第四話 猫と朝を迎える
第四話 猫と朝を迎える
朝の光がカーテン越しに差し込む。
美咲はゆっくり目を開けた。
隣には──
丸くなって眠る猫のあきお。
小さな寝息。
規則正しい胸の上下。
その姿を見て、美咲はふっと微笑んだ。
「……おはよう」
あきおは目を開け、
美咲の顔を見上げた。
「……にゃ」
その一声だけで、
美咲の表情が少し柔らかくなる。
人間のあきおだった頃より、
ずっと近くにいられる。
それが嬉しいのか、切ないのか、
あきお自身にもわからなかった。
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◆ 朝ごはんの時間
美咲はキッチンに立ち、
冷蔵庫を開けて言った。
「猫って……何食べるんだろ」
あきおは心の中でツッコんだ。
(いや、俺も知らないよ……)
美咲はスマホで検索しながら、
表に出た、暫くしてコンビニの袋を下げて帰って来た。
買ってきた猫用パウチを皿に出した。
小さなボウルに水ををいれた。
「はい、どうぞ」
あきおは恐る恐る匂いを嗅いだ。
(……意外とうまいな)
美咲はその様子を見て、
少しだけ笑った。
「食べてくれてよかった……」
その声には、
昨夜よりも少しだけ明るさがあった。
美咲は、買ってきた、サンドイッチとアイスティー、お決まりの彼女のメニュー。
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◆ 写真立ての前で
朝食を終えた美咲は、
また写真立ての前に座った。
「……あきお。
今日も会いたいよ」
あきおはそっと近づき、
美咲の膝に前足を置いた。
「にゃ……」
美咲はその頭を撫でながら、
ぽつりと言った。
「あなた……本当に不思議な子だね。
なんだか……あきおに似てる」
あきおの心臓が跳ねた。
(気づくな……でも、気づいてほしい……
どっちなんだよ、俺……)
美咲は続けた。
「……今日、仕事休むね。
一人でいたくないから」
あきおは、美咲の足元に寄り添った。
一人にしない。
絶対に。
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◆ 午後の陽だまり
美咲はソファで本を読み、
あきおはその横で丸くなっていた。
静かな時間。
人間だった頃には、
こんな穏やかな午後を過ごしたことはなかった。
美咲がふと本を閉じて言った。
「ねぇ……あなた、名前つけてもいい?」
あきおは固まった。
(いや、俺、名前あるんだけど……!)
美咲は少し考えて、
優しく微笑んだ。
「……“あき”ってどうかな。
あきおの“あき”。
あなたを見てると……
どうしても思い出しちゃうから」
あきおは胸が熱くなった。
「……にゃ」
それは、
肯定でも否定でもなく、
ただの鳴き声。
でも美咲は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、今日から“あき”ね」
あきおは、
猫として新しい名前をもらった。
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◆ 夜、眠る前に
美咲は布団に入り、
あきお──いや、“あき”はその横に寄り添った。
美咲は小さくつぶやいた。
「……あきお。
あなたがいなくても……
この子がいてくれるから……
なんとか、生きていけるよ」
あきおは、美咲の手に頭を押しつけた。
守る。
この身体でもいい。
美咲が笑えるなら、それでいい。
そう思いながら、
ゆっくりと目を閉じた。




