、
あなたと会うと全部どうでもよくなるの。
……不思議だよね」
あきおは、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
「俺もだよ。
美咲といると……
自分がちゃんと“生きてる”って思える」
美咲は照れながらも、
嬉しそうに笑った。
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◆ 小さな喧嘩
そのあと、雑貨屋に寄ったときだった。
美咲が可愛いマグカップを手に取り、
「これ、欲しいなぁ」と言った。
あきおは何気なく言った。
「またマグカップ?
家にいっぱいあるだろ」
美咲は少しむっとした顔をした。
「いいじゃん、可愛いんだから」
「いや、置く場所ないし……」
「……あきおって、たまに冷たいよね」
その言葉に、
あきおは言い返せなくなった。
(あ……やっちゃった)
美咲は店を出て、
少し距離を置いて歩き始めた。
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◆ 仲直り
沈黙のまま歩いていると、
美咲の歩幅が少しずつ遅くなった。
あきおはそっと隣に並び、
小さく言った。
「……ごめん。
美咲が好きなら、それでいいんだよな。
俺、余計なこと言った」
美咲は立ち止まり、
あきおを見上げた。
「……うん。
私も言いすぎた。
ごめんね」
二人は自然と手をつないだ。
その手の温かさが、
今でも忘れられない。
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◆ 帰り道
夕暮れの街を歩きながら、
美咲がぽつりと言った。
「今日ね……
あきおと一緒にいられて、
すごく幸せだった」
あきおは、
その言葉を胸に刻んだ。
「俺も。
美咲といる時間が……
一番好きだよ」
美咲は照れながら笑い、
あきおの腕にそっと寄り添った。
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◆ 現在の窓辺で
記憶がふっと途切れ、
あきおは窓辺に戻ってきた。
(……あの時の美咲、
今も同じように笑ってくれるかな)
胸が締めつけられる。
でも同時に、
あの温かい記憶が
今のあきおを支えていた。
美咲を守りたい。
猫の身体でも、そばにいたい。
その思いだけは、
変わらなかった。




